第七十話 Stand Up to the Victory
「我が勝利の鍵だ!!」
鼻の穴を大きく膨らませてドヤ顔のルル皇太女が、仁王立ちで現れた!
今までの流れをぶった斬るように、唐突に姿を表したルル皇太女を見て、皆が呆気にとられてるんですけど。
スピーカーから、リズちゃんの声が響いてくる。
「ボクは、この数年の間ずっとルル皇太女へのマテリアル供給を続けて、ようやく彼女を実体化することに成功した。今の彼女なら、朔ちゃんだけでなく、応接間に居る皆の目にも見えてるんじゃないかな?」
いち早く立ち直ったらしい住吉は、ソファから立ち上がり、
「リズ! なんだ、この、まるで悪魔みたいな容貌の小娘は! 撮み出せ!」
などと、スピーカーを睨みつけながら怒声を上げるけれども、
「控えおろう! 頭が高いぞ! 小僧!」
ルル皇太女の一喝で、住吉は気圧されたのか、そのままストンとソファに力なく座り込んでしまう。
「あ~! あ、あ~! うむ、やはり仮初の受肉であっても、肉声だと言の葉に魔力を込められるな!」
なにやら声の調子を整えながら、尊大に胸を張るルル皇太女に対し、血相を変えたチドリンが詰め寄る。
「住吉に何をしたの!」
ルル皇太女は、チドリンを何やら生暖かい視線で見つめてから、声のトーンを若干落としてから、囁くように、
「小娘も落ち着け。瑞穂内親王とやらの呪いを解くためには、我の力添えが必要ぞ?」
「皆、落ち着いて。彼女は、魔導帝国の皇太女、ルル・イエ・アル・アジフ殿下よ」
殿下なんて今まで呼んだことがないせいか、ルル皇太女は微苦笑を浮かべ、その表情を見て落ち着いたのか、住吉はソファに座り直して、まっすぐに背を伸ばしてから。
「し、失礼しました! 殿下のお名前はリズから伺っておりましたが、突然のことでありましたので動揺してしまいました。無礼をお許しください」
深々と頭を下げる住吉を見て、皆が安堵のため息を吐く。
あの住吉が!
素直に謝って!
しかも、頭まで下げてる!
と、皆の顔に書いてあるように見える。
虚を衝かれて呆然としてたチドリンも、「大変失礼いたしました!」とその場で綺麗なお辞儀をしてみせるのを見て、ルル皇太女は鷹揚に頷く。
「魔族である我が孟春とやらの宮殿に堂々と姿を見せるわけにいかぬであろ。朔、左腕を出せ」
あたしに近寄ってきたルル皇太女に向けて左腕を黙って差し出すと、ルル皇太女も左腕を伸ばしてきて、左腕同士で交差させると、スルリとルル皇太女の姿が、あたしの左腕の中へと吸い込まれてしまう!
「はあぁん?」
『何を腑抜けた声を出しておる! これこそはルロロクロス也! マテリアルを共振させ魂を伝達する魔導の奥義である!』
頭の中でルル皇太女の声が鳴り響くけれど、彼女が何を言ってるのか、理解できないんですけど。
『考えるな! ギュンギュギュンと感じろ!』
大きく息を吐ききって調息し、脳裏に花壇の光景を思い浮かべる。
よし、落ち着いてきた。
「リズちゃん、準備はこれでいいのかな? 瑞穂内親王殿下のことが心配だから、急いで向かいましょう」
『朔、我を無視するな!』
魔導とやらは、どうにも私には難しそうだ。
深淵を覗き込んだつもりで、何か見当違いの方向から干渉を受けてしまいそうだもの。
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「朕が扶桑国が光王! 孟春である!」
静謐な雰囲気の御簾越しに鳴り響く、どデカい胴間声。
……。
おかしいなあ。
ここは朝廷の謁見の間。
視線だけを動かして、周囲を見渡しても、あたしたち以外には、雅びやかな装いの宮廷貴族と官吏たちの姿しかないんですけど。
扶桑国の至尊の存在が御座すはずの御簾の中から、山賊の頭目のような声が聞こえてきたんですけど!
なんで、リズちゃんたちは平然としてるの?
もう慣れてしまってるとか?
あたしだけが動揺していることが知られてしまうと、色々と問題になりそうなので、必死に表情を取り繕ってるんですけど!
やばい!
周囲の宮廷貴族からの視線の圧力が強くなってきた!
ド辺境の赤城家の陪臣など、彼らからしたら、文字通りの『お上りさん』。
あたしはまだ元服してないから、公の場でも烏帽子はかぶらないんだけれど、宮廷貴族の文化では烏帽子を被らずに、頭頂を晒すことは、ちょっと考えられないほど、お下品な振る舞いに見えるんだとか。
あたしの容姿が子供らしく可愛ければ、子供扱いされて見逃されるみたいだけれど、意識を手放してた間に、厳つい体つきになってしまったし、周囲からの視線を生白く感じる!
「孟春陛下の宣が下された。さあ、天城殿、こちらへ参られよ」
宣と言うのは、やんごとなき方からの命令のことなんだけれど、
今のって、ただ名乗ってだけだよね?
どこに命令を伝える内容があったのかしら?
宮廷貴族たちってあたしたちには理解できない暗号で会話してるの?
などと、内心首を傾げてるのを表に出さないで、内心安堵しながら、御簾へ向けて深々と平伏してから立ち上がり、声をかけてきた頭中将の元へと歩み寄る。
頭中将ってのは、源氏物語の登場人物が有名だよね。
源氏物語で、光源氏の親友でライバルだった人。
近衛府の中将で蔵人頭を兼任している人をそう呼ぶんだけど。
この世界の近衛府というのは、六衛府の一つで、近衛府は光王陛下の側近近衛部隊。
蔵人頭というのは、蔵人所という禁中で光王の御側向きの御用をつとめ、機密文書・訴訟を司る常設の役所の中で二番目に偉い幹部で、バリキャリである。
つまり超エリートなんだけど、現在の頭中将は、以前会ったときはまだ従五位上右衛門佐だった秋津島さんちの正義くんなのよ!
頭中将は従四位下なので、従五位上から官位が着実に上がってる。
元服は済ませたようで、烏帽子に青い官服がキリリとよく似合ってる。
この数年間の間、めっちゃ頑張ってて、なおかつ努力が認められているようで、我が事のように嬉しいぞ。
頭中将に先導され、あたしたちは、同等と正面から内裏の奥へ進む。
そして瑞穂内親王殿下の元へと、案内されたのであった。
長らくおまたせして申し訳ございません。
連載を再開させていただきます。




