【外伝】アキナとナマケモ殿下
「危ない!」
咄嗟だった、勝手に身体が動いた。
公園から飛び出してきたボールを追うように女の子が出てくる。そんな、知りもしない女の子を助けるためだけに私の身体は動いた、動いてしまった。
気づいたら私は病院のベッドで寝ていた、病院のベッドで寝ている私を見ていた。
死んだんだ、見ず知らずの女の子を助けるために私は死んだんだ。
私に両親はいないし、友達が何人か泣いてくれるだけだろう、唯一の肉親だったおじいちゃんとおばあちゃんもこの前亡くなってしまった。
だから不思議と後悔はなかった、私は私がやりたい事が出来たんだって。
そんなことを思っていると不思議な声が聞こえてきた。
「おめでとうございます!」
おめでとうございます?
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私の名前はアキナ、苗字はどうだっていい、私を捨てた母親も、物心つくまえに死んでしまった父親も知らないから、苗字は嫌いだ。
去年までおじいちゃんとおばあちゃんと暮らしてたけど、おばあちゃんが亡くなってからおじいちゃんもすぐに亡くなって、私1人になってしまった。
学校で新しく出来た友達と下校中に、公園から飛び出した女の子を助けるために死んだ、それが私。
そこから先はよく覚えてない。
なんだけも、顔をよく思い出せない女の人が、生きたまま異世界へ送ってくれたらしい。制服のままで、持ち物はなんにもない。
死んだばっかりだから全然覚えてない。
私は気づくと森の中にいた。
広く開けた安全そうな場所、何をしたらいいか、何にもわからなかった。
そのうち周りは慌ただしくなっていき、遠くから女の人の声で男の人達に何か指示を出して感じの声が聞こえてきた。
私はその声を聞いて、逃げ出した。
何か怒って指示を出しているようだった、でも怖かった、とっても怖かった、だって言葉が何一つわからなかった。
逃げ出してしまった、広く開けたその場所から。
一生懸命走った、何かを目指したわけじゃないけど、とにかく逃げ出したかった。
何が起きたか全然わからなかった、友達と学校帰りに女の子を助けたら死んでしまった、謎の女におめでとうと言われて、気がついたら言葉が伝わらない森の中。
何をしているのか分からなかったけど、とにかく走りたかった。
そして見つかった、大きな犬のような、狼のような動物に見つかった。
狼は牙をだし、明らかに私を威嚇していた。
心臓が大きな音をだしている、狼と見つめ合いながら少しずつ後ずさる。刺激しないように、敵じゃないとわかるように、自然と私の身体はそういう動きを取っていた。
でも、そんな時間は長く続かなかった。
痺れを切らした狼は私に向かって大きく飛びついてきた。
目を瞑り、一生懸命に手で狼を払おうとした。
「キャッ」
手に狼が当たった、びっくりしたのか狼は少し下がった。
何度も飛びつかれたけど運よく私に怪我はなかった。
とにかく運がよかった、次こそダメだと何回も思ったけど、怪我はしなかった。
木の影から大きな男が出てきた。
筋骨隆々で大柄、白髪に白髭を蓄えた大男。頑固な職人、そんな言葉が似合う人が出てきた。
職人さんが手に持ったツルハシのようなものを大きく振り上げて、モンスターに振り下ろした。
グシャア
狼はすぐに狼だったものに変わった。
「ありがとうございます。」
頭を下げて、しっかりとお礼をした。
職人さんは怖い人にしか見えない、それでも何故か変な安心感があった、ちょっとだけおじいちゃんに似ていたかも知れない。
「◯×△◯◯△××qazwsx」
職人さんは優しい顔で私に喋りかけてきたが、言葉は分からなかった。
私が落ち込む顔を見せるまえに、職人さんがとても困った顔をしていた。
とっても怖そうな顔の大男が、私を安心させるように似合わない笑顔を作ったり、慌てた顔をしている。
それがなんだか面白くて、私の不安だったり、心配だったり、そういうのは全部吹き飛んでしまった。
とりあえずこの職人さんについて行こう。
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職人さんに連れられて家に入ると、奥さんと息子さんが迎えてくれた。
言葉は伝わらなかったけど、2人とも優しくしてくれた。奥さんはなんとか身振り手振りで話を伝えてくれた、ヤヤさんという方らしい。
その日から家に泊めてもらうことになった。
ユウ爺さんもジェイドさんも優しいし、ヤヤさんは私にとてもよくしてくれた。私が寝るまでずっと側にいてくれたし、言葉が伝わらなくてもコミュニケーションがとれた。
久しぶりに誰かと一緒に暮らせた、そんな気がする。
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それから
3日ほど経った日、職人さんが王子様を連れてきた。
王子様?は綺麗な服を見事に着崩していたし、目も暗く、とてもめんどくさそうにしていた。
でもそれはすぐに終わった。
ヤヤさんが私に話をするように即した、言葉は伝わらなくてもなんとなくわかった。
「あっ、私の言葉、なんて言ってるかわかりますか?」
王子様の目が急に輝き出した、キラキラとしたオーラを出してユウ爺さんに話しかけている。
「ワタシノナマエワ、シンセイ デス、アマリシャベレナイデス、キクコトワデキマス。」
話がわかった、凄いカタコトでも、なんかおかしいイントネーションでも、話がわかった!
