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ナマケモノ殿下と低学年時代

申し訳ございません、第3章の1話に間違って2話を投稿しており、同じ話を二つ投稿しておりました。現在は修正しています。(8月31日22:40現在)

いつも通り内容はありませんが、是非読みなおしていただけると嬉しいです

 幼少期の記憶

「凄いね勇者って、攻撃も防御も最強だったんだって」

 お母さんが絵本を読んでくれているのを、テンと2人で聞いている。テンは勇者が大好きでいつも勇者になりたいと言っている。


「でも勇者って他の場所からきた英雄なんでしょ?僕らじゃなれないんじゃない?」

 人は英雄にはなれない、誰でも知ってる話、それは王族でも常識だった。それは幼い俺も知っている話、当然の疑問

 でもそれを聞いたお母さんの意見は違った。テンと2人で頑張るきっかけになったこの話はよく覚えてる。


「でも、2人でならなれるんじゃない?攻撃はテンが、防御はシンが、2人で勇者になれないかな?」

 お母さんは 何も疑うことなく真剣に話した、まるで2人でなら不可能はないと言いたげだった。

 その思いは幼い俺たちにも確かに届いた、そして出来る気がしてたまらなかった。


「そうだね、僕が攻撃するからシンはいっぱい守って!」

「わかった、テンのことは僕が守るから、いっぱいテンは攻撃してね!」

 絵本を読んでいる時の何気ない会話、何歳の頃か忘れたけど、2人でハッキリと覚えてる記憶。


 この日から攻撃はテンセイ、防御はシンセイになった。



 ---


 ドォォォン!


 エヴァンス家の裏庭、裏庭というには広すぎる裏庭に当たり前のように雷が落ちる。

 そこでシンセイは久しぶりに命の危機を感じていた。


「クソ親父が、殺す気かよ!」

 身体中黒焦げになったクイル様がなおも立ち上がって雷神ロバート様に立ち向かって行った。

 

「ガッハッハッハ、命の危機がなきゃ訓練にならん、ほらほら次行くぞ」

 ロバート様は右手にもった馬鹿でかい大剣でクイル様の大剣を捌き、残った左手からとんでもない威力の雷魔法と飛ばしてくる。

 

「くっそ、たった1人で三重結界を壊すなんて、ほんとに人間かよ」

 渾身の力を込めて作り出した三重結界はロバート様の雷魔法と大剣を組み合わせたとんでもない威力の一撃で破壊されていた。


「ガッハッハッハ、クイル、こんなんじゃわしのあとは継げんぞ!」

 片手で悠々とクイル様の猛攻を防ぎ、隙をみて魔力を大剣に込める。魔法剣、魔法と剣をともに極めたもののみが使用できる大技である。

 剣士同士の戦いで発動することはほぼ不可能に近く、それをクイル様ほどの実力を持つ剣士相手に発動すること自体奇跡の所業であった。

 しかし雷神ロバート様は意図も簡単にやってのける。


 その剣を一振りするだけでクイル様は吹き飛ばされてしまう。


「シンセイ君、大丈夫だぞ、とっておきを使って。認識阻害の結界を張っておるからの、わしら意外にバレることはない。」

 魔法剣を維持したままゆっくり歩いてこちらへ向かってくる


「それとももう終わりか?レイを嫁にやるのは失敗したかのぅ?」

 片手ですりすり触りながら、冗談めいた顔で剣を振り上げる。


「シンセイ君、我が義息子よ、死ぬなよ」

 振り上げた剣から一本の光が空へ伸びる

 瞬間、曇り空はとてつもない量の雷を帯び、瞬く間に物凄い大きさの積乱雲が形成される。


「トールハンマーーーー」

 ロバート様が剣を振り下ろすと同時に積乱雲が圧出され1つの巨大な雷となり、俺を襲った。


「くっそ、成功してくれ、四重結界!」


 ---


 学校に入学して半年、校内では同年代を集めた模擬戦が行われていた。


「おいおい、これすげぇぞ、低学年のレベルかよ」

「どっちが勝つんだよ、剣が見えねぇぞ」


 模擬戦の会場では低学年の部で全勝同士の対決があっていた。もちろん俺は観客席で観戦中だ。


「はあああ!」

 対決中の片方、テンは歳の割に長身の剣をもって猛攻を仕掛ける。


 対決中のもう片方、レイは細身の剣でテンの猛攻をいなしていた。


「アイスランス」

「ファイヤーボール」

 猛攻を防ぎながらレイが魔法を使う、それに合わせてテンも魔法で対抗する、もちろん剣での攻撃を行いながら。

 高学年の部でも珍しい、剣で戦いながらの魔法発動、この2人は当たり前のようにそれを行い、お互いに相殺し合っていた。


 カァン!


