ナマケモノ殿下と英雄語
英雄 1000年以上前のおとぎ話として残っている話では、当時魔物や魔族を引き連れて人類と生存戦争を行っていた魔王を倒した人間達のことをいう。
ー勇敢なる心を持ち、卓越した剣術で皆を奮い立たせ常に最前線で戦う勇者。
ー賢き知恵を持ち、魔法の仕組みを理解し現代魔法の多くの魔法を作った賢者。
ー聖なる心を持ち、神からの奇跡をうけ現代の治癒魔法の祖となった聖者。
ー王としての覇気を持ち、その高い精神性と内政、軍事手腕で戦いを指揮した王者。
英雄たちは劣勢の人類のもの、突然現れたという。賢者以外には言葉が通じず、常識もわかっていないものばかりと言われている。
伝承もあまり残されておらず、不確かなものが多い。
ただ1つ言えるのは、英雄とは、すべての者がとてつもない力を持っており、魔王討伐の旗印として大活躍した者である。
英雄語 英雄たちが4人の間だけで使っていた言葉、手記やいくつかの書物が残されているものの、現在では話せるものがいない失われた言語となっている。
ある英雄の手記は歴史的書物として一定の価値はあるものの、本物はどこにあるかわかっておらず、レプリカ品が出回っていた。
シンセイが所持している手記もレプリカ品である。
シンセイとアキナが出会ってから1週間が経過していた。その間シンセイは英雄語の書物を集めていることがバレないよう、内密に書物を集めてアキナへ送り、自信は全力で英雄語の勉強を行っていた。
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「ユウ爺、ジェイドさん出来たか?」
再びジェイドの工房を訪ねた俺は、ユウ爺とジェイドさんへ術式魔石の作成状況を確認する。
「おう、出来たぞシン、あとはおまえさんが頑張って会話するだけじゃ」
「こればっかりは僕らじゃできないからね、頼むよシンセイ君」
渡されたのは未完成の術式が刻まれた術式魔石が1つと、完成された術式が刻まれた2つの術式魔石をあしらったネックレスであった。
「これで俺がアキナさんと会話してれば自動で学習してくれるのかな」
術式魔石の内訳は、1つが大陸語を刻んだ術式魔石、1つが自動で学習する術式魔石、最後の1つが学習した内容を英雄語として刻むための術式魔石だ。
日常的な会話から自動翻訳のために学習する術式魔石セットといったところ。
「よし、じゃあアキナさんをナンパしてくる!」
サムズアップしてイケメンボイスを出してみる。
「やったこともないのに格好をつけるな」
「シンセイ君、無理しなくていいよ」
「うちの坊ちゃんは純情ですからね、塔でもメイドらが誰も手を出されないって悲しんでますよ」
いつの間にアールまで混ざって俺をからかってくる、一応王子様なんだけど!
「くっそ、言いたい放題して、もういいよ行ってくる」
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「どうかなアキナさん、けっこうしゃべれるようになったつもりだけど」
「シンセイさん凄い、発音は全然だけど、もうこんなに喋れるようになったの?」
「ずっとがんばったからね、もうえいゆうごしゃべれるひとほとんどいないし」
ということで俺はアキナさんとお茶を楽しんでいた。
王都にある穴場の喫茶店にて、二人でお茶をする、目的は簡単、とにかく会話をする。
俺とアキナさんが会話するたびに俺がつけたネックレスは英雄語の解析を行ってくれる。
どんどん俺の魔力が消費され、そのたびに学習してくれているみたいだ。
「もうこんなじかんか、そろそろかえろうか」
「ほんとだ、こんな時間までありがとうシンセイさん。こうやってちゃんと話せるのシンセイさんだけだからとても嬉しい、また誘ってくれませんか?」
「もちろん、またあしたいこう」
アキナさんも喜んでいる、やはりどんどん英雄語の解析が進むのがうれしいのだろう。
積極的に話かけてくれるしこの調子ならすぐに翻訳が完成しそうだ。
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俺とアキナさんのお茶会が始まってから2週間がたった。
その間、話す内容を増やすため、お茶会だけでなく、王都の案内やショッピング、小さなお祭りへの参加を行った。
そんなある日のジェイド工房にて、シンセイは翻訳用の術式魔石の最終チェックに入っていた。
「シンセイさんも本当に上手になりましたね。」
笑顔で話しかけてくるアキナさん、心なしかいつもより上機嫌な気がする。
「ありがとう、俺が英雄語を上手になったのもよかったけど、術式魔石も全然起動しなくなったし、もう大丈夫かな?」
「大丈夫とは?」
不思議な顔して首をかしげるアキナさんをしり目に、俺は自分のネックレスを取り外す。
