第六十八話 Resolution
恐る恐る、ヘリコプターのキャビンの中に入ると、なんだかやたら広いんですけど!
後部から入ると、まず格納庫になっていて、大型の四輪駆動車が二台、戦車にしかみえない車両? も二輌も並んでいるのに、まだまだ余剰スペースがあるんですけど!
格納庫を通り抜けると、シティホテルのような広さの廊下になっていて、左右の壁には、一定の間隔で扉が並んでいて、その扉の向こうには部屋が更に広がってそうなんだけど。
目測では外観の全長は、十八から二十メートルぐらいだったのに、この容積は異常でしょうに!
「応接間は、この扉の奥だ。さ、入ってくれ」
男山パイセンに通された部屋は、ホテルのロビーのようになっており、フカフカの絨毯の上にお洒落なテーブルを囲むように座り心地が良さそうなソファが並んでいる。
男山パイセンに勧められるがままに手近なソファに腰掛ける。
男山パイセンの隣に玻璃先輩が腰掛け、その隣にはチドリンが、最後に住吉が腰掛ける。
球磨は大きく伸びをしてから、絨毯の上で丸くなる。
『みんな集まったかなー? オスプレイを参考にして、ボクが魔法で作り上げた、ティルトローター機の第一号、【スキーズブラズニル号】にようこそ、サクちゃん!」
天井のスピーカーから、リズちゃんの声が響いてくる。
オスプレイと聞いて思い出してきた。
前世では、リズちゃんが操縦する大鳳家所有の自家用オスプレイに何度か乗せてもらったことがあった!
ヘリコプターじゃなくて、ティルトローター機だろ、いい加減覚えろよ!っとか、何度も何度も、住吉にツッコまれたなあ。
思い出し笑いしながら、ふと住吉と視線が合うと、露骨に視線を逸らされた。
この嫌な感じも、懐かしいなあ。
『あれ? サクちゃんってば、驚いてくれないんだ』
いかにもがっかりしましたと言いたげな口ぶりで独りごちるリズちゃんに対し、
「リズちゃんなら、魔法で何を作っても、今更驚いたりしないし」
前世では、子供の頃から、リズちゃんには驚天動地の連続に付き合わせられてしまって、感覚が麻痺してるのかも。
「ねえ、天城さんは、何故そんなにリズちゃんに親しげなの?」
玻璃先輩は、落ち着かないのか髪をかきあげながら不安げに問いかけてくるのに対し、あたしはしばしの間だけ躊躇してから答える。
「うん、だって、あたしの前世は高雄朔で、玻璃ちゃんの従妹だったから。この世界に生まれ変わって、天城朔って名前の異世界人になっちゃったんだけど。……アハハ、口止めはされてたけど、やっぱり、玻璃ちゃんには、嘘はつけなかったなあ」
玻璃先輩、いや、もう玻璃ちゃんでいいや。
玻璃ちゃんは真っ青になって、大きく瞳を見開きながら、
「ぜ、前世とか、生まれ変わったとかっ! あなたはサクちゃんで、死んでしまっていたの?!」
【邪気眼】や【月の女神】さまたちからは口止めされていたけれど、見知らぬ異世界に放り出されてしまった玻璃ちゃんたちには、もう隠し事はしたくない。
他言しないように、念押ししてから、あたしは、これまでの経緯をすべてぶちまけた。
「つまり、お前は高雄朔だったけれど、僕たちが知る高雄サクとは別人ということか? SFで良くあるテーマのタイムパラドックスって奴だな」
眼光鋭く、睨みつけてくる住吉に愛想笑いしてみると、心底嫌そうな顔で舌打ちしやがった。
あたしが死んだときは、あたし助けてくれる天城朔が傍に居なかったから、そのまま死んでしまったけれど、目の前の彼らが知る高雄サクは、あたしこと天城朔が神通力を使って瀕死の重傷から助けたから、死んでいない。
日向親子に連れ去られた高雄サクも、【邪気眼】の説明では、生きているのは間違いないそうで。
時間軸の辻褄が合わなくなった時点で、二人の高雄朔は別人なのだ。
「女神さまとか、凄い存在に口止めされてたそうだけれど、私たちに全部話してしまって、本当に良かったの?」
赤く泣きはらした目をこすりながら、問いかけてくるチドリンに対し、あたしはできるだけ優しく微笑んで見せながら、
「駆け引き無しで、みんなが頼りにできる相手って、いないんでしょ? それなら、前世で仲間だったあたしだけでも、無条件で支援してあげないとね。【邪気眼】や女神さまたちとのやり取りは、あたしに任せておいて」
男山パイセンは、頭から学帽を手に取り、あたしに恭しくお辞儀してから、
「ありがとう。ありがとう、サクっち! サクっちも困った時は、遠慮なく俺っちたちを頼ってくれていいからよ。今は扶桑王家が、俺っちたちの後ろ盾になってくれてるから、口添えくらいは出来ると思うぜ」
改めて、前世の仲間たちの姿を見ると、あたしが昏睡している間に成長したとはいえ、年齢的には、まだ高校生ぐらいのはずなのに、年齢以上に大人びて見える。
苦労してきたんだろうなあ。
「この凄いオスプレイもどきをかっ飛ばしてまで、光王陛下があたしを呼びつけた理由、そろそろ聞かせてもらえない? 何か、事情があるんでしょう?」
努めて明るい声色をつくってみせるあたしに対し、居住まいを正した住吉が、今度は真正面から、あたしを見つめながら。
「光王陛下のご令嬢、瑞穂内親王殿下にかけられた呪詛が急速に悪化している。最期に、一目でも朔殿に会いたいと仰せだ」
愛宕の謀反事件から今日までの間、ドタバタしていて、瑞穂内親王殿下のことをすっかり忘れていた、自分自身がすごく恥ずかしい。
「最期なんかにしないわ。なんとか出来るから、リズちゃんが迎えに来たんでしょ?」
『モチのロン! ボクとサクちゃんが力を合わせたら、不可能だって可能にしてみせるよ!」
スピーカー越しだから姿は見えないんだけれど、今のリズちゃんは間違いなく、いつものドヤ顔に違いない。




