第六十七話 Brave Love,
「いあ、はすたー!」
川内さんが【風の神】さまを称える祝詞を唱えると、一陣の風が通り抜け、志熊が起こした爆風を散らしてしまう。
「見て、天音! すごく、大きいです!」
視界が晴れると、そこには銀色に燃える炎を全身に纏い、光り輝く巨人へと変身した志熊の威容が見えてきた。
それを見た桂川さんが歓声を上げる。
「天音、見えた? すごく、大きいです!」
確かに、デカイ!
目測で、身長四十メートルはあるんじゃないかしら?
巨人は両腕を大きく左右に広げて、恐らくは【星の女神】さまの神通力を、その胸の前で収束させている。
空中から巨人に対峙する紅葉ちゃんも、
「あたしに、力を!」
Xの字に両腕を交差させて、【月の女神】さまの神通力を溜めている。
両者揃って、自分たちが加護を受けている女神さまから借りた神通力を収束放出する光線技を使おうとしているようだけれど、神通力の集まり方が尋常じゃない!
こんなヤバい技、訓練の手合いで使っていい威力のものじゃないでしょうに!
あたしは見過ごすわけには行かず、脚力を闘気で強化して、一気に空中に駆け上がると、志熊と紅葉ちゃんの間に割って入る!
「両者! 反則負け! それまで!」
声の静止だけでは、二人は神通力の収束を止めようとしない。
なら、あたしも!
「【対抗呪文】!!」
防御用魔術を発動させると、魔法陣の盾が空中に浮かび上がる。
……だけで終わらずに、【月の女神】さまと【豊穣の女神】さまの神紋も浮かび上がり、魔法陣の盾に編み込まれるように一体化する。
今のあたしには、神通力は使えないはずなのに、女神さまたちの加護は無くなったわけでなく、まだしっかりとした恩寵はあったんだ!
ちょっと涙目になるあたし。
「【月光砲】!」
紅葉ちゃんから放たれた、Xの字の形をした光の奔流と、
「【万能必殺光線!】」
志熊がLの字に組んだ両腕から放つ超高熱の熱線を、二人の射線に割って入っていたあたしの魔法陣の盾が遮る!
「あーちちっ!アチい!」
魔法陣の盾越しにも、光線の熱量が伝わってきて、すんごく熱いんですけど!
「二人共、もう止めなさい!」
ようやくあたしが静止する声が聞こえたのか、志熊と紅葉ちゃんによる光線の放出が止まる。
「ごめんなさい、朔。ちょっと熱くなりすぎた」
恐る恐る、あたしに謝りに来る紅葉ちゃんの頭にげんこつを落とす。
「あいた! 本当にごめん!」
一方の志熊は、変身を解除したのか、地上で荒い呼吸をしながら、心做しか、悄然とうなだれているように見える。
空中から駆け下りて、志熊の鉄仮面の頂点にも、軽くげんこつを落とす。
「とんだ醜態を晒してしまいましたわね。皆さま、申し訳ありませんでした」
あたしと一緒に降りてきた紅葉ちゃんと共に志熊も分隊員の皆に詫びを入れて回る。
「まさか、志熊さんが【星の戦士】の末裔だったとは。士官学校でも特別扱いされているわけが、ようやく私にも理解できました」
羨望にきらきらと目を輝かせて、志熊に声をかける川内さんに対し、志熊は自嘲気味に微笑み返す。
「本物の【星の戦士】でしたら、変身した直後に、徒手だけで紅葉さんを制圧できたはずですもの。わたくしなど、まだまだ未熟と思い知りましたわ」
【星の戦士】と言うのは、数多の禍ツ神を封印したという、伝説上の巨人のことなんだけれども。
末裔なんていたんだ!
白兵戦能力は、身体の大きさで大体決まってしまうところがあるので、伝説の巨人に変身できる志熊は、国は秘蔵の戦力としてさぞかし大切にしたいし、他所にはやりたくないよね。
鉄仮面をかぶって日常を過ごす程度のことは許してしまうのは間違いない。
もしかしたら、あの鉄仮面にも、何かとんでもない秘密が隠されているのかしら?
巨人の姿になったときは、鉄仮面は無くなっていたようだけれど、銀色の炎に隠されて、志熊の顔はよく見えなかったし。
「しかし、朔さま。あれだけの熱線を易易と防いでしまったお美事な、あの技は一体?」
目敏くツッコミを入れてくる吹雪に対して、あたしは、
「あ、あれ? あれはね、【月の女神】さまと【豊穣の女神】さまの御加護によるものよ! 二柱の女神さまたちを祀る神社にお参りしたら、皆にもご利益があるわよ、きっと!」
うん、嘘はついてない。
魔術は【豊穣の女神】さまの御加護が無かったら、未だに何一つ使えなかったでしょうし!
「朔のアニキも凄かったっす! 俺ももっと熱心に神社参りに行こうかな」
妙高はあんまり信心深くないみたいだものね。
この世界では、神通力をあまり使えないと、当人の信仰心が下がるみたい。
あたしのような不信心ものに、女神さまたちの強い御加護があるのが申し訳なくなってくる。
「ほう、第五十九訓練分隊諸君はご立派みたいじゃないか。さぞかしこれまでの甘っちょろい訓練内容にご不満をお持ちだろうさ」
いつの間にか、あたしの背後に立っていた戸塚教官が、足元に重そうな砂袋を放り投げてくる。
「さあ、それを一人につき三つ背負って、裏山まで三往復な。空を飛んだりしないで、ちゃんと走りなよ! 総員! 駆け足!」
「はい! 教官殿!」
内心はさておき、一糸乱れず戸塚教官に最敬礼してから、あたしを先頭に砂袋を担いで、分隊員たちが裏山めがけて猛然と走り始める。
トホホ、軍隊だから、連帯責任になっちゃうのは仕方がないのよね。
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夕食後のお風呂では、朝陽さまが率いる第六訓練分隊とご一緒したのだけれど、あたしは注目の的になってしまった。
「ねえ、朔。どんな功徳を積んだら、そんなに強い【豊穣の女神】さまの御加護を授かることが出来るのかしら?」
興味を隠しきれず、しげしげと真顔であたしの下腹部を凝視する朝陽さまってば、目つきがちょっと怖いんですけど。
朝陽さまが一番熱心に信仰しておられるのが、【豊穣の女神】さまだから、羨ましいのかしら?
あたしの下腹部には、ピンク色に淡く輝く【豊穣の女神】さまの神紋が、いつの間にか刻まれていて、内心頭を抱えてしまう。
午後に、【対抗呪文】使ったときに、刻まれたのかしら?
やたら目立って、今まであたしのゾウさんに興味なさげだった人たちからも、熱い視線が集中してるんですけど!
『もう、逃げられないし、逃さない』
そんな【豊穣の女神】さまのお声が聞こえてきそうなくらい、その神紋は、あたしのデリケートゾーンで、煌々と自己主張してくれやがるのであった。