「ユウ爺、今日は術式が動きませんでした。これで最終調整も完了ですね」
「ようやったのシン、あとはわしらに任せておけ」
ユウ爺だけでなく、ヤヤさんやジェイドさんも喜んでいる。
なぜかアールだけがニヤニヤしていた。
「確認してみよう、はいアキナさん、これ握ってみて、前にヤヤさんから教えてもらった通りに魔力を流してみて」
ネックレスを手渡し、発動してもらう、未完成で学習用だが、少しは話せるはずだ。
魔力をうけ、ネックレスが少し光る。
「よし、そのままユウ爺やヤヤさんにしゃべりかけてみて、大丈夫、少しの間なら話せるはずだよ」
不安そうなアキナさんだったが、意を決して言葉を出す。
「ユウ爺さん、ヤヤさん、ジェイドさん、優しくしてくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」
アキナさんがしゃべったのは英雄語だったが、俺たちに耳には確かに大陸語として聞こえた。
その瞬間、ユウ爺とヤヤさんが泣き出した。
「聞こえたわ、アキナちゃん、大丈夫、私の声は聞こえる?こちらこそありがとう、娘ができたみたいで毎日楽しいわ。」
泣きながらヤヤさんが答えると、確かに耳に聞こえた、理解できたのか、アキナさんまで泣き出してしまう。
「聞こえました、聞こえました。これで皆さんと話ができる、シンセイさん、ありがとうございます。」
頑張ったのは俺だけじゃなくて、ユウ爺もジェイドさんも、面倒を見てくれたヤヤさんもみんなだ。
でも、お礼を言われるのはいい気分だ。
「よしシンセイ、今日は泊っていけ、徹夜で完成させるぞ」
「よし、今日はナマケモノ殿下が欠席だ、頑張ろうユウ爺」
柄にもなく気合を入れてみる。ふんばりどころを間違えると将来的に怠けられないからね、今日だけ頑張る。
「徹夜ですか?なら明日のお茶会は夕方ごろですかね?」
「ん?いや、もう術式魔石は完成するからお茶会はしなくていいよ。今日の術式魔石作成で俺も無事お役目ごめんってこと」
やっと解放される、今日が終われば解放されるんだ、やっとナマケモノの日常に帰れる。
アキナさんは少しだけ震えながら俺に近づいてきた。
遠くでアールが少し頭を抱えてるように見える、何か問題でもあったのかな?
「すると、シンセイさんは、この術式魔石を作るためだけに私とお茶会していたのですか?そもそも翻訳のためのお茶会というのは初耳なのですが」
ん?少し怒ってる?もしかして翻訳に問題があるのかな?
「あれ、言ってなかった?すみません、英雄語を唯一わかる俺がアキナさんと話すことで自動翻訳が進んでいたんだよね。いろんな話ができるように色々と―」
「私は、私はシンセイさんが私と話すのを楽しみにしていると思っていたのに」
俺の話をアキナさんが遮ってくる、当然俺に卑しい気持ちは一切ない、英雄語の翻訳のために頑張ったからね。
「いや、大丈夫、そんな邪な気持ちはない。真面目に、一刻も早く自動翻訳を完成させるためにお茶会や買い物をしていたよ」
プルプルと震えているアキナさんは、俺が真剣に自動翻訳のために頑張ったという話を聞くと、思いっきり振りかぶり、そのまま私の腹部を殴ってきた。
「そういう大切なことはちゃんと初めに言ってください」
グーで殴ってきた。
そこからはゆっくり時が流れた、ある一定以上の威力を検知することで発動する防御結界が自動で発動。
なんの訓練も受けていない女の子が殴ってきた程度で発動するものではなく、怪我のリスクがある攻撃にのみ発動するはずだった。
なぜ発動したのだろう、そうこう思っているうちに、防御結界がアキナさんの拳に触れると砕けた。
一般的な上級魔法や訓練された兵士による斬撃であれば受け止められるだけの防御力を持つ結界が砕けた。
その瞬間悟った。
英雄とは、すべての者がとてつもない力を持っており、魔王討伐の旗印として大活躍した者である。
そのとてつもない力が、今俺を襲おうとしている。
抗うことをやめ、地面から足を離し、なるべく後方へ飛ぶ、飛びたかった。
ドォン!
俺はジェイドの工房の壁まで吹き飛ばされていた。
背中にはジェイドの工房の壁に刻まれている、ある一定以上の衝撃が来そうになった場合、自動で発動する防御結界があった。
俺は自分の体がまだ致命傷ではないことを確認し、口を開けてただ驚いているジェイドの工房一同や、爆笑しているアールを見た。
そこで俺の意識は途切れた。
-英雄とは、すべての者がとてつもない力を持っており、魔王討伐の旗印として大活躍した者である-
シンセイの自動防御はあくまで自動なので、上級魔法や一流の騎士の一撃など、そこまで凄い攻撃は防げません。ですが、剣で切られたり暗殺者に首を斬られるぐらいだと大丈夫です。




