ナマケモノ殿下と術式魔石
異世界からきたアキナ、古の言語である英雄語しか話せない彼女のため、シンセイは必至で英雄語の勉強をし、十分に話せるようになったシンセイ。
シンセイだけでなく、この大陸の人間とアキナが話せるように、一流の術式魔石製作者であるユウ爺とジェイドと協力し、ついに翻訳のための術式魔石の試作が成功した。
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「おはよう坊っちゃん、これにこりたらレディの扱いは気をつけて」
ベッドから目を覚ますとそこにはすました顔のアールがいた。
「えっと、アキナさんに殴られて吹きとばされたところまで覚えてるけど」
「さすが坊ちゃん、素晴らしい記憶力ですね。もっともアキナちゃんは忘れてほしかったでしょうけど」
アールの横をよく見ると顔を真っ赤にしたアキナさんがいる。
「どうして覚えてるんですか、ここは記憶が曖昧っていうところじゃないですか!」
顔を真っ赤にして抗議されても、覚えてるものは仕方ない。
時計を見たところどうやら気を失っていたのは10分ぐらいだったらしい。
特に大事ないらしく、とりあえず単純に痛かっただけのようだ。
「俺の自動防御結界がなんなく壊されてしまった、つまり圧倒的な攻撃力か、ものすごく圧縮された魔力が込められていたかだと思う」
「私そんなに力持ちじゃないんですけど、どうしてこんなに吹き飛んでしまったんでしょう?」
不思議な顔しているアキナさん。
「つまりアキナちゃんの拳にとんでもない魔力が込められていたってことでしょうな」
「魔力と言っても、私特別なことは何もやってないのですが」
「感情がのっておったし、翻訳のために魔力を込めておったからのう、無自覚にものすごい魔力を込めておったのじゃろう、まぁつまり、おそらくアキナちゃんは英雄じゃろう」
ユウ爺が部屋に入ってきて納得をした顔で話を始める。
「やっぱりアキナさんは英雄ですかー、んー、このままじゃ日常生活でも不便かな、これから先をしっかり考えなきゃだね」
「でもシンセイさんやユウ爺さんのおかげで言葉がわかるようになったので、もうかなり不便さはなくなりました。」
「ほんとうによかったのぅ、それをしっかりと定着させるためにも、シン起きろ、とっとと術式魔石を作るぞ」
そういってユウ爺は俺をベッドから起こして工房へ連れていく。
「あー、坊ちゃん、俺は帰りますよー」
「うん、テンをよろしく。それと明日は初心者用の魔術教本を持ってきて、うまくいけば文字も読めるはずだし魔力操作は覚えたほうがいいからね」
「アイアイ」
そういうとアールはアキナさんにしゃべりかけてから出て行った。
何を言っているかは聞こえなかったが、アキナさんの顔が少し赤い気もする。
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次の日の明朝、店番があるからと早めに寝たジェイドさんを除いて、ユウ爺と二人でアキナさん向けに作った術式魔石の最終工程を行っていた。
簡易の術式魔石であれば工具や結界を使って術式を刻むだけでいいのだが、恒久的に使うものであれば強度を高めたり不純なものが混ざらないようにする必要がある。
術式を刻んだ魔石はそのままだと1、2か月もすると刻んだ術式が破損するため、純度が高く不純物の少ない魔石を使って被せを作る必要がある
被せの魔石は、術式を刻んだ魔石に被せることができるように穴をあける。
なるべく隙間がないように丁寧に調整を行。その後蓋をして専用の接着剤で固定することで、強度をあげるのだ。
ただそれだけでは被せの魔石が破損する可能性があるため、ユウ爺の門弟では、術式魔石の外側に自動で簡単な防御結界を張れるように術式の追記を行う。
被せの魔石を作り、あとは防御結界を追記する段階まできた、そんなタイミングで寝起きのアキナさんが入ってくる。
「おはようございます。シンセイさん、ユウ爺さん」
寝間着姿のアキナさんが眠そうな目をこすりながら挨拶してきた。
嫁入り前のお嬢さんが寝間着姿を殿方に見せるのはあまりよくないのだが、俺とユウ爺は家族側だから特に問題ないだろう。
「おはようございます。アキナさん」
「おはようさんじゃ、アキナ」
まだ翻訳用の術式魔石は完成していないため、ユウ爺には言葉通じないし、ユウ爺の言葉はアキナさんまでとどいていないが、俺の返答から察したのだろう。
俺とユウ爺は一旦作業を止めずにそのまま挨拶を行う。
