第二十二話『やっと出られて、しかも、めでたしめでたし、にゃのにゃん!』
第二十二話『やっと出られて、しかも、めでたしめでたし、にゃのにゃん!』
光を抜けたウチが降り立ったのは『遊びの広場』の『遊び場』にゃ。
「帰ってきたのにゃん」
それが実感出来るほど、ウチらには、なじみ深い場所にゃ。
「出来れば、三にんとも連れて帰ってきたかったにゃあ」
ウチはまたまたニャンポにゃんの言葉を想い出す。
『でもって実際に行動を起こしたとしてだよ。本当に迷惑をかけた者がなんにんか出た時にはね。「自分を守る」のは、その数に匹敵する以上の価値があったってこと。あったって信じなきゃ、ってことなの。でないと……、
あと、なにも出来なくなってしまうもの』
これはつまりにゃ。
『ウチの実行した「自分を守る」は、もうひとりのにゃん丸を犠牲にする以上の価値があったのにゃ。もし、仮ににゃかったとしてもにゃ。あったと信じるのにゃ。でにゃいと後悔にさいなまれて、あと、にゃんにも出来にゃくにゃってしまうのにゃん』
ニャンポにゃんのセリフを今のウチに置き換えたとしたらにゃ。おおよそ、こんにゃ意味ににゃるのかもしれにゃい。
(でもにゃあ。そういう考え方をすること自体が、今のウチではとても無理にゃん)
とはいってもにゃ。『あと、なにも出来なくなってしまうもの』には、にゃらにゃい。ちゃんとやらねばにゃらにゃいことがあるのにゃ。どんにゃにつらくてもしにゃければにゃらにゃいことが。
それは……事実を告げることにゃ。あの友にゃちに。
見れば、みんにゃ、草むらに寝転んでいる。その中でミロネにゃんの姿を見つけたウチは、『話さにゃければ』と急いで駆け寄ったのにゃん。
「ウチのせいでにゃん丸が、にゃん丸がぁっ!
……ぐすん。ごめんにゃあ。エラそうにゃことをいっておいて」
こらえきれずに、『うわあぁんにゃあ! うわあぁんにゃあ!』と泣き伏すウチ。
相手の顔を見た途端、心の中に溜まっていたものがとめどもにゃく吐き出されていく。そんにゃ自分をどうすることも出来にゃかったのにゃ。
ミロネにゃんの元へ戻ったら、『みんにゃ連れて帰ってきたのにゃ』といいたかった。自慢したかったのにゃ。でもにゃ。叶わにゃかった。
(ウチがいけにゃいのにゃ。ウチが不甲斐にゃいばっかりにぃ)
後悔の念が荒波の如く押し寄せてくるのにゃ。
涙が……とまらにゃいのにゃん。
「ふひっ……ふひ……ふひっ」
自分でも泣き声がかれてきた、と思った矢先にゃ。
「ミアン殿」
優しく語りかけてくる言葉が聞こえてきて、優しく肩を、ぽん、と叩かれたのにゃ。
見上げてみれば、そこにはミロネにゃんの優しく暖かにゃまなざしが。
「なにをいっているんだ。ちゃんと居るじゃないか。両肩と、ほら、尻尾にも」
「にゃ、にゃんと!」
慌てて後ろを振り向くウチ。風に煽られてか、マントの左下の角が斜めにめくり上がっていて、隠れていた部分が露出している。覗いてみれば、くるっ、と可愛い曲線を描いた尻尾の先っぽに、真ん丸姿のにゃん丸が。
(ええとぉ……、本当にぃ……)
恐る恐る右肩へ、左肩へと視線を移してみたのにゃ。
右肩のにゃん丸は、お目目がぱっちりで、にっこにこ。でもって、
左肩のにゃん丸は、眠いのか、うつらうつら、にゃ。
前者は点灯していたにゃん丸、後者は点滅していたにゃん丸と直ぐに知れた。
大丈夫にゃ。ふたりとも居る。
(にゃんにゃあ。みんにゃ、助かっているじゃにゃい)
「ふにゃあぁああ。……ぐすん。良かった。良かったにゃあ」
ウチの尻尾にしがみついたまま、すやすやと眠っているにゃん丸を見て思ったのにゃ。
ミーにゃんがいっていた。『モワンは今、幸せなんだ』って。でもにゃ。あの頃にゃって幸せにゃった。たとえ泣いたとしてもにゃ。優しく迎えてくれる家族が居たのにゃもん。帰れる場所があったのにゃもん。きっとこの子も、ウチと一緒にゃら大丈夫と思ってくれたのに違いにゃい。にゃんか小さい頃のウチとダブって見えて、愛しい思いに駆られてにゃらにゃかった。
(……にしてもにゃ。どうして気がつかにゃかったのにゃろう)
見えにくかったからかもしれにゃい。にゃん丸自身の霊力が弱まっていて、霊圧を感じにくかった、というのもあるにゃろう。でもやっぱりにゃ。一番の理由は、ウチがパニクっていたからと思うのにゃ。確かに『にゃん丸を落とした』と思った以降、冷静さに欠いていたことは否めにゃい。