 片方の剣が飛び、決着がつく。

 30分にも及ぶ互角の試合は、僅差でテンの勝利となった。


「テン、お疲れ様、ギリギリだったね」

「うん、本当にギリギリだった、さすがエヴァンス家のお姫様だったね。次はどうなるかわからないや」

 テンにタオルを持っていくと、本当に全てを尽くしてギリギリ勝ったという安堵感を持ったテンと、無表情なのにとても悔しそうにこちらを見つめてくるレイが印象的だった。



 次の日、俺はレイと対戦することになった。


「シンセイ、あなたは何故本気をださないの?」

 対戦を明日に控えた放課後、俺はレイに呼び止められた。


「いつも本気ですよ。ただ本当に攻撃が苦手なんです。」

「違う、攻撃が苦手なんじゃない、攻撃を全く練習していない。どうして?」

 肩をすくめて精一杯やっているアピールをする俺に対して、レイは無表情で、しかし真剣な声で聞いてくる。


 困った表情をする俺に対してレイはこう提案する


「なら明日、私がもし貴方に勝てたら教えて、もし貴方が勝ったら、なんでも1つ、疑問に答える」

「僕が勝つことはないよ、知ってるでしょ、まだ0勝なんだ」

 少し呆れた感じで、でも当然知ってるかのように答える。この頃にはもう、全勝のテン、全敗のシンとして比べられていたからだ。


「知ってる、でもどれも時間切れ、判定で貴方が負けた言われているだけ、傷は全く追ってないし、ほとんど息も切らしていないのに。私は時間切れじゃなくてちゃんと貴方に勝つ。」

 そう強引に言い放つ彼女に、普段から卑怯だと、守ってばかりだと言われている俺は、真剣に向き合ってもらった気になって少し嬉しかった。


「じゃあレイチェルさん、また明日ね」

 少しだけ楽しみな自分がいた。



「アイスランス、アイスウォール」

 レイは少し笑いながら、とても楽しそうに俺に猛攻を加える。

 レイの魔法を防御結界で防ぎ、剣を捌き、剣と魔法のコンビネーションをこちらも防御結界と剣で防ぎながら。

 レイは踊るように攻撃をしてきた。

 兄弟だからという理由でテンと対戦できない、とてもつまらない時間、ドキドキも何もない模擬戦の時間が、レイとの対戦だけはとても楽しかった。

 レイの攻撃を防いでるだけなのに、俺も踊ってるような気さえした。


「時間切れ、判定でレイチェルの勝利」

 楽しい時間はすぐに終わってしまった。いつも通り俺の判定負け。

 でも初めての試合が終わった後は怖かった、レイの方を見たら怒ってるんじゃないかって、楽しかったのは俺だけなんじゃないかって。


「シンセイ、思ってるみたいでとっても楽しかった、次は私が勝つ」

 無表情ではあるが、確かに上機嫌に見えた。

 楽しかったのは俺だけじゃなかったんだ、踊ってるみたいって感じたのはレイも同じだったんだ。


「レイチェルさん、僕も踊ってるみたいで楽しかった、また次も防いで見せるよ」

 そう言ってレイとの対戦を終わると、テンがタオルを持ってくる。

 

「シンが次の約束をするって珍しいね、やっぱり楽しかったの?」

「うん、同年代の子との模擬戦はテン以外楽しくないと思ってたけど、とっても楽しかったよ」


 その後も何度か対戦して、お互いとって一度も負けなかったけど、一度も勝てなかった、そんな模擬戦が続いた。



「シン、そろそろ教えてくれない?なんで防御ばかり鍛えてるか」

「え?」

 よく模擬戦をするようになってから一年近くが経ったある日の放課後、レイチェルは話しかけてくれた。あまり模擬戦の前後以外で話すことはなかったし、もう忘れてると思ってたけど、もう少し話しだけ話をしたかった、そんな気分だった。


「うーん、ちょっと恥ずかしいんだけど、笑わないって約束できる?」

「だいたいの予想はついてるけど、わかった、ちゃんと聞く、だから教えて」

 テンに目配せをすると、察したのかすぐに教室を後にした。人気者のテンが帰ると大体の人は教室から出て行く、しばらくすると教室には2人だけだった。


「ほんとに笑わないでよ。」

「うん、約束する」

 レイチェルは無表情ではあるが、真剣な気がする顔で約束してくれた。

 

「テンと昔約束したんだ、2人で勇者になろうって。」

「どういうこと?」


「俺たちは英雄じゃないから、1人じゃ勇者になれないけど、2人でなら勇者になれるんじゃないかなって。攻撃はテンが極めて、防御は俺が極める。これで、2人で1人の勇者を目指そうって話したんだ!だから俺は防御ばっかり研究するし、テンは攻撃ばっかり研究してるの!」

 少し自分の世界に入りながら理由を説明し、途端に恥ずかしくなる。

 でもレイはちゃんと答えてくれた、真剣に、茶化すことなく。


「凄い、お互いがお互いを信頼し合ってる、こんなに完全に分業は出来ない、私も、2人を応援する」


 お母さんとユウ爺達以外に初めて理解された2人の夢、それも同年代の子に。

 ちょっとだけ、とっても嬉しかった。


 この日から、どんどんレイと話すようになった気がする。

 


 

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