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第16章

 城が青白い光に包まれる際、魔女は謁見室にいた。放射線障害で体調を崩しながらも、玉座に座っている。

 魔女の眼前には、議論する手下たち。厳しい言葉の応酬が続き、表情は皆険しい。

 議題は当然、ヘンリーとジュリエットへの対応だ。二人は国王以上の敵。重要な拠点を落とされただけでなく、城がいつ攻撃を受けてもおかしくない。

 魔女は弱々しく薄目を開け、議論を見守るしかなかった。目まいや吐き気だけでなく、歯ぐきからの出血まで起こしている……。


 ――爆音が鳴ったのは、ちょうど誰かが話し終えたときだ。腹の底まで感じる大きな爆発音が、天井から鳴り響く。

 ヘンリーとジュリエットが、何らかの攻撃を加えたのだと、魔女や手下たちは悟る。振動はないものの、大きく不気味な音に不安を隠せない様子。「雷系統じゃない」とか「黒色火薬の音でもないぞ」といった小声まで、自然と漏れる。

 魔女は首をひねり、何の攻撃なのかを考える。これは光の魔法じゃなく、別の何かだと……。

 しかし、反響音が止み、場が静かになると、一同は安堵した。魔女のバリアが攻撃を防いだのだと。尊敬の念をこめ、手下たちは魔女に、感謝の言葉をおくる。

「ウグググッ!」

しかし、そんな空気は一変した……。

 魔女が玉座のイスから滑り落ち、もがき苦しみ始める。手下の一人が駆け寄ろうとしたが、その前に自分が倒れた。

「ガハガハゴホッ! な、なんだ、これは! くるし、苦しい!」

その手下や魔女を介抱する者はいない。

 謁見室の一同が今や、猛烈に苦しんでいる最中だ……。自らに回復魔法をかける者もいたが、効果は無いらしい。

 敷き詰められた紅色のじゅうたんは、放射能だけでなく、一同の血も混ざる形で汚れていく。その価値が下がる件も含め、バリアが放射線を防げなかったせいだ。爆風は防げたものの、中性子の放射線は、城内を屋上から地下まで貫通していった。道中の魔女たちも忘れずに。


 鉄臭さや激痛を全身で味わいながらも、魔女は攻撃の正体を考える。だが、その答えに至ることはなかった……。

 直後に、伝令が謁見室へ駆けこんできた。彼は、そこの悲惨な全滅を目にすると、ヘンリーとジュリエットが、悪魔と契約したに違いないと思った。

 しかし、それに悪態をつく間もなく、血を派手に吐き出し、赤いじゅうたんを汚す。それをとがめる者は誰もいない……。


 ――爆風や振動が収まった後も、ヘンリーとジュリエットは地面に伏せ続けている。「まだ危ないかも」という恐怖心が、彼らの首根っこを押さえつけていた。

 それが解けたのは、城の跳ね橋が下ろされたときだ。乱暴に下りた橋は、彼らの興味をひく。そっと立ち上がり、橋のほうを伺う二人。

 橋を下ろしたのは、城内の生き残りだ。ライオンに似た魔獣と、若いメイドが渡ってくる。だがどちらも、吐血やらで全身は赤黒い。もうじき死にそうな姿を晒しながら、橋を力なく歩いていた……。

 その様子から、バリアの問題も解決したと理解する二人。いてもたってもいられない気持ちで、城に向け走り出す。彼らは走りながら、マスクで頭を覆った。湧き上がる興奮のせいで、装着に少し苦労したほど。


 ……死にかけの一匹および一人に、ヘンリーとジュリエットは容赦しなかった。魔族の一味には違いなく、余計な温情をかければ、巻き添えで死なせた人々に悪い。

 魔獣から濁った血があふれ、メイドからは銀貨や銅貨もあふれ出た。逃げる前に退職金を確保したのだ。ヘンリーは散らばる硬貨を見下ろし、放射線で汚れていても、入念に洗えばなんとかなるのではと考える。そんな彼の背中を、じっと見つめるジュリエット。

