ナマケモノ殿下と北西諸侯
フォーグラム王国北西部 エヴァンス領よりも北西に位置するこの地域では、険しい山々と厳しい寒さ、手強いモンスター蝕まれている。
ここではワイバーンと呼ばれるドラゴンに似た姿を持つモンスターが多く生息しており、しかし知能は似ても似つかないほど単純で、同じワイバーン以外の生物を見つけては食い殺す。
そしてフォーグラム王国との国境に位置する霊峰リンドブルム、巨大な山脈であり、大陸の最北西に位置するこの山は、天然のダンジョンとなっており、このダンジョンこそが無限にワイバーンを産み出す元凶とされている。
古来より北西部は蛮族とされた自由都市が国を形成しており、それぞれの国でワイバーンへの対象やフォーグラム王国への侵略を行っていた。
しかし、先代王の時代、度重なる侵略行為とワイバーンへの対処を理由についにフォーグラム王国軍が攻め入り、ある都市は恭順を、ある都市は徹底抗戦を行い、自由都市はフォーグラム王国領となった。
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エヴァンス家の屋敷に泊まった次の日、俺とレイ、クリス、アキナは馬車にのり、そして次期領主のクイル様と護衛の方が馬に乗って北西部の領地を尋ねに向かっていた。
ちなみに竜はワイバーンと間違えられて最悪撃ち落とされるため、ジーク達はお留守番である。
馬車の中では俺はレイの隣で足を組んで寝っ転がり、レイはしっかりと座っている。クリスとアキナは隣同士に座っている。
俺用の馬車なため、揺れや振動も少なく馬車の中は土足厳禁で絨毯がひかれている。簡易テーブルもあり、席もソファータイプで柔らかく非常に快適な馬車となっている。
野営することも考えられており、数人であれば馬車の中で寝ることも可能。
ちなみに全部俺がお金をだして作ってもらってオーダーメイドで作ってもらった。移動時間はバカにならないので快適な生活に必要なのだ。
「今から向かうのはどういう町なの?」
北西諸侯の事情など全く知らないアキナは当然の疑問をもつ。
「はいアキナさん、いい質問です!今から向かうのはカスタム領です!先の戦争でもエヴァンス領とは仲がよく、他の都市の説得や戦争へも助力してくれました。」
レイや俺が説明する前に、一生懸命勉強してきたであろうクリスが、かけてもいないメガネをイジる真似をし、まるで教師のように答える。フフンと自信満々だ。
「はいクリス先生!なんで協力的だったんですか?」
アキナもノッて生徒役に徹し、手を挙げて質問をする。
「えっと、なんかロバート様と仲がよかったって聞きましたけど、シン様ご存知です?」
はやくも教師スタイルは終了し、質問がとんでくる。
まぁあんなこと文献に残すわけにもいかないし、クリスが知らないのもしょうがない。でも俺の口から言うわけにもいかないしなぁ、と思い頭をあげてレイの方を見ると目が合った。
「レディの口から言わせないで、シン」
はぁ、頭をかきながら寝転んだまま答える。
「ロバート様の愛人なんだって、カスタムの市長さん、当時、そして今でも」
「「えええええ」」
クリスとアキナは手に当てて一様に驚いている。
「元々ロバート様は北西部で冒険者として活躍していて、まぁかなり性に奔放な人で色んなところに現地妻がいたらしい。」
レイは頭が痛そうに頭に手を当てて俯き、クリスとアキナはまだ固まったまま。
「だから今日は北西部の現地妻を屋敷に呼んでハーレム状態してるはず。だからカスタム領、子爵だっけ?カスタム子爵様はそんなに反対してないはず。最近ロバート様が忙しくて相手できてないから拗ねてるんでしょ。」
完全に固まってしまったクリスとアキナに呆れているとレイが頭を撫でてくる。
「シンは自分のことになると朴念仁なのに、他の人のことだとしっかりしてるよね。」
「朴念仁なんかじゃないよ、一応、レイの好意は気づいてるつもりだけど」
慣れないことを言ってるので耳まで真っ赤になった自覚がある。
「私のことじゃない、会わない間に2人も可愛い子連れてきたのにもう」
いつもの無表情ではなく、少しだけムッとした表情でレイが答える。
私のことじゃないまでは聞こえたけど、それ以降は小さくて聞こえなかった。
そうこうしているうちにクリスとアキナが再起動し、俺はロバート様の女性遍歴について質問攻めにあってしまった。
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何日か野営や近くの街で泊まったりしてカスタムの町に到着した。
ある程度の簡易的な柵に仰々しく並んだバリスタ、各家の屋根に当たり前のように設置されたバリスタが、この町がいかにワイバーンの脅威に晒されていたのかを物語っていた。
「お初にお目にかかります。私、カスタムの町、カスタム領の代理領主のミリと申します。ただいま領主がエヴァンス領へ出ているため、私が対応させていただきます。」
若い女性の方が代表として出迎えてくれ、俺達とクイル様に挨拶をしてくれる。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。」
礼に対してはしっかりと礼で返し、早速本題に入る。
「早速本題に入らせていただきます。私の兄テンセイが此度の王位継承戦にて次期国王に立候補予定となっております。それに伴いエヴァンス家がテンセイへの支援を約束しているので、カスタム領も支援をしてくれないかと思い訪問させていただきました。」
礼をしてしっかりと説明を行う。もちろんミリさんも把握済みだろう。
「つまりよ、北西部トップのエヴァンスの雷神様がつくって言ってるのになんでおまえら反対してんだよってはなしだろ?」
ミリさんの後ろからガラの悪い連中が10人ほどゾロゾロとでてくる。
恐らく反対派の中核、武闘派ってところかな?