(守るはずの者がこれではいけにゃい)
ニャンポにゃんも思いがけにゃい事態にパニクってしまい、それでウチらに迷惑をかけたのにゃ。しかしにゃがら、今回はある意味、それよりもひどいかもしれにゃい。もし、選択を誤っていたら、『自分を守る』『天秤を釣り合わせる』どころの騒ぎじゃにゃい。ウチにゃってにゃん丸の三にんともども、今も狭界の中。出られにゃくにゃっていたのにゃもん。
(ニャンポにゃんを責める資格にゃんかウチにはにゃいのにゃ)
反省すること頻りにゃん。
「こういうことをいうのは、はなはだ苦手なのだが」
めったに見られにゃい照れくさそうにゃ顔で、ミロネにゃんが声をかけてきたのにゃ。
「どうしたのにゃん?」
「貴殿のおかげでにゃん丸は三にんとも助かった。……いや、にゃん丸だけじゃない。オレたちもだ。君がにゃん丸と最後まで残ってくれたからこそ、オレたちは安心してこの空間に戻ることが出来たんだ。
有難う。ミアン殿」
にゃんとも丁寧にゃお礼の言葉にゃ。
「あのにゃあ、ミロネにゃん」
ウチはいってしまおうと思ったのにゃ。
にゃん丸のひとりを置き去りにしようとしたことを。
でもにゃ。ミロネにゃんは静かに首を横に振ったのにゃ。
「判っている。いろいろとあったのだろう?
貴殿にも話した通り、狭界は『ゼロの時』を迎えるくらい、激しく歪んでいた。あんな状況では、なにがあっても不思議じゃない。
然るに、オレたちや貴殿、それににゃん丸たち三にんのいずれもが、無事にここへ帰ってこられた。
保守空間を務めとするオレたちにとって一番重要なのは結果だ。過程もむろん大事だが、結果こそが評価に繋がる。結果が全てといってもいい。
となればだ。これ以上、なにを望むことがあろうか。
そして……、この予想を上回る成果をもたらしたのは、紛れもなく貴殿だ。
殿を務めることでセミスタに乗っているオレたちの安全をより確かなものにしてくれた。
最善の道を選択する知恵と勇気があったからこそ、貴殿もにゃん丸も無事だったのだ。
ミアン殿。オレは良い友と巡り逢えたことに心の底から感謝している。
貴殿は信じられる。信じられる友がそばに居るのは心強い」
……べた褒めにゃん。
(ぶふっ。とぉっても、くすぐったいのにゃん)
「にゃあにぃ。困った時はお互い様にゃん」
これをいうのが精一杯にゃ。
(でもにゃあ。ウチに褒められることがあるとするにゃら、
選択を間違えにゃかったことぐらいにゃろうにゃあ)
良かったにゃあ。誰ひとり犠牲とにゃらずに帰ってこれて。誰ひとり……。
いんにゃ、違う。ネコダマにゃんが居た。ネコダマにゃんが身体を張ってくれたからこそ、ウチは力を回復して、にゃん丸らと一緒にここへ無事に帰ってこられたのにゃ。『自分を守る』の天秤の向こう側に乗ったのはネコダマにゃんにゃ。ネコダマにゃんの犠牲が、天秤を釣り合わせてくれたのにゃ。
(ごめんにゃあ、ネコダマにゃん)
心の中で詫びるウチ。と、そこに別のウチが語りかけてきたのにゃ。
違うにゃよ。ネコダマにゃんは犠牲ににゃあんかにゃっていにゃい。『連れていって』といってくれたじゃにゃい。形を変えたにゃけにゃ。ウチと一つに、元の姿に戻ったにゃけにゃん。
そして……締め括りとして語ったのが、ウチもそうあって欲しいと思う言葉にゃん。
(今も生きているのにゃ。力も心もみんにゃウチの中で。にゃあ、ネコダマにゃん)
「いろいろと有難うにゃ。じゃあ、また逢おうにゃん」
「ぷゆぷゆ。ジャア、マタ」「ぷゆぷゆ。マッテイルネ」
「ぷゆぷゆ。タノシミニシテイルカラ」
にゃん丸らと別れのあいさつを交わしたのにゃん。近くの上空に浮かんでいる固定型スバルから放たれた青き光芒を浴びると、にゃん丸らは、すぅっ、とその姿を消した。ミロネにゃんの話に依れば、もう保守空間に居るレミロにゃんの元に帰っているそうにゃ。
(お礼がてら、明日にでも遊びに行くのにゃん)
串のパンにゃんがマントをマフラーへと戻し、首に巻きつけてくれたのにゃ。裏地の赤色が隠れている為、見た目には青一色にゃ。
「やっぱりにゃあ。遊び場は気持ちがいいのにゃん」
