第六十八話 FLYING IN THE SKY
お風呂上がりに、酒保で冷たい牛乳を買って飲んでいると、なにやら外が騒がしくなってきた気配が。
血相を変えた戸塚教官殿を筆頭に複数の教官たちが、あたし目掛けて駆け寄ってきて、否が応でも注目を集めてしまう。
「天城朔三号生!」
戸塚教官に大声で呼びかけられて、内心訝しく思いつつも、背筋を伸ばして敬礼をしながら、
「はい、戸塚教官殿! 小官はここにおります!」
戸塚教官殿は、額に脂汗を浮かべながら、右手に持っていた手紙を恭しく頭上に掲げてから、あたしに手を差し伸べるように目線で伝えてくる。
あたしは素直に受け取り、
「戸塚教官殿、この封筒は? 手触りが良いので随分とお高そうな紙ですが?」
この世界の手紙は、昔の日本のように、横長の紙を横で半分に折って文書を書き、偉い人の場合は公印を押して封をするんだけれど、この公印は見たことないなあ。
わけがわからず、我ながら惚けたことを口走ってしまったあたしに対し、
「バカモン! それは、御璽だよ! 畏れ多いことだぞ!」
「ぎょ、御璽ってまさか!?」
破いたりしないように丁寧に封を解き、内容を確認すると、確かに宛名はあたしで。
『天城朔は、直ちに参内せよ。孟春』
ってな具合に、簡潔な文書と今日の日付だけ書いてあり、最後に押印が……。
んんん?
孟春って当世の光王陛下の御名前で、この押印が御璽ってことは、御名御璽じゃん!
ってことは、あたし宛の勅書じゃん!
なんで、この世界で一番偉い人が、公文書で名指しで、あたしを呼びつけてるのよ!
「天城朔三号生! あたしたちも確認させてもらっていいかい?」
あたし宛に書かれて御璽で封印されてたから、戸塚教官殿たちも、中身は今はじめて見るわけね。
「なんと! 陪臣に過ぎない天城朔三号生に、このような!」
扶桑王家から見たあたしは、分国王の赤城家は直臣、その赤城家に仕えるあたしは、陪臣と言って、身分的に大きな格差があり、本来なら扶桑王家があたしに勅を下すなんてことはありえないんだけれど。
「戸塚教官殿、手紙は扶桑王家の使いの方がお持ちになったのですね?」
混乱しているあたしを見かねたのか、朝陽さまが助け舟を出してくださる。
ちなみに、士官学校在籍中は、朝陽さまと陽月さまも教官たちに絶対服従のため、敬語で会話しておられる。
「その通りだ。空を飛ぶ船でやってこられて、現在は第三演習場でお待ちだ」
「空を?」
この世界に空を飛ぶ船なんて存在しないので、朝陽さまも一瞬怪訝そうな顔になるけれど、すぐに真顔に戻り。
「暁、朔を連れて身支度させて。必要最低限のものは持参させるように」
「御意」
阿吽の呼吸で、いつの間にか現れた暁姉上が手を取って、あたしを連れ出してしまう。
あたしたちの自室に入ると、暁姉上はテキパキと風呂敷の中にあたしの守り刀をはじめ、最低限の日常品を風呂敷に包んでしまうのを見て、あたしもあわてて部屋着から狩衣に手早く着替える。
念の為、トネリコの槍も持っていこう。
「え~と、宮廷に参上するに当たり、着飾ったりしなくてもいいのでしょうか?」
あたしの素朴な疑問に、暁姉上は柔らかく微笑みながら、
「朔は陪臣なのですから、その必要があるのであれば、準備期間を与えてくださるはずよ。勅書には、直ちにって書いてあったのでしょう?」
「はい」
「なら、狩衣で問題ないはずよ。必要ならば、先方で着替える機会が与えられるでしょう」
なるほど、理に適っている。
きっと急ぐ理由があるに違いない。
空を飛んで使者が手紙を持ってきたわけだし。
「では、使者殿のところへ向かいましょう。くれぐれも、無礼がないようになさいね」
前世で出会ったことがある人たちの中で、一番社会的地位が高かったのは、総理大臣だったけれど、男山パイセンのお父さまだから、総理大臣就任前からの顔見知りだったしなあ。
最悪でも、あたしの首が飛ぶ程度で済みますように、と祈りながら武者震いしてみる。
自室の前で待ち構えていた、朝陽さまと陽月さま、それに教官たちと一緒に、駆け足で第三演習場へと向かうと、そこには、左右にのびた固定翼の両端に、三枚ずつの回転翼を備えたヘリコプターが着陸していた!
はあああっ!?
何それ!
ヘリコプターの前には、今となっては懐かしい男山パイセンたちと一緒に、すっかり虎のように大きくなった、猫族の球磨の姿が。
「待ってたぜ、天城の朔っち。俺っちたちと一緒に、夕方の空中遊覧と洒落込もうじゃん!」
ヘリコプターについて、色々とツッコミを入れたいんだけれど、あたしが高雄朔だって正体をこの場では明かせないし、この世界の人たちの前で地球の話をするわけにもいかず、大人しく連行されてしまうのであった。
前回は悪ノリし過ぎたと反省いたしまして、お口直しになればと、短めですが投稿しました。




