2章エピローグ
フォーグラム王国 広大な土地と高い軍事力、そして血塗られた歴史をもつこの国では、生まれた順という不確かものではなく、もっとも優れたものが王になるという精神のもと、世代毎に大きな後継者争いが行われている。
後継者争いは王の発表の元、期間を決めて行われるものであり、その間に兄弟で協力や貴族を味方につけ勢力を増やしたり、戦で功績をあげて王や民に認められる必要がある。
さらに後継者争いは他国でも有名で、後継者争いに乗じて攻める国や、王子や王女に先んじて同盟を組むことで関係性の強化を狙うなど、ルール無用の兄弟喧嘩となっていた。
シンセイ達の世代も例外ではなく、いつから後継者争いが正式に開始されるのか。どの王子や王女が立候補するのか、しばしば話題になるのであった。
そんな大きな陰謀が渦巻くこの国で、第三王子のテンセイと、第四王子のシンセイという双子の王子2人が、王への謁見の準備を行っていた。
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「ダメだよシン、どうせ父上にはバレる、正直に言おう」
キラキラとしたオーラを出しながら俺が一生懸命考えた言い訳を一蹴し、優雅にお茶を口にするのは俺の双子の兄。
フォーグラム王国の第三王子、イケメン王子とも呼ばれるテンセイ=コウエンジ=アーヴィンだ。
「いやどうせバレるのはバレると思う、でも父上にも体裁ってのがあるじゃん、俺たちである程度言い訳を作ってくれないと、目もつぶってくれないんじゃないかな?」
何を話しているのかというと、ユウ爺が拾ってきた転移者、おそらく英雄としての素質を持つアキナさんについてである。
ユウ爺から受けている注文は2つ。
・アキナさんをユウ爺達の養子として迎え、王国民としての権利を与えること。
・アキナさんが自由に暮らせるよう、転移者であることは秘密にすること。
大きな問題があり、そもそもアキナさんは16歳で立派な成人であるにもかかわらず、出自が不明で急にユウ爺が拾ってきた人間である。
転移者であることを隠し通したとしても、他国のスパイ、魔族の生き残り等の疑惑がたってしまう非常にデリケートな存在になる。
俺が用意した言い訳は「本当は10年ぐらい前に孤児を拾っていたのだが、王国への申請を忘れていたため今になってしまった。」
我ながらひどい言い訳である。
「なるほどね、絶対にバレると思うけど、あえてバレる言い訳を持っていくことで、この件は黙ってて欲しい感をだすわけだね。しょうがないか、これでいってみよう。」
「父上のことだから、あんまり上手な言い訳を持っていくと逆に怒ると思うんだ、それよりも体裁と割り切って持って行って、内緒でちゃんとした理由を話そう」
気合を入れてお茶を飲み干し、最後のクッキーをほおばったところでアールから話があった。
「坊ちゃんら、時間ですぜ、とっとと話つけましょうや」
「アールは気楽だよね、自分が言うわけじゃないから」
テンが席を立ちながら羨ましそうな顔をする。
「アールの助命するときは俺もテンもあんなに頭下げてお願いしたのに、酷い奴だよ」
「あー、はいはい、だから文句も言わずに頑張ってるでしょうが、ほらほらいきますよ」
ばつの悪そうなアールに連れられて、俺とテンは王城の中央に位置する玉座の間へ向かう。
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「さて、テンセイ、シンセイ、お前たち2人を呼んだのはほかでもない、私相手にわがままを通したいそうだな」
玉座に腰をかけ、圧倒的なオーラを放ちながら父上、すなわち、この国の王様、ニコラス=ケンリス=アーヴィンが言葉を放つ。
短めの金髪を綺麗にオールバックにし、少しだけ伸ばした髭を蓄えた2m近い巨躯を持ち、赤と白を基調として派手な服に身を包み、見ただけで人が逃げ出してしまうような目を持っている。
周りには宰相や親衛隊、執事長、メイド長などが控え、とても親子の会話ではない。
「ハッ、人を1人、フォーグラム王国の民として市民権を与え、身元の保証をいただきたいと思っております。」
イケメンオーラそのままに片膝を付け、顔を上げることなくテンセイが直訴する。
「民にするのは構わぬ、我が国はくるものは拒まぬ、しかしどういった事情があって身元の保証が欲しいとする」
父上は少しだけ眉を動かし、それでも表情を変えずに俺のほうを見る。
「それは私から、父上もご存じである私の師匠ユーリス=ギベオンがある人物を養子に迎えたいと話しております。どうにも10年ほど前に孤児を拾っていたのだが、養子にするための申請を忘れていたため、16歳の誕生日を迎えこのタイミングで市民権と、ユーリスの養子であるという保証が欲しいという話です。」
「ハッハッハッハッハ、わけのわからん言い訳を持って来よって、面白いではないか、その養子は我が国に仇なすようなものではないのだな?」
大笑いをするが、目は完全には笑っておらず、例え我が子であろうとも殺してしまわんとするような鋭い視線を送ってくる。
「ハッ、もしこの国の悪となるようであれば、私とシンセイが責任をもって対処致します。」
父上の視線に一歩もひるむことなくテンセイが答える。
「わかった、我が子テンセイ、シンセイを信じよう。この話はここで終わりだ!セバス、みなを下がらせよ、これからは私たち3人で親子の時間だ、人払いを頼む」
パァン!