すごく不安だった、まだ1日しか経ってないけど、女の子を助けて、死んで、それから変な女の人に連れてこられて、話もわからなくて、狼に襲われて、助けてもらって、でも言葉は伝わらなくて。
ユウ爺さんやヤヤさん、ジェイドさんは優しかったから忘れていた、死んでしまったという気持ち、言葉が伝わらないという恐怖、この世界で不安という気持ちを忘れていた。
言葉が伝わったことで思い出した、不安を、寂しさを、恐怖を。
そしてその全てとは言わないけど、私の問題が、不安が解消されるのだと感じた。
「私の名前はアキナです。◯◯語がわかる方がいてよかったです。」
泣いてしまった。ヤヤさんに抱きつきながら泣いてしまった。
ヤヤさんも私を抱きしめて泣いている。間接的にでも、これで話ができる、私の言葉伝わる、みんなの言葉も伝わるんだ。
私の異世界生活がスタートした。
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それからシンセイさんは私のわかる言語で書かれた本を持ってきてくれた。
これで私はこの世界についてだいたいわかるようになったし、暇じゃなくなった。
シンセイさんは毎日のように遊びにきてくれた。喫茶店に連れて行ってくれたり、ヤヤさんと3人で買い物も行った。
シンセイさんはどんどん上手になっていった。シンセイさんも心なしか私と喋るのが楽しそうだ。
そんなある日、街を歩いていると大急ぎで馬車が道を通っていた。急いでいる馬車は道の先で遊んでいる子供に気づくことなく、そのまま通り過ぎるところだった。
「っく、危ない!」
声はすぐに出た、でも死んだ時の記憶から、私は少し躊躇してしまった。
そんな私を気にすることなく、シンセイさんは子供を助けるために飛び込んでいった。
ガッシャーン
馬車は子供を庇ったシンセイさんにつっこんで、体制を崩して倒れた。
シンセイさんや子供は不思議な文字がかかれた陣に包まれて無事だった、馬車も倒れはしたが、思ったより損傷していなかった。
馬車から出てきた貴族の人がシンセイさんに文句を言っていた、何を言ってるかわからないが失礼なことを言っているのだろう、でもシンセイさんが助けた子供はいつの間にかいなくなっていた。
シンセイさんはとてもめんどくさそうに話をしているが、私に大して手を上げて目配せをして、来なくていいと合図している。
しばらくすると疲れた様子で戻ってきた。
「大丈夫だったんですか?」
「だいじょうぶ、おれがこけたことにした、こどものせいってなるともっとめんどくさいからね」
ニコニコしながら答えてくれた、子供を庇ったのがバレなかったのが余程嬉しいようだ。この国の貴族と平民は、物語で読んだような身分の違いがあるから、とても面倒になるらしい。
私が気にしたのは子供じゃなくてシンセイさんだったんだけどね。
「いや、シンセイさんは大丈夫なんですか?」
「いや、めんどうだった、でもいちおうこのくにのおうじをひいてあのたいどはひどいよね。」
怪我じゃなくて対応のことを気にする、全然痛くなかったのかな?もしかしたらシンセイさんちょっと凄い人なのかも。というかそもそも王子様だし。
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シンセイさん、いや、シンさん。それとユウ爺さん、ジェイドさんからのプレゼントで翻訳のためのネックレスをくれた。
このネックレスのおかげでシンさん以外ともいっぱいおしゃべりできた。お買い物だってできた。
そのあとも色々あってシンさんは私の住民票とユウ爺さんの養子という身元証明を用意して、王城に帰ることになった。
私は引き続き魔法の訓練をする、とっても凄い魔力があるらしいし、ユウ爺さんやヤヤさん、ジェイドさん、そしてシンさんに恩返しをしたい。
アールさんに聞いたところ、シンさんはお抱えの戦力、私兵っていうのかな?それが全然ないらしい。
だからこのまま魔法の練習をしてそこに立候補するつもり、そしたらずっといられるし、恩返しもできる。
言葉が繋がらなくて困ってる私を助けてくれた。2人で街を歩いてる時に見かけた困ってる子供は助ける。一般的な女の子がよく夢見る、私を助けてくれる王子様。
とはちょっと違ってめんどくさがり屋だけど、困ってる人はほっとけない優しい王子様だったシンさん。
待っててね、次は私が助ける版だよ!
一旦2章はここまでになります。
3章の構成もあるため、すぐに投稿できたらと思っています。
次からやっと色々動きだします。




