エピローグ『モデルへの道は険しいのにゃん!』(最終回)
エピローグ『モデルへの道は険しいのにゃん!』
「乙女にゃのに、にゃあまん」
「なによ、藪から棒に。おまけに前足の肉球をアタシにかざしたりして」
「今もウチは美少女」
「なに『困った子』みたいなことをいっているわん?」
「フラペのほうが好きにゃ」
「どさくさ紛れに危ないセリフを吐くんじゃないわん!」
「いや、お話の中では訴える機会が少にゃかったもんにゃから、ここで思いの丈をぶちかましたかったのにゃん。やって良かったにゃあ。せいせいしたのにゃ」
「んもう! アタシを不満の吐け口にしないで欲しいわん!」
「まぁまぁ。お話も終わったことにゃし、ここは笑顔で締め括ろうにゃん」
こつこつ。こつこつ。こつこつ。こつこつ。
「こんにちは」
「うっ。全身を黒衣ですっぽりと包んで、おまけに顔まで隠している……。
だ、誰わん! どうやってこの精霊の間に入ってきたわん!」
「お初にお目にかかります。
わたくしは『クレオP』。名もない預言者にございます」
「名前はあるじゃない、って、あなたがクレオPなの? 本当に居たんだ……。
おぉっ、と。呆然としている場合じゃない。それで? どんな用事があってきたわん?」
「一言、言葉を差し上げたくて」
「言葉? 一体なんなのわん?」
「逢うは別れの始めなり。
では、これにて」
こつこつ。こつこつ。こつこつ。こつこつ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。…………消えちゃったわん。
ねぇ、ミアン。これってどういうことなの?」
「喋った通りにゃ。ミーにゃん。いよいよ、お別れの時がきたのにゃん」
「えっ」
「過去へ戻るのにゃよ。お話が終わった今、ウチの役目も終わりにゃもん。
ぶふふっ。あのにゃ。『昔』のミーにゃんって、とぉってもさみしがり屋さんにゃんよ。
にゃもんで、早く帰ってそばに居てあげにゃいとにゃ」
「ミアン……」
「『今』のミーにゃん。『今』のウチといつまでも仲良しでにゃ。
にゃら……、さよにゃら、ミーにゃん」
「ミ、ミアン! どこ、どこへ行っちゃうのぉ!
アタシだって……『今』のアタシだって、さみしがり屋……」
半分、涙目とにゃった『今』の親友の前から『昔』のウチは姿を消したのにゃ。
(『今』のウチにゃん。あとはよろしく頼むのにゃよぉ)
「ふにゃ!」
きょろきょろ。
「今、誰か呼んにゃようにゃ気がしたのにゃけれども」
「ミ、ミアアァァん!」
がばっ。
起きて早々、いきにゃりミーにゃんにしがみつかれてしまったのにゃん。
「『昔』のミアンが……、あれっ? 額の刻印がなくなっているのわん」
「額の? ……にゃあるほろぉ」
ウチは全てを察したのにゃ。
(さよにゃらぁ、『昔』のウチにゃん)
始めあれば終わりもある。……ということで。
「お話はこれでおしまい。ミーにゃん、どうにゃった?」
ぱちぱちぱち。
「うん。すっごく、良かったわん」
「ミーにゃんに喜んでもらえたにゃんて。嬉しいにゃあ」
「多分、『読者』も喜んでくれると思うわん」
「本当にそうにゃといいのにゃけれども。話をした『昔』のウチも喜ぶにゃろうし」
「でも……ただ一つ残念なのは」
「にゃんにゃ?」
「アタシがにゃん丸の役をやりたかったわん。最後は手と手を取り合って、みたいな」
「とはいってもにゃあ。にゃん丸と一緒に残るってミロネにゃんに話し始めた途端、ウチらから急にそそくさと離れていったじゃにゃいか」
「うぐっ」