玉座にかけたままの王が両手を胸の前で合わせ大きな音がなる。その合図をもって玉座の間から多くの人が出ていく。
「シンセイ君、私にも内緒ですか?」
宰相が部屋を出るタイミングで小声で話しかけてくる。
「内緒です、特に宰相にはダメです。」
「少し気になりますが、ここはシンセイ君を立ててあげましょう」
この国のブレーンである宰相、この人はこの国のためということであれば全幅の信頼がおける素晴らしい人だ、ただしアキナさんに関しては内緒にさせていただく。
この国のためを思えば、アキナさんの存在を秘匿するよりも大々的に公表したほうが益となるからね。それはアキナさんが可哀そう。
人払いが済み、父上とテンと俺の3人だけになる。
「で?これメインの担当はシン?どういうことなの、急に養子ってだれだれ?」
玉座から降り、こちらに近づいてフランクな話をする父上、さっきまでは形式ばった形ではあったが、普段はナマケモノ殿下と呼ばれる俺にも優しい、自慢の父上である。
「ほんとに内緒だよ?特に宰相にはダメだよ?」
俺が念を押すと嬉しそうな顔をする父上。
「わかってるわってる、この3人だけの秘密ね?パパ嬉しいなぁ、この年になって息子2人と3人だけの秘密ができるって」
「もう、いつまで自分のことパパって言ってるの?俺たちもう15だよ」
さすがのテンでも突っ込まずにはいられなかったらしい。
目を細めて、少し呆れたような顔をしている。
「えー、じゃあパパって言ってくれないと秘密にしてあげない」
ほっぺを膨らまして怒ったふりをふりをする王がいた。
あー、もう、めんどくさい。ほんとにさっきの王様と同じ人物なの?
「えっと、アキナさんっていうんだけど、英雄語しかしゃべれない転移者をこの前ユウ爺が拾ってきたんだよね。それでその子物凄い魔力量があって、所謂英雄ってやつ。」
「はぁ?英雄がきたの?しかもユーリスさんのとこに?どんな面白い経験してんの羨ましい、俺も英雄拾いたいなぁ。えっ、ていうか言葉しゃべれないんじゃない?大丈夫なの?」
面白そうなもの大好きでいろんなことに首を突っ込むタイプの父上は、心の底から羨ましそうな声を上げた。
「英雄語は俺が英雄の手記を読むために少しだけ勉強してたから、みんなで頑張って翻訳用の術式魔石作って何とかなってるよ。」
「えええ、シンって英雄語わかるの?すごいじゃん、この大陸にもほとんどいないんじゃないの?さっすが俺の息子」
父上はそういうと俺を両手でもって高い高いをしてくる。もう15なんですけど!
そうしていちいち大げさな反応をして全然話が進まない父上にまたもテンセイが突っ込みをかける。
「父上、話進まないよ。そのアキナさんって子は、魔力量は凄いんだけど普通の女の子で、ユウ爺やシンはできる限り普通に暮らしてほしいって思ってるんだよね。だから父上の名前でちゃんと身元を保証してあげて、この国で幸せになってほしいって考えてるの」
「なるほど、これは確かに宰相には言えないね、絶対公表してアイドルにするよ」
父上は右手で髭をいじりながら、納得してくれたようだ。
「んー、だいたいわかった、いいよ。ちゃんと内緒にしてあげるし、身元も保証する。でもこれからはちょっと真面目な話」
そういうと、さっきまでオーバーリアクションをとっていた父上の目が少しだけ王の目に戻る。
「来年あたりから王位継承戦を開始する。王位継承戦が始まってからの私へのこのようなわがままは王位が大きく遠ざかるぞ。2人とも気をつけろ」
「「ついに来年」」
俺とテンのが全く同じ言葉を放つ。
「私は我が子全員が好きだ、全員に王になってもらいたい、だからこそ全員を平等に応援し、平等に評価する。お前たち2人も頑張ってくれ、特にシンはいつまでもナマケモノしなくていいから、テンを王にしてだらだらしたいなら継承戦だけでも頑張るんだぞ」
真面目だが、優しい顔をした父上は、俺の計画を完全に見透かしたうえで釘を刺してきた。
「父上よりもいい王を目指しますよ」
テンには珍しく挑戦的な発言に父上もニッコリと笑みを浮かべる。
「わかったよ、パパ、でもちょっとは見逃してね」
ぶりっ子風にわざわざパパと呼んで甘える俺。
「今パパっていったよ!いつ以来かな?シンは大人びてたからすぐに父上って呼ぶようになったし、シンが呼んだらテンも呼びだしたし、パパ嬉しいなぁ。はい、テンもパパって呼んでごらん、大丈夫、3人しかいないから恥ずかしくないよ」
父上はそういうと今度はテンを両手でもって高い高いをしてくる。
さすがのテンもすごく迷惑そうな顔をしている。
「えー、めんどくさいなぁ」
あのテンにめんどくさいと言わせる、さすが父上、さすがこの国の王だな。




