第14章
「それで、コートやマスクの調子はどうじゃった? 見たところ、特に体調を崩してないようじゃが」
ヘンリーとジュリエットにそう尋ねたのはリバモア。彼は寝間着姿だが、表情はまだ元気そうだ。
彼はテーブル越しに立つ二人を前に、威張った態度を示している。キラメキ爆弾の成功が、思い上がるほど嬉しいらしい。そして、魔族退治に赴く二人への敬意を、今は一片も抱いていなかった……。
しかし、リバモアにそれを指摘するわけにはいかない。鉄壁の守りで固められた城を攻略するため、キラメキ爆弾を再び使うことに決めたからだ。あの爆弾を何度も使わせてもらう約束を交わしたわけじゃないし、昨夜とは事情が異なる。
悔しいことにリバモアは、ヘンリーとジュリエットが、再び自分の元へ来た理由に気づいていた。寝静まった深夜にも関わらず、堂々と訪問してきた彼らに、一定の落ち度はあるが……。
「と、とても着やすかったよ! 最初は少し暑かったけど、しばらくして慣れた」
そう答えたヘンリーのズボンのポケットには、汗にまみれたハンカチが突っこんである……。
平地でもあの装備は、発汗や息苦しさを起こしたぐらいだ。この山中に辿り着くまで、彼らは何度も汗を拭ったり、一休みする必要に迫られた。
「ほう、そうかそうか」
自分で尋ねておきながら、半信半疑なリバモア。
「では、一式すべて返してもらおう。なーに、洗濯はワシがやっておく」
リバモアはそう言うと、ヘンリーとジュリエットに返却を促した。しかし、今返すわけにはいかない。キラメキ爆弾を使った後、彼らは城へ乗りこむ必要がある。暑さや息苦しさは我慢だ。
「いや、まだ返せませんよ」
「これからまた使うんです」
ヘンリーとジュリエットが、口々にそう答えた。自分の命に関わる物だけに、口調は自然と必死になる。
「おやおや? それはなぜじゃ?」
リバモアのわざとらしい口調に、イラっとする二人。ここは耐えねばならない。
「実は、魔女を倒すために、あの爆弾がもう一発いるんです。協力してもらえませんか?」
ヘンリーは単刀直入に申し出た。悔しいながらも丁寧な口調で。
「ほう、そうかそうか」
聞く耳自体は持っているリバモア。
すると彼は、テーブルから離れ、戸棚から羊皮紙や筆記具を取り出した。そして、紙に数字を書きこんでいく。
「これぐらいじゃな」
リバモアは、インクが乾き切っていない羊皮紙を、ヘンリーとジュリエットに見せる。内訳や総額の数字が、紙上で豪勢なダンスを披露していた……。
「こ、こんな値段……」
「いくら何でもこれは酷い!」
驚きを隠せない二人。
「何が酷いんじゃ? コートや投射装置やらのレンタル代も含めて、この値段じゃぞ?」
「だ、だけどさ……」
リバモアが提示した、二発目の値段は、キス代よりも高値をつけていた。新型兵器の相場として考えれば安価とはいえ、ヘンリーとジュリエットからすれば大金の域……。
ただ、二人が揃ってお金を出し合えば、なんとか払える値段だ。しかし、残額がそれぞれ、銀貨一枚か二枚ぐらいの乏しさに落ちぶれる。
いやらしくもリバモアは、ギリギリ払えそうな値段を、あえて付けた。破格な値段をつければ、ヘンリーとジュリエットに逆上された挙句、事故死か自殺を遂げるかも……。そうならずとも、国王たち上層部や世間に告げ口されれば、心身が危うい方向へ転がり落ちかねない。大学を辞めさせられたリバモアは、そういう展開をよくご存じだ。
しかしながら、彼の脳内を、誇大な名誉欲と猛烈な禁欲が、我が物顔で漂っているのは確かだ。
「考える時間をくれ。ジュリー、ちょっと外へ」
「いいだろう。じゃが、できるだけ早めに頼む。巷で言う、タイムイズマネーというやつじゃ」
リバモアはそう言い、偉そうな態度であくびする。
幸い、ヘンリーとジュリエットは、こみ上げた殺意に耐えられた。口をもう一回り大きく開けていれば、リバモアは不審死を遂げたはずだ……。
黙ったままドアを開け、家の外へ出ていく二人。リバモアはその間、脳内の欲しい物リストから何を買うのかを、じっくり吟味することにした。
――三十分が経とうとする頃、ドアが再び開いた。先頭にヘンリーが立ち、背後にはジュリエットが。彼らの目は、しっかりと前に向いている。
「決まったかね?」
テーブルに両ひじをつき、ニヤニヤと笑うリバモア。一番に買う物は決まったご様子だ。
「もちろん」
ヘンリーは、右手に自分の小袋、左手にジュリエットの小袋を掴んでいる。