チラッとアキナさんを確認したが、何も言わずに黙ってみているようだ。
「よし、ここまでで十分じゃな、わしは疲れたからシャワーを浴びる、仕上げはシンがやれ」
「ユウ爺も寄る年波には勝てないのか、死んでもらったら困るし、あとは任せて先に寝ていいよ」
「馬鹿もん、ジェイドやおまえの子供を見るまで死ねんわい」
そういって浴室に向かうユウ爺をアキナさんと一緒に笑いながら見送る。
「シンセイさん、これから仕上げですか?」
ユウ爺が浴室に向かったことで、重要な作業は終わったと考えたのか、黙って見学していたアキナさんが近寄り声をかけてくる。
「そう、あとはこのアクセサリー用の防御結界、まぁ強度をあげるための術式を追加して完了かな」
作業の手を止めることなく対応する。
「術式を刻む時は、ここにある工具を使わないのですか?」
「そうだよ、工具で刻むこともできるんだけど、俺はこの二重結界の応用で線をひくほうが好きかな、薄く使うことで綺麗に線をひけるんだ」
「おぉ、こんなに綺麗に術式をひけるんですね、シンセイさんは何でもできて凄いですね」
「なんでもはできないよ、できることだけ」
ふっふっふっ、やっぱり術式魔石の作成を褒められると気分がいい。
引き終わった術式の稼働を確かめる、工具で傷をつけようとしたが全然傷つかなかった、上手くできてるな。
結界の技術と術式魔石の作成にだけは自信があるからね、小さいころから師匠であるユウ爺にしごかれたからなぁ。
「この世界では結界術や術式魔石の作成を甘く見てる人が多いんだよね、防御にしか使えない、大した魔法が使えないとか言ってね。でも実際に極めていけばこんな風にきれいなネックレスへ翻訳機能をつけたりできるんだ。」
「そうなんですね、だれでもできるってわけじゃないんですね。」
そう!この技術はユウ爺の門弟にだけ教えられた技、ほかでこれができる人は中々いないはず。
そういいながら術式魔石のついたネックレスについた汚れをふきんで綺麗にふき取っていく。
「シンセイさんって確か王子様でしたよね?王子様でありながらこんな技術があるということは、さぞかし凄い方なのでは?」
そう言ってアキナさんはこちらをキラキラした目で見てくる。
これから話す現実が大変申し訳ない。
「いや、俺は普段はナマケモノ殿下って呼ばれてるんだ、基本的にめんどくさがり屋でまともに勉強もせず変な本を読んでいるからね、まぁアキナさんの言葉わかったのはそのおかげなんだけど」
「ならいいじゃないですか!私の役に立ちました!」
そうだよな、俺が英雄語を知らなかったらもっと悲惨な目にあってたし、もっと翻訳に時間がかかっただろう。俺の変な本を読む趣味もたまには役に立つじゃないか!
そういっているうちにネックレスが綺麗になった、あとはこれをアキナさんが使うだけ。
「よし、はいアキナさん、首にかけてみて、これからは大陸語のほうでしゃべるね」
ネックレスを首にかけ、アキナさんが俺に話かける。
「シンセイさん、どうですか?大陸語で聞こえてます?」
「うん、大丈夫ですよ、俺の声もちゃんと聞こえてるかな?まぁ昨日の試作の段階で大丈夫だったし、問題ないかな?」
不安そうな顔からパぁッと明るくなる。無事に聞こえているようだ。
「はい、ありがとうございます。この御恩は必ずお返しします。」
俺の手をぎゅっと握って笑顔で話しかけてくる。
「いや、9割は趣味でやってたことだから、全然気にしないでください。」
「ダメ、気にします。それと敬語?はやめてください、他人行儀ですよ、私はもうジェイドの工房の一員なんですから、シンセイさんも禁止」
唐突なお願い事をされてしまった。
ん-、まぁ確かに俺もジェイドの工房の一員だし、気にするような話でもないか。
「そういうことならわかりました。わかった、アキナさんもこれからは敬語じゃなくていいよ、俺のこともシンって呼んで、親しい人はみんなこう呼ぶんだ。」
「ユウ爺さんもそう呼んでましたね、じゃあシンさん、これからもよろしくね」
天真爛漫な笑顔、少しドキッとしてしまうね。
「なんじゃシン、顔が赤いぞ」
シャワーからでたユウ爺はタオルで綺麗な白髪頭をふきながら開口一番こういった。
「ちょっと疲れてるかもね、俺もシャワー入る」
いやな空気を感じたので、逃げるようにこの場を後にした。
シンセイはよくドキッとしていますが、シンセイが惚れやすいのではなく、それだけクリスもアキナもかわいいだけです。
ちなみにドキッとしている=惚れてるではありません。




