1話 《夢の世界》
我が学校〈榊原中学校〉は市の中で最小級と言ってもいいようなの市立中学校だ。
僕はその学校に通う中学二年生〈下原 厚史〉(しもはらあつし)だ。あ、男な?
いつも通り椅子に座り、いつも通り支度をして、いつも通りに外を眺める。
この一連の流れに飽き飽きしていたが、僕にとっては日常だった。
そして、僕は極度のコミュ障。学校に友達は居なく、近所にもあまり関われていない。それどころか、従兄弟たちにさえ避けられている始末だ。
けど、別に僕はそれを悪いとは思っていない。生まれつきの個性だから仕方ないと。
だから委員会にも入ってないし、部活にも入っていない。いや、部活に関しては少し違うのかもしれない。
まぁ、僕はこういう人間だ。自分の人生に光がない。暗くて迷惑もかけず、力にもならないような。だから、幸せでもなく、退屈でもなかった。
そんな僕の日常をかき乱すように彼女という存在が現れた。だから、今日は複雑な心境だ。
僕には唯一ラノベを読むという趣味がある。これが唯一の趣味とはなかなかキモイやつだと思われるのだろう。
そのため今朝の展開は見たことがある。そう、《ラブコメ的展開!》というやつだ。
だからこれからの僕の人生はウハウハのハーレム状態。両手に花束。一夫多妻。
と、勝手に妄想していた僕が馬鹿だった。
彼女に今朝声をかけられて完全にそう思った。
しかし、現実はそんなに甘くはないのである。
クラスで「じゃっ」って別れて会っていない。
その時、自分がどういう人間か、改めて痛感した。
当然なのであろう。ラブコメの神様は僕に味方しなかっただけだ。せめて、名前だけでも聞けば良かった。やれやれ、これだからつくづくコミュ障は。
まぁ、複雑な心境だからこそ彼女はなんだったんだろうって思うし、もう一度会いたいと強く思う訳だが。そして、思わくばラブコm・・・
だめだ。僕の体はまだ恋愛を諦めていなかったというのか。やべぇ僕の頭はラノベに洗脳されてる。重症だし。
僕は手を見る。
「この手から何か物語が生まれないものか。」
始業を告げるチャイムが鳴った。
結局なにも変わらない日常だ。今日という日がまた始まる。
よし、寝るか。僕は腕を枕に目を瞑るのであった。
今日も終わりの方にさしかかっている。
6時間という長い長い授業が終わり、「高校だとこれ以上なのか…」なんてどうでもいいことを考えながら、空を見上げた。
今朝と天気は変わっていない。雲一つない晴天。4月ということで、まだ夕暮れの景色ではない。 しかし、6時間は長いもので眠い。寝ようと言っても寝れないのが学校である。
まぁ、だから、眠い。早く帰りたい。
帰りた〜い♪帰りた〜い♪あったかハ〇ムが待っている♪
脳内でこれをループさせる僕がアホに思えた。
帰りの会という退屈な時間が終わり僕は真っ先に家に帰ろうとした。
あぁ、そういえば登校は1人じゃなかったんだよな。
だいたい1人の僕は不思議に思った。
昇降口を出るとうるさい声が聞こえてくる。校庭を見た、声の主はサッカー部。元気に走っている。
「死ねよ、糞食らえ。」
ボソッとつぶやいた。
言った瞬間に感情が込み上げてきて、涙がこぼれそうになったので、すぐ体の向きを変えて校門に向かおうとした。
あんなの、許さない。部活なんて、あいつらなんて、、、社会のゴm
「ぁぁあ!」
僕の脳内をグシャグシャにするかのように声が響く。
うるさい。びっくりしたじゃねぇか。
やや下を向いて歩いていた僕は、何事かと思った。なに?
ついに僕も見られるだけで悲鳴をあげられるほどな人間になってしまった?
しかし、聞き覚えがある声だった。まさか!顔を上げて見てみた。
そこには、今朝見たばかりの顔があった。
パニック警報発令!なんだ、これ!!ラブコメの神?!何かと間違ってねぇか?!なんだよこのシチュエーション?!普通体育館の裏とかじゃないの?!こんな昇降口の前で!!
そして、結構可愛い。あと、普通に大きい。C?Dも期待でk・・・
おっと、いかんいかん。僕は紳士。僕は紳士。
彼女は満面の笑みだった。なんでそんなニンマリしてんだよ。
校庭に体が向いてるから、部活なのだろう。何部なのだろう。そうだ、名前も。
そう思って僕は顔を下にして俯いた。
そんなことも聞けない僕に腹が立った。口が開かないのが僕だ。そして、すぐに諦めるのが。
だけど、彼女は天才だった。
「さっきは一緒に登校してくれてありがとう!名前言ってなかったよね!私、〈鳥海美咲〉(とりうみ みさき)っていうの!部活はテニス部!」
僕の聞きたいところをピンポイントで教えてくれた。今朝のといい、これは彼女の才能なのだろうか。
あと、気にしないけど、彼女の隣にいた、おそらく友達が僕のことを「一緒に登校したの?キモっ」みたいな顔で僕のことを見てきた。いや、キモって言われてもねぇ泣
そして、僕はハッと気づいてしまったことに頭の思考回路を回転させる。
彼女とはこれで終わりなのではないのかと。さっきのお礼を言って終わり、当たり前かもしれない。
けど、嫌だった。けど、やっぱりそうだよな、さっき諦めたじゃないか。そもそも今こうやって名前を聞けただけでもミッション大成功だろ?