ミーにゃんが絶句。多少にゃりとも後ろめたさを感じていたのにゃろうか。しゅん、とした表情に。
「ミアン、それはいわない約束だわん。アタシはリーダーだし、みんなを無事に元の空間へと戻す義務だってあるし……」
「いや、離れて正解にゃん。もし、留まってミーにゃんの身ににゃにかあったとしたら、それこそ大変にゃもん」
「…………あ、有難う、ミアン。気遣ってくれてすっごく嬉しいわん」
「ちにゃみにミーにゃん。今回のお話で一番感動したのはどこにゃん?」
「うぅぅんと。やっぱりあれかなぁ。『そこにこそ』。うん。これに尽きるわん!」
「ウチも心震えたにゃあ。ところで、と。ミーにゃんとウチは繋がりがあるのにゃよ」
「当然だわん! イオラの命の欠片だって、お互い、持っているし。親友同士だし。
でも、それがどうしたわん?」
「ミーにゃんも感動に値するってことにゃ。『ネコにコネ』にゃもん」
「うわあぉん!」
本当はお話どころではにゃい。ウチは今、悩める乙女ネコの立場にあるのにゃ。いわずとしれた『愛ネコ』問題。いまにゃ解決の糸口さえ見つからにゃい。
「全くぅ。ネイルにゃんにも困ったもんにゃあ」
「本当、困った子だわん」
「どうしてウチの周りには……親友のミーにゃんも変態にゃしぃ……」
「ちょ、ちょっと待つわん。聞き捨てならないわん。なんでアタシが変態なのわん?」
「にゃってウチが恥ずかしいっていうのに、毛づくろいしているさまをじろじろと眺めているじゃにゃいか」
「別に見たくて見ているわけじゃないわん。しょうがないじゃない。ミアンったら、暇さえあればやっているんだし」
「それこそしょうがにゃいじゃにゃいか。ネコにゃのにゃもん。
まぁ全部とはいわにゃい。せめてにゃ。ウチが床に尻を着けてオマタを開いている時ぐらいは遠慮してもらいたいものにゃん」
「それだってしょっちゅうだわん。しかも終わったと思ったら、そのまま、ばたん! と寝ちゃうし。遠慮していたら話す機会がないわん」
「にゃからといってにゃ。オマタをぺろぺろとなめているさまを、じっと見つめられるのはたまらにゃいのにゃ。にゃんとかして欲しいのにゃん」
「といわれても困るわん。それにね。ミアンもいったように、あれはネコとしては自然な姿。自然な姿を自然に見て、どこがおかしいわん? なにがいけないわん?」
「にゃんと! にゃあるほど。いわれてみればもっともにゃん。さすがはミーにゃん」
「えっ。……いやあ、それほどのことではないわん」
「いやいや謙遜には及ばにゃいのにゃん。ミーにゃんの奥深いものの考え方。しかと肝に銘じたのにゃん」
「えっ。アタシが奥深い考えの持ち主?」
ぽっ。
「んもう、どんどん顔が火照っていくわん。
ミアンったらぁ。そんなにおだてなくったっていいわん。恥ずかしくて舞い上がってしまうわん」
ふわんふわんふわん。ふわんふわんふわん。
「顔を両手で覆って本当に舞い上がっているのにゃん……。
そうにゃ。早速、書いておかにゃければ」
ぺらっ。
すらすらすらすら。
「あれっ? ちゃぶ台でなにか書いているわん。どれどれ、下りてみようっと」
すとん。
「へぇ。ノートなんて持っていたんだ。それで一体なにを……」
すらすらすらっ。
「よぉし、書き終えたのにゃん」
すたすたすた。すたすたすた。
「うわぁん。覗き見失敗ぁい。
待ってよぉ。どこへ行くわぁん?」
ウチは急いでミーにゃんを創造された精霊イオラにゃんの元へ。精霊の間を飛び出して、湖のほとりにある大岩で日向ぼっこをしていたのにゃん。