そよ風が首の青い布地をひらひらとなびかせ、ウチのほおを優しく撫でている。まるで『お疲れ様でした』とねぎらっているみたいにゃ。
心に残る『帰ってきて、ほっ、としたにゃ』の余韻を楽しんでいるのか、みんにゃがみんにゃ、口を噤んでいる。静かにゃ心休まるひとときが訪れた中、暖かな陽射しも手伝ってか、ついうつらうつら、と……にゃんていかにもネコらしい習慣が頭をもたげてくるところにゃのにゃけれども、どういうもんか今日は違うのにゃ。まぁにゃんというかぁ、ネコ恋しさが募っているとでもいうかぁ、とにかくにゃ。ふと気がつけば、『誰かとお喋りしたいにゃあ』との欲求が心のうちで強くにゃっていたのにゃ。他の友にゃちも気持ちはおんにゃじとみえて、次第に声を上げ始めてきたのにゃん。
「終わったね、ミアン君」
ミクリにゃんに続いてミロネにゃんも。
「たった今、マザーから連絡が入った。どうやら、大精霊たちに依る『霊力バランスの調整』は無事に終わったらしい。間もなく、どの狭界の歪みも標準レベル以下に収まるはずだ。そうなれば、狭界はまた元のように通常空間から隔離された存在となる。ミリア殿やオレたちのような被害者も出なくなる」
「つまり、いつもに戻れるってわけね。ほっ、としたわん」
ミーにゃんは言葉を継いにゃあと、ほっとした、との表現にぴったりの真似を。力が抜けたかの如く地面に尻モチを突くと、両腕を拡げた格好で仰向けに、ばたっ、と倒れたのにゃん。
「そうだね。他の場所はともかく、っていい方は悪いけど、少なくともイオラの森だけは、いつだって平穏な場所であって欲しいからね」
「異議なし、でありまぁすっ」
「そうね。わたしも棲み家はここ。なんにもないのが一番だわ」
ミクリにゃんの言葉に、ミムカにゃん、ミストにゃんと続けて賛成。もちろん、
「ウチも、そう思うにゃん」
「ミロネにゃんのいう通りにゃった」
「なにが、だ?」
「ほら。メノオラのことを、『良い悪いじゃない。自分が生き残ろうと必死なだけだ』っていったにゃろう?」
「ああ。それが?」
「ウチはにゃ。湧湖の中でメノオラのニャンポにゃんに遭ったのにゃ。
いろいろとあったけど、いざ話をしてみたら、とぉってもいい霊体にゃった。お友にゃちににゃれたら、と思うくらいにゃ」
「そうか」
「でもにゃ。……ふう。もう逢えにゃいのにゃにゃあ」
「逢えるさ」
(にゃんと!)
ため息交じりの、気落ちしたようにいったウチの言葉に、ミロネにゃんはすかさず反応。こともにゃげにいい放ったのにゃ。
「ふにゃ。いつにゃん?」
「五百年後ぐらいだろうか。多分その頃にまた、狭界が歪むだろうから」
(あのにゃあ。……ああでも)
「ウチらも生きているってわけにゃ。……にしても気の長い話にゃ」
「だな」
ミロネにゃんは普段、表情を顔に表わさにゃい。そっけにゃい口調にぴったりの愛想のにゃさにゃ。にゃのにこの時ばかりは、ウチが微笑むと、ミロネにゃんも優しく微笑み返しをしてくれたのにゃ。ミーにゃんが女の子と見紛うぐらい、元々が綺麗にゃ顔立ちにゃもんにゃから、不覚にも、ついつい見惚れてしまったのにゃん。
スタセミがどこにも見当たらにゃい。もしや、と思ってミクリにゃんの毛並みを見れば、技の戦士を表わす青一色から、いつもの赤青二色へと戻っているのにゃ。『霊技を解いたのにゃ』とは容易に察しがつく。聞けば、航行の途中、スタセミはそれ自体の存在が不安定にゃ状態に陥ってしまったとのこと。力不足にゃのは一目瞭然。にゃもんで、乗員みんにゃがスタセミに手を当て、ここに辿り着くまで霊力を補給し続けたらしいのにゃ。
(そんにゃことがあったにゃんて。こっちはこっちで、あっちはあっちで、それにゃりのドラマがあったというわけにゃ。スタセミもみんにゃも、お疲れ様でしたにゃん)
一つ想い出したことがあったのにゃ。
「そういえば、ミーにゃん。ウチは聞きたいことがあるのにゃけれども」
「えっ。なんなの?」
「ほら、ミーにゃんて時々、後ろを振り向いて『がさごそ』やっては、変てこにゃものを取り出しているじゃにゃいか」
「変てこなものじゃないわん。アタシのおもちゃ。イオラがくれたの。モワンも知っているでしょ?」
「知っていることは知っているのにゃけれども。あれって精霊の間にあるのにゃろう?