 この様子だと、城内は期待通りの地獄絵図で、魔族退治の大義は果たせている。あとは魔女の死を確認し、証拠を持ち帰ればいい。旅は終わり、エンディングを迎えられる。

 ただ、完璧なグッドエンディングじゃない。旅と共に、ジュリエットの有料サービスも終わりへ……。

 とはいえ、キラメキ爆弾による解決を一番望んだのはヘンリーだ。


 ――リバモアから大金をせびられた際、ジュリエットは拒否し、他の解決策を取ろうと思った。魔女のバリアや強固な守りを突破し、魔女を殺すのだと。

 しかし、ヘンリーは反対だった。怖気づいたわけでなく、現実的に考えた上でのこと。

「また、あの爆弾に頼ろうと言うわけ? 怖いんでしょ?」

「そうじゃなくてさ。オレたちだけで、城や魔女たちをなんとかできると、本気で思ってる?」

リバモア宅の前で、二人は言い合った。

「……まずは、あの橋を下ろして」

「どうやって? もし上手くいったとして、それからは?」

「…………」

言葉に詰まるジュリエット。表情は険しいが、考え方はその上をいく……。城内の間取りも、全然わからない状態なのだから。

 彼女も本心では、キラメキ爆弾で旅をさっさと終えたい気持ちだ。

「なんか別に、高い買い物でもあるのか?」

「……うん、そうなるね」

大金を払うのを躊躇する理由が、彼女にはあった。とても高値な。「わかったよ。じゃあ、払える分だけでいい」

ヘンリーがそう言うと、ジュリエットはスカートのポケットから小袋を取り出し、無言で彼に手渡した。袋の軽さに、ドキッと驚くヘンリー。

「…………」

彼女が払ったのは二百二十三ドソ。そのうち二百ドソは、つい先日の手つなぎ代だ……。

 割り勘にはほど遠いが、自分で言った以上、残りはヘンリーの払いだ。キス代千ドソの目標は、遥か彼方へ……。

 リバモアに金を渡す彼の後ろでは、ジュリエットがリュックの外側から、魔法書の角を無意識に触っていた。彼女は彼女で、考えがあるのだ。


 ――ヘンリーとジュリエットは最初、城内を慎重に進んだ。しかし、成果や惨状を目にするにつれ、彼らの足は次第に早まる。

 城のあちらこちらに、魔族の亡骸が転がっていた。予想以上に数が多く、つまずきかけたり、靴を汚してしまう。

 それに、強烈な苦痛に耐えきれず、壁に頭を打ち自殺した魔法使いを目にした際など、気分を酷く害した。あまり長居しちゃいけないと、彼らの足取りはさらに早まる。長い剣を鞘にしまうほど。

 幸い、城内に入ってから三十分も経たないうちに、あの謁見室へ足を踏み入れられた。他の部屋同様、酷い死臭で満ちていたが、彼らの鼻は慣れている。死体を踏みつけながら、玉座まで難なく近づけた。

 ……魔女は仰向けで死んでいた。口や目を無様に開き、間抜けな死に顔を晒しながら。

「これがあの魔女だな」

「間違いないね。……ちゃんと死んでる?」

ジュリエットの疑問を解消すべく、魔女の横っ腹を蹴るヘンリー。ゴロッと転がり、今度はうつ伏せになった魔女。死体らしく、ゼロ回答なリアクションだ。

「やったな」

「うん、そうだね」

自業自得だが、二人の中に達成感や現実感は湧かない。

「証拠、証拠」

「あ、ああ。……今度はジュリーがやってくれない?」

「いや、遠慮しとく。また任せるね」

ヘンリーは渋々、剣を抜いた。そして、魔女の首元へ。

 スマホで撮って送信できるわけはなく、殺しの証拠には生首が一番だ。とはいえ彼だって、趣味の感覚で首を刈れるわけじゃない。

 彼が最後の大仕事に汗を流す中、ジュリエットは別件に取り組んでいた。不気味な微笑みを浮かべながら。

 やがて彼女は、玉座のイスの背面を見つめる。彼女は彼女で、最後の大仕事ができていた……。


「ねえ、このイスに詰まってる綿は、なかなか上等なやつじゃない?」

ジュリエットがヘンリーに声をかけたのは、彼が魔女の生首を包み終えたときだ。魔女の死に顔が見えなくなり、一安心していたところ。

「そうだろうな」

「ちょっと見てごらんよ!」

強気な声を投げかける彼女。仕方なく彼は、彼女の元へ向かう。

「確かに、一本一本が丈夫そう、ん?」

イスの内部を覗きこみ、小袋が隠されているのを見つけるヘンリー。綿にまみれたそれを取り出し、中をそっと覗く。


 ……金がギッチリ入っていた。銀貨や銅貨だけでなく、金貨も数枚ほど輝いている。千ドソを軽く超える金が、そこにあった……。

「おっ! へそくりか裏金だね!」

分け前を無心しないジュリエット。

「でもなあ、汚れがさ……」

ヘンリーは悔しそうに、小袋をジャラジャラ揺らす。

「ああ、それは大丈夫!」

ジュリエットはそう言った。笑みをこぼしながら。

「大丈夫って……」

小袋を再び覗いた途端、彼は理由を理解できた。だが、それを口に出すのは野暮なもの。

 とはいえ、反応に困る彼。しばらく彼は、彼女と金へ、何度も交互に目をやっていた。


 小袋の中に、一際目立つ銀貨があった。奇妙な落書きが印象的な……。


 終わり

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