だけど・・・グッと気持ちをこらえた。
だからかもしれないけど、ラブコメ神はこの時ばかり僕に味方してくれた。
「はい、私の携帯の番号!家帰ったら連絡してねー!んじゃ!部活なんでー!」
そう言って彼女は僕のポケットに強引に紙を突っ込む。
なに?状況についていけない。
とりあえずお友達さんのゴミを見る目とニッコリとした彼女の顔が見えた。
美女と野獣かよ。
僕は無理やりポケットに突っ込まれた紙を見る。
ノートの端っこだ。彼女の雑さが見えたが、僕はとっても嬉しかった。
そう、彼女の携帯番号だったのだ。あぁ、さっき言ってたわ。でも、なんで渡したんだ。晒したい系女子なのか?いやそんなはずがない。はずがあってはいけない。
なんかの意図があるはずだ。携帯の番号を入力すれば・・・メールができたはずだ。
・・・・・・え?えぇ、?えぇー!これはまさか、
こんな脳内会議をしてる間に彼女はお友達さんに「行こ!」って言われて引きずられている。あのお友達さん怖ぇ。
だから、早くなんか、言わなきゃ、なんだ、なんだ、今まで会話なんてろくにしてこなかった、こういう時ってなんだ。こういう時に頭に浮かんでくるのも僕が愛するラノベなのであった。
「と、鳥海さん!」
「うん!なに?!」
「愛してる!じゃあねぇー!!」
恋愛小説のお決まりの言葉。完全に決まった。
お友達さんの足取りが止まった。
え、なにどした。
彼女はニコニコ笑ってる。僕の言った言動は正解だったのだろう。よっしゃ!
お友達さんは哀れみの目を僕に向けた。こころなしか、殺気を感じ取った。僕の言った言動は不正解だったようだ。殺さないで。
まぁ、気にしないさ、メールができるのだから。早く帰りたいし。そうして彼女達に背を向けた。
メラメラと伝わる殺気を感じながら。
電話番号は何回見ても変わらないはずだ。それなのに何回も何回も見てしまう。まるで変態のように。事実かもしれないけど。
けど、本当に嬉しくて、電話番号を覚えてしまったぐらいだ。 下校中だってお教のようにブツブツ言ってたし。
あぁ〜くわばらくわばら。
そんなこと言ってるうちに長い長い家までの道のりが終った。
まぁ、普通の人の足なら5分かからないぐらいのところに家はある。
だけど、今日はとてつもなく長く感じた。シルクロード並。
ただいまを言って家に入る。そして、階段を上がる。まぁ、当然誰もいないのだけれど。
けど、今日はそんなことどうでもいい!100m走以上のスピードで走って部屋に入った。
電話番号を入力して名前を入れた。その動作さえも長く感じた。
名前はみさきちゃんだ。完璧に覚えた。変態の証拠だ。そして、メールの内容を考える。
僕はスマホと呼ばれる携帯を持っているが、友達と連絡なんてしたことない。したいとも思わないけど。
だから、この一通を送るまでにすごい時間を使った。ざっと太陽が西に沈むぐらいの時間まで。流石にこれは、重症だな。
『今日はありがとうございました。僕は友達いないから、嬉しかった。僕の名前は下原 厚史。どうぞよろしく。』
コミュ障の証、句点。終止符。なんだよこれ、業務連絡かよ。
しかしコミュ障の僕の割には上出来である。
だけど、何故かあのお友達さんの顔が浮かんだ。え、この文章もだめなのか、、、
こんな文を書いている間におそらく部活が終わったであろう時間になっていた。
どんだけ俺コミュ障だよ。
ということでこの文を送信してみた。自分のコミュ障をこんなにも恨んだことは初めてかもしれない。
返信は来ないまま時刻は9時になっていた。まだ、親は帰ってきてないらしい。妹もかよ。「死ねよ」小声で言った。もちろん親へ。
そんな中、暗い気持ちを和らげてくれる着信音が僕の耳をスキップで通る。ホーム画面を見る。《みさきちゃん》と書いてあった。僕はドキドキして文を既読した。いや、オレキモ。
『おぉー!きちんと挨拶できるんだね!こちらこそよろしくね!私はあなたに期待してるから』
意味不明な文が送られてきて、戸惑った。
さらになんだ、最初の文。僕を舐めるな。僕だってメールの1通ぐらい余裕だし。いつも友達とメールとかしてるから余裕だし。
は?泣いてねぇーし。。。
しかしなんだ?!この予感に騒ぐ気持ちは!完全にこれは《ラブコメ的展開!》。神様!見離さないでくれたんですね。
となれば次に僕がすることは…
携帯をとって、また返信をした。こんなに携帯に熱中したことはない。
『僕が期待されてることって何。』
しばらくの沈黙。響き渡る着信音。すぐさま既読。勢いでホームボタン壊れたんじゃね?
『え、なんか怒ってる?(笑)私さ、君を《夢の世界》で見たの。そこでの、君の姿はあまりにも魅力的すぎたの。』
僕は、考えた。
なんだ、その動機。そんなの誰でもそうだろ、夢の中で○○君見たーみたいな。あるあるだろ。
さらに、怒ってないんですけど。どっからそう感じた?
けど、この子とは仲良くなれそうだ。でもこのことを伝えるだけだったのなら、もう関わる事は・・・
いーや、このマイナス思考良くないな。前向きに!これからも連絡とれるさ!
だか、一つ。《夢の世界》という言葉に僕の頭の本棚の一角にある記憶が、微かに反応した。
なぜか、よく思い出せないけど、僕も僕の《夢の世界》で彼女を。