『風の中、白い一枚霊布を身に纏う可憐にゃ美少女が物思いに耽っている』
はた目からすればこんにゃ感じにゃ。もっとも、精霊レベルの霊体ともにゃれば、どんにゃ姿にも、大霊蛇ににゃることにゃって良くあるのにゃ。一度、『ヨモギ団子かえびふらいにでもにゃってくれにゃいにゃろうか』と頼んでみた。そしたら、『大好きなミアンちゃんのお願いでもそれだけは聴いてあげられないわ。許して頂戴』と断わられたのにゃ。精霊も容姿にはうるさい、との認識を深めた瞬間にゃ。
まっ。それはともかくとして。
「あら、ミアンちゃん」「はい、どうぞ、にゃん」
すうっ、とネコ人型モードの両手で、うやうやしく差し出したのにゃん。
「これは……、ワタシがあげたノートね。『ミーナちゃんについて気がついたことがあったら、なんでもいいから書いておいて』って頼んだ」
「そうにゃ。今の今ににゃって、やっとミーにゃんの本質がつかめたのにゃ」
「あら。それは興味深いわね。早速見せてもらいましょうか」
ぺらっ。
「まぁ絵まで描いているじゃない。ミアンちゃんたら、本当、たいしたものねぇ」
「にゃはっ。それほどでもにゃいのにゃん」
「それで、と。なんて書いてあるのかしら……」
『ミーにゃんは自然にゃ変態にゃん』
「あらまっ。意外な発見。ミーナちゃんって、そうだったの?」
「うんにゃ。自分から喋ったのにゃよ」
「面白い事実だわ。それで絵のほうは」
ぺらぺらぺら。ぺらぺらぺら。
「一枚だけじゃなくて何枚も。……そうか。同じものを違うアングルから描いているのね。
良く書けて……おや?」
ぴたり。イオラにゃんの手がとまったのにゃん。
「この絵。ミアンちゃんの毛づくろいを穴のあくほど見つめているミーナちゃんの、なんとも『アレ』な様子が……」
「にゃ。これが真実の姿にゃのにゃん」
ぱたぱたぱた。
「ここに居たわん。
ねぇ、イオラ。それってなにが書いて」
ひょい。
「ええと…………ぶぐっ!
こらぁっ! 誰が自然な変態だわん!」
びしっ! 「ミーにゃん」
びしっ! 「ミーナちゃん」
「ふたり並んで妖精を指差すんじゃないわん! とんだ濡れ衣だわん!
大体、イオラも信じすぎるわん!」
「でもね、ミーナちゃん。この絵を見たら誰だって」
「絵って……うわぉん!」
目を丸くして口元を隠すかのように両手を当てているミーにゃん。ウチとしては、『描いているものそれ自体は真実にゃから、否定とか非難の言葉を口にすることはあり得にゃい』とたかを括っていたのにゃ。しかしにゃがら、『このまま黙っていては自分の負け』とでも思ったのにゃろうか。認めつつも責めてきたのにゃ。
「んもう! ミアンったら、あまりにもリアルに書きすぎよぉ。
……っていうか、アタシの創造主になんてぇものを見せるのぉ。書くならもっとましなものを書いて欲しいわぁん!」
赤みがかった白い顔が、みるみる間に真っ赤にゃ。『自分を弁護しなきゃ』『話題を少しでも逸らさなきゃ』との焦りからにゃろうか。思いつくまま手当たり次第、といった様子で、あれやこれやと駄弁を振るい出す始末。両腕両足、いや、身体全体を動かしにゃがらの大騒ぎにゃ。
(ぶふふっ。ムキににゃった時のミーにゃんの顔も、すっごく可愛いのにゃん)
「ミアンだって、そうだわん」
とうとうウチの話……昔話も含めてにゃ……に及ぶ。
「大きな木の枝で寝ててね。ふとした拍子に地面に墜ちたの。
そしたらさ。何事もなかったかのように澄ました顔で歩いていっちゃってね」とか、
「『湖の主の大魚パロンを食べるのにゃ』って挑んで、反対に食べられてね。