「俺達はワイバーンと戦うために手を組んだんだよ、しかも雷神にな、おまえみたいなナマケモノとそこの雷神のなり損ないと手を組んだわけじゃねぇ」
ガラの悪い奴らは気色悪い笑い声をあげ俺たちを挑発してくる。
「あっ、あなた達、やめなさい!フォーグラム王国の王子様相手ですよ!」
ミリさんが必死に止めようとするがガラの悪い奴らは全く意に返さず俺たちに近づこうとする。
「おっ、かわいいねぇちゃんじゃねーか、1人ぐらいくれよ、こんな貴族の坊ちゃんより俺の方がすげぇぞ」
1人の男がクリスの肩に手をかけようとした瞬間、その手をアキナが払った。
アキナが払った男の手はとんでもない勢いで弾かれ、手が吹き飛んだかのように錯覚した男が悲鳴をあげていた。
「てめぇ何しやがる!腕が抜けたぞ」
吹き飛ばされた腕を押さえながらアキナに凄む男。
「あら、公爵様のご令嬢に許可もなく肩に手をかけようだなんて、一歩間違えればそのまま死刑よ、手も残ってるんだし、脱臼ぐらい我慢しなさい。」
両手を腰につけて偉そうに胸をはるアキナはえっへんとでも言いたげだ。
「このアマブチ殺してやる、おいお前ら!」
声をあげて仲間を集める男達、しかし後ろの3人はすでにクイル様にぶちのめされていた。
「俺に向かって雷神のなりそこないと言ったんだ、覚悟は出来てるんだろ?」
大剣を肩に担ぎ、睨みを効かせる。
「クソが、おい勤王党、全員でこいつらを袋にしろ!」
そういうと街のあちこちから腕自慢が集まりクイル様とこっちに向かってきた。
「はぁ、ほい、全方位結界」
レイ、クリス、アキナ、それをミリさんを範囲に入れて結界をはる。いつもより大きくしてるから移動は出来ないけどこの程度の相手に破られることはないな。
「よし、大丈夫そうですね!ではミリ様、話をすすめましょうか!」
クリスが手を合わせてパチンと音を出し、ミリさんに提案する。
この状況に即座に対応するあたりクリスは凄い。
俺は携帯している簡易椅子をだしてミリさんを座らせた。
「クリス、そっちは任せる、よろしく」
レイはそういうと氷で椅子を作り出しクリスを座らせる。
「じゃあ内政の話はクリス先生に任せて、俺たちは少しクイル様の援護でもしながら眺めておこうか。」
「クリス先生よろしくー」
「いっぱい勉強してきたんです、任せてくだ!」
いつかの教師と先生ノリをだして応援する俺とアキナ、クリスもサムズアップして期待に応えるべくミリさんとの打ち合わせを始める。
「あんまりやりすぎるとクイル様に怒られるからこっちを狙う人だけにしようか」
クイル様は2.30人を相手に大剣と魔法を振り回して大立ち回りをしていた。もちろん峰打ち、のはず。
数人が俺の結界を割に来ているため、ちょっとやそっとじゃ割れないけどちゃんと魔法で迎撃してあげる、レイとアキナがね。
「アイスランス×5」
俺の結界を通してレイが魔法を発動すると結界の外側から魔法がとびだす。そのまま結界に攻撃を加えるガラの悪い連中を複数のアイスランスを一気に吹き飛ばしていく。
「新技だよー、ウォーターボール」
アキナのとんでもない量の大きな水の弾が結界から放たれ、3人ほどが流されてしまい、当たりが水浸しになる。
アキナの魔法力をよくしらない人達は全員ドン引きしてしまっている。
「シンさん、大丈夫かな?死んでない?」
「うーん、でもこの国の王子や侯爵家の跡取り、公爵家のご令嬢に弓引いてるんでしょ?死んでも大丈夫でしょ!」
魔法を放したあと、あまりの威力にアキナ本人もドン引きしている。
大丈夫、弓を引いたのは向こうだからね。
