第10章
半球形の青白い閃光が、村をパッと包みこむ。ほんの一瞬の輝きだが、とてつもないエネルギーで満ち溢れた瞬間である……。
中性子爆弾のため、派手な爆発やキノコ雲は上がらない。爆風や振動で、屋根の洋瓦が吹き飛んだり、酒樽の山が崩れたりする程度だ。風や揺れに関しては……。
安全な位置から目撃したヘンリーとジュリエットは、当然何が起きたのかを理解できず、リバモアの顔を見た。
あのキラメキ爆弾を発明したリバモア自身は、当然何が起きたのかを理解できており、じっと村のほうを見つめている。しかし、よく見れば、口元が緩んでいるとわかるはずだ……。
「あの、うわっ!」
ヘンリーが尋ねようとしたとき、爆風や振動が到達する。突然のことで耐えきれず、二人とも地面に倒れこんだ。
ところが、リバモアは強く踏ん張っており、その場に立ち続け、未だに村を凝視している。自分の成果を、余すことなく見届けてやろうというわけだ。
ヘンリーはジュリエットを起き上がらせると、単眼鏡で村の様子を覗く。
次の瞬間、彼は覗いたことを後悔する。
……村は地獄と化していた。いや違う。正しくは生き地獄だ。
広場の鶏型魔獣は皆、地面でのたうち回ったあげく、ピクリとも動かなくなる。異変を感じて広場に現れた魔獣や村人たちも、模倣して後を追う。広場のあちこちで、ごく自然な「ダイイン」が演じられていた……。
締めを飾ってくれたのは、酒場の看板娘だ。彼女は、店の戸口を開け放った途端、クジャクが羽を広げるような吐血を、盛大に披露してくれた。彼女はカーテンコールに応える暇も無いらしく、すぐにこの世からサヨナラだ。
彼らのほとんどが幸いなことに、まもなく死んだ。そして、一部の連中は、ただちには死なずに済み、遺言や一言二言のセリフを発する暇が与えられた。そして、死んだ。
中性子の放射線は、レンガも軽々と貫通する威力で、村中すべての生物を、「細胞レベル」で破壊したのだ……。
「じ、爺さん。あれ、どういうこと?」
生き地獄の一幕を見届けたヘンリーが、リバモアに尋ねる。今の彼は、とても満足気な表情だ……。爆弾投射直前よりも、さらに生き生きとしている。
「言っただろ? 肉眼では見えない放射線で殺す爆弾だと」
「うん、それは聞いた。でも、あんな殺し方なんて」
「私も光を見ちゃったんだけど、大丈夫⁉ 死んじゃうの⁉」
ヘンリーに続き単眼鏡を覗いたジュリエットが、ヒステリックに叫ぶ。単眼鏡を今にも放り投げそうな勢いだ。
「おいおい、ここは離れた場所で安全だ。そのために、これを運んできたんじゃろが?」
リバモアはそう答えた。大きな成功体験を得て、彼の口調は余裕で一杯だ。
「……それならいいんだけど」
ジュリエットは納得する。ヘンリーも納得していたが、村人の酷い死に様が脳裏に焼き付いてしまっている。悪夢として何度も忠実に再現されるのは間違いない。
「さあ、まずは片付けよう。帰ったら朝飯だ。上手いハムを取ってある」
浮かない顔を浮かべつつ、投射装置を片付ける二人。
片付け中、空から小鳥が落ちてきた。着地に失敗したわけでなく、地面でバタバタともがき、無我夢中で暴れている。小さな羽を散らしながら。
ジュリエットが助けようと思ったが、次にそれを見たときには、もう暴れていなかった……。
「なあ、爺さん。放射線の汚れって、どれぐらい残ってるもんなのさ? 遅くとも夕方には出発して、あの村で何か回収していこうと思うんだ」
ヘンリーが前向きな質問をする。ところが、リバモアは吹き出し、笑い始めた。むっとした顔のヘンリー。
「冗談だよな? あの村には、少なくとも八日間は一歩も入れないぞ? おまけに、金か物を頂戴していくだって?」
リバモアはそう言うと、うるさく笑い始めた。
「よ、八日間も?」
「ぜいたく言うと、三十年はダメじゃな」
「そんな強い毒なの⁉」
「ああ、そうじゃよ。……ここまでは言ってなかったな」
気の遠くなる話にも関わらず、リバモアの口調は平然としている。
「しかし、迂回すれば済む話じゃないか?」
「……まあ、そりゃそうだけどさ」
「…………」
彼のもっともな発言に、二人は返事に困った。
放射線への恐怖感はあるが、あの核兵器を使用した責任感も抱いていた。若くして立派なものだ。
「あの村をどうしても通りたいなら、いい物を貸してやろうじゃないか」
二人の気持ちを見透かしたらしく、リバモアがそう言った。
「後で感想を聞かせてくれれば、ワシも助かるしな」
彼の口元はまた緩んでいる……。