ようようの思いでお尻の穴から抜け出したわん」とか、
「ほとんど毎日、進路のど真ん中や道端で、ぐぅすか、おネムわん。獣が大勢駆けてきて、もみくちゃに踏み潰されているのを見たことがあるんだけどね。それでも起きないの。
あっ、そうそう。この間なんか湖の広場まで戻ってきたのによ。どこをどう間違えたのか、湖『彩花』に、どっぼぉん! 見つけた時には水面に浮かんだまま寝ていたの。アタシのお姉さんや妹たちが一部始終見ていたから、間違いないわん」とかいい出す始末にゃ。
ちにゃみにミーにゃんの姉妹はイオラの木に咲くお花さんら。お喋り好きで年柄年中喋りっ放しらしいのにゃ。もっとも、呼びかけてくる時はともかくにゃ。普段は『閉じた交信』にゃので、ウチには一切聞こえにゃい。
ミーにゃんの話を聴いたイオラにゃんの反応は、といえばにゃ。
「まぁ。ふふっ。相も変わらずミアンちゃんてお茶目で可愛いわねぇ」
「にゃははっ。いやあ、それほどでもにゃあ」
『可愛い』の上に『お茶目で』までが乗っかっている。ネコ人型モードの姿勢のまま、思わず頭をかいての照れ笑いにゃん。
「んもう! お茶目で可愛いどころの話じゃないわん!」
和やかにゃ雰囲気が漂う中、ミーにゃんひとりにゃけが、ほっぺを膨らませての『おかんむり』にゃ。
ところ代わって緑みを帯びた白の空間。おなじみウチらの棲み家、精霊の間にゃん。
「ふふっ。ミーナちゃんたら。
それじゃあそろそろ、始めましょうか」
「えっ! なにをわん?」「にゃにを、にゃん?」
イオラにゃんが答える代わりに、みたいにゃ感じで、今の今まで一度も目にしたことがにゃい円盤型の霊形物が突如、どこからともにゃく現われたのにゃ。見れば全体が、つやのある白っぽい色で彩られている丸みを帯びたフォルム。縁の周りに沿って走るかの如く、光が点滅している。
『にゃんにゃろう?』と思う間もにゃく、円盤の側面から突起物が、ずらり、と並ぶ。
ぶぴゅぅぅっ!
一斉にスプレーが始まったところを見ると、ノズルにゃったの違いにゃい。ピンク色の細かい粒子が霧状に飛散、精霊の間をピンク色に染め上げていく。
「うわあん!」「ふにゃあん!」
ミーにゃんとウチが仲良く浴びせられたのに続いて、お次はイオラにゃん。こっちは集中砲火にゃ。たちまち濃厚にゃピンク色に染まったのにゃん。
スプレーがとまるや否や、自分のお務めは終わったとばかりに消えていく謎の円盤。それを見送ったあと、イオラにゃんは、『ほら、見て』と、ウチの目の前に立つ。
「どう? ミアンちゃん。タイトルは『深い愛』。気に入ってもらえた?」
右手を頭の右側に、左手を左腰にそれぞれ当て、あと左足を『く』の字に。ちょっと身体を右側に傾けた格好にゃ。
「自分を作品にしてどうするのにゃん?」
ミーにゃんも悪ノリ。ウチから見て、イオラにゃんの左横におんにゃじ格好で並んにゃのにゃ。
「どう? ミアン。タイトルは『普通の愛』わん」
ミーにゃんまで始めた以上、次は当然、ウチの番にゃ。
(これは……ウチの美貌を知らしめるまたとにゃいチャンスかもにゃん!)
投げキッスとか『うぅふぅぅん!』みたいにゃ喘ぎ声を出すとか、いろんにゃことを頭に思い巡らしたのにゃ。でもってスタイルを決めるべく動き始めた途端、ミーにゃんから、
「あっ、ミアンはやらなくてもいいわん」
ウチは、ぴたあっ、と硬直。思わず口から飛び出た言葉は、
「にゃ、にゃんと!」
(くうぅっ。家の中といえどもモデルへの道は険しいのにゃん)
おしまい……にゃん!




