第15章
ヘンリーは舌打ちした。
リバモアが爆弾に余計なオプションをつけたからじゃない。決していい買い物ではなかったが、もう済んだ話。彼らはもう先へ先へ進んでいる。しかし、その進め方が舌打ちにつながった。
「ボタンまで頼む!」
ヘンリーはそう言うと、工具を地面に放り捨て、剣を鞘から雑に抜いた。その数秒間だけで、彼が焦っているとわかる。心配だが、ジュリエットは手元に集中した。
ヘンリーとジュリエットは、二発目のキラメキ爆弾を手に入れると、すぐさま魔女の城へ急いだ。
だが、投射装置は二人がかりで運ぶ重い物。分解して運びやすくしたものの、重さが変わるわけじゃない。
深夜未明に出発し、城の近くに着いたとき、既に日は空高く昇っていた。視界は相変わらず悪いものの、城の周りは見通しのいい荒れ地で、敵に発見されやすい。
城の視界に入る前、彼らは一旦立ち止まりながらも、敢行を決める。距離をざっと確認し、装置を組み立て始めた。
そして案の定、城の見張りに気づかれる。しかし、想定内であり、二人は組み立てを続ける。何の装置かわからないはずだし、バリアに阻まれて何もできないと。
……ところが、すぐ近くにも敵がいた。たまたま昨日は遭遇しなかった、大きな毛虫の魔獣だ。そいつは、枯れ木の上でサボっていたところ、この騒がしさで起こされた。
眠気やイライラを覚えつつ、ヘンリーとジュリエットに襲いかかる魔獣。急いだツケが出た形だ。
ヘンリーは剣を構え、毛虫型魔獣の撃退に向かっていく。
「おっと!」
魔獣は体表の毒針を、ヘンリー目がけてお見舞いする。しかし、数本の毒針はすべて、狙いを逸れて飛んでいった。
彼だけでなく、魔獣のほうも焦っていた。寝起きの上、彼らは大きな獲物であり強敵だ。興奮と恐怖心が、そいつの集中力を削いでいる。
「ちょっと! こっちまで飛んできた!」
ジュリエットの怒鳴り声が、そいつの集中力をさらに削ぐ。ヘンリーへの声だが、耳に響くのは同じこと。
魔獣が彼女に、文句や毒針を飛ばそうと考える間もなく、触角をヘンリーに斬り落とされた。二本あった両方ともだ。
感覚の喪失にふさわしい悲鳴を、魔獣はうるさくあげる。ヘンリーは顔を歪ませつつ、魔獣から残りの感覚も失わせた……。
――城の屋上では混乱が起きていた。あの奇妙な装置は、いったい何なんだと。幸い、誰にもわからなかった。
そして、ヘンリーが魔獣を撃退したところで、城内に伝令がやっと出された。
「魔力付きの矢でも打つ気か?」
「いやいや、大きな矢は用意してないぞ」
昨日会った魔法使いと、別の魔法使いが話し合っている。呑気なもので、魔女のバリアに甘えているようだ。
投射装置からキラメキ爆弾が放たれた直後すら、その二人はまるで観客の態度。爆弾が垂直に打ち上がったからとはいえ、酷い職務怠慢だ。
「ヤバイヤバイ!」
ヘンリーは、自分の頭上に打ち上がったキラメキ爆弾に、目を見開いている。ジュリエットも同様だ。
彼らは組み立て終えると、感動的な言葉を述べることもなく、速攻でボタンを押した。新手の魔獣に襲われるかもしれないから、まあ仕方ない。
だが、頭上から爆弾が落ちてくるのは、仕方ないでは済まない展開……。
実は、毛虫型魔獣の毒針の一本が、投射装置のギアに喰いこんでいて、こんな不具合につながった。これも急いだツケ……。
「逃げよっ! とにかく逃げよう!」
ジュリエットは叫び、南方へ駆け出そうとする。
ところが、ヘンリーの腕が彼女の肩を掴み、力任せに引き止めた。目を見開き、振り返るジュリエット。
「な、なに⁉」
「あれだよ! あの魔法であっちにやっちゃえ!」
戸惑う彼女に、彼はそう答えた。
わかりづらい伝え方だが、彼女は趣旨を理解できた。次の瞬間、彼女は空を見上げ、点のように小さな爆弾を睨みつける。
「やってみる」
小声だが、やる気にあふれる一言だ。
――空へ打ち上げられたキラメキ爆弾。正六面体のそれは、自らを打ち上げた主の元へ戻り始めている。予定と異なるが、爆弾が気にすることじゃない。自分の役割を、身をもって果たすのみ。大きな大きな役割を。
……ところが、再び予定と異なることが起きる。主の元へ戻ることはなく、再び空へ打ち上げられていた。それに自我や顔があればきっと、戸惑いぐらい見せたはず。
「で、できた!」
ジュリエットがバリアを放ち、爆弾を見事跳ね返していた。
華麗な動きではなかったが、ヘンリーにはそう見えた。彼が涙もろい人間なら、早くも感涙したに違いない。
跳ね返した爆弾は、二人が願う方向へ飛んでいく。予定に戻せたわけだが、喜ぶ余裕はない。今の衝撃で時限信管が作動したはずだ……。爆発するまでの時間は、確か十秒だった。あと何秒?
自分を埋めるような勢いで、二人は地面に伏せ、耳を塞ぎ、目を閉じる。口を開けておくべきだが、そこまでの余裕は……。
そのとき、爆弾が役割を果たす。