「えっ、でもそれなら北西部を管理しているエヴァンス家と縁の深いシンセイ様のいる第三皇子派についた方がよろしいのでは?」
「しかしドミニク王女は当領の他にも北西部への支援をお約束してくれました。」
クリスとミリさんの方を見るとクリスとミリさんが言い争っている。ちなみにドミニクってのは姉、長女なんだけど、まぁ耳障りのいいセリフは上手だからなぁ。
「失礼ですが、ドミニク様が仮に王になったあと、北西部を支援するメリットはなんでしょうか?」
いつになく真剣な表情のクリスが説得を続ける。
普段は可愛い系のクリスがこれほど真剣な表情を作るとそれだけで説得力が増す。
「いくらワイバーンに荒らされてもワイバーンではエヴァンス領は抜けない、それなら王都は支援するメリットほとんどないですよね?ドミニク様の親戚や縁者はおらず、王都にも危険はない、税収もなく特産品等もない北西部、切り捨てられるのでは?」
ミリさんか青ざめた顔をしているとそこに隙を見つけたようにクリスは笑顔になる。
「しかし第三皇子派なら、見捨てることはしません。何故なら第三皇子テンセイ様の最大の支援者である第四皇子シンセイ様は、エヴァンス家の御長女、氷笑姫レイチェル様の婚約者です。しかもお2人は学生時代から愛を育んでいます。2人の出会いは、、、」
俺はそんなことまで教えた覚えはないのだが、本人の目の前で有る事無い事喋っていかにラブラブかを伝えている。アキナやレイには聞こえていないが、話を聞いてしまった俺と、真剣にボーイミーツガールを聞かされているミリさんは顔まで真っ赤になっている。
「もう結構です、そろそろシンセイ様が限界を迎えそうです。そこまでレイチェル様のことを思っているなら北西部は大切にしてくれそうですね。」
俺が恥ずかしさの限界で爆発しそうになっているとミリさんが中断してくれた。
交渉もうまく進みそうだね。俺とレイは何かを失った気がするけどよかったよかった。
そのままクイル様がほとんどを薙ぎ倒し、クリスの説得が成功してカスタムの町は無事協力してくれることになった。
勤王党とかいう奴らは何人かはクイル様に弟子入りし、3人ほどがアキナとレイに姐さんと言って寄ってきていた。
本当に迷惑なので3時間ぐらい破れない結界に入れておいた。
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そんなこんなでカスタム町だけでなく反対していた他の4領も協力してくれることになった。
どこも考えてることは同じらしい、雷神だから従ってたけどその子供やナマケモノ殿下は楽勝みたいな反応でクイル様にボコされ。他の王子や王女はもっと支援をと言っていた人達はクリスに説得(恋バナ)されていた。
ちなみにクイル様は日頃ロバート様にボコボコにされてるストレス解消になって毎日ご機嫌だった。
めんどくさかった領地巡りも次の辺境伯のところで終わりだな。
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この何ヶ月か後、北西部では「氷のお姫様」という話が流行った。後に有名な劇団により舞台化され、王国全土で人気を博すのだが、全てクリスティーナが勝手に許可を出し検閲していたため、シンセイとレイチェルが気づくのは招待された舞台を観てからだった。
クリスティーナはテンセイ派です。というよりシンセイ派です。
その代わりクリスティーナの兄であるユリウスがガイエス兄派なのでフォーグラム家自体はどっちにつくか決めきれていません。(ユリウスが時期当主だけどクリスの方が頭いいため)