どうやって出しているのにゃん?」
「ああ、そのこと。簡単よ。アタシのおもちゃ箱ってね。呪がかかっているの。アタシがどこに居ようと、中に入っているモノを取り出せる呪がね。イメージ的にいうと……そうだなぁ。おもちゃ箱の入り口部分が常にアタシのそばにあるって感じ。判ったぁ?」
「どこに居ようと……」
ウチはふと思いついたのにゃ。
「にゃあ、ミーにゃん」
「なぁにぃ? まだ質問があるわん?」
「ひょっとして、逆は出来にゃいのにゃん?」
「逆って?」
「にゃから、おもちゃ箱に飛び込んで、精霊の間へ抜け出すことがにゃ」
「出来るわん。でもそれがどう…………あっ!」
親友の顔。目も口も大きく開いて、ぱっ、と花が開いたようにゃ感じを覚えたのにゃ。
「ミーにゃん!」
多分、めっ! みたいにゃ感じで睨んでいたと思うのにゃけれども、そんにゃウチを見て、ちっちっちっ、とネコ差し指を振るミーにゃん。
「良くある『ぽか』。怒るほどのことではないわん」
いつもの如くの軽い口調にゃん。
「助かったんだから、それでいいじゃない。でしょ?
そんなことより大変なの。ミリアんがね」
もう別にゃ話題に移っているのにゃ。
(んもう。ミーにゃんたらぁ。ウチは、いつも振り回されっ放しにゃん)
知らず知らずにうちに、『はぁう』と大きにゃため息を突いていたのにゃ。
どうやら、ウチらはしにゃくてもいい苦労をしたようにゃん。
(みんにゃには内緒にしておこう、っと。でにゃいと、非難ぶぅぶぅ、にゃろうしにゃ)
そんにゃウチの気も知らにゃいでミーにゃんの話は延々と続いたのにゃ。
「新型『無気力波』の開発に着手したんだって。名前も、『好きな私の為ならなんでも出来る』っていってね。なんでもミリアんが命令したことは、てきぱき、と動くけど、あとは全然っていう……」
頭上より燦々と降り注ぎしは『三連太陽』の陽射し。ともに魅かれ合う三つの太陽が一つの輝きとにゃって、天空の村や村の空に恵みの光をもたらしているのにゃ。
ウチはみんにゃからちょっと離れた。折しも時刻は、陽が『さよなら』を告げんばかりの頃にゃ。『間に合ったにゃ』と、ほっ、とした気持ちで見上げてみた。空を染める夕焼けの色が実体波の目を通して、心にまで滲んでくる。ちょっと物悲しい気分にゃん。
目一杯照れているようにゃ色のお空に、お父にゃんとお母にゃんの顔が、ぽっかり、と浮かぶ。どちらもウチとほとんど変わらにゃい顔立ちにゃのにゃけれども、お母にゃんはちょっと色白で、お父にゃんは色黒っぽい。微笑みかけてくれるふたりの口から、『よぉっ、元気か?』『元気してる?』との声が聞こえた……気がしたのにゃん。
顔を下げて視線をちょっとばかし先のほうへと向けてみたのにゃ。
そしたら……、
今日という残りわずかにゃ時を惜しめとばかりに、ミーにゃんを囲んで仲間の誰もが、わいわいがやがや。話に興じているのにゃ。ウチら霊体は常に身体から、青白の淡い光を放っている。朝や昼間は目立たにゃくても、夕暮れともにゃれば一目瞭然。日頃、仲良しのみんにゃが、『神秘的にゃ生き物』へと変貌するのにゃ。おまけに今は、空も村も夕陽に映え、朱色にお化粧されている。みんにゃも自分たちの光の色と相まって、赤紫っぽく輝いている。多分、ウチもにゃ。夕陽が織り成す、今この時、この瞬間でしかお目にかかれにゃいこの光景。言葉に表わせにゃいほどの美しさにゃん。
再びお空を見上げた。懐かしい二つの顔に目頭が熱くにゃる。
「元気にゃよ、ウチは。もう、ひとりぽっちじゃにゃい。みんにゃが居るのにゃもん」
思わず語りかけたウチのほおには、……いつしか一筋の雫が伝っていたのにゃ。




