第四十九話 亀、逃げ出したあと 表の参
女神さまに気圧されて、あたしからの先制攻撃。
「女神さま、ご下命に従い、愛宕百合を撃破いたしました」
深々と、五体投地するあたし。
敵を逃してしまったけれど、とりあえず追い払ったらオッケーよね?
よね?
ね?
「バカモン! 愛宕母娘を逃すだけでなく、よりにもよって男になるとは、どういうつもりだ! 顔を上げて、こちらをまっすぐによく見ろ!」
先制攻撃にすらならなくて、涙目。
怒るポイントそこなの? とドギマギしながら、顔を上げて女神さまの前で居住まいを正すあたし。
あれ?
いつもより、女神さまのお姿に覇気がないというか、霞がかったようにモヤモヤとしたお姿に。
「オレ様は、男の夢の中では顕現できない! お前が女に戻るまでは、今後はオレ様の加護は、得られないと知れ!」
「そ、それは……。九頭龍のご指導だけでなく、女神さまの神通力もお借りできないということでしょうか?」
「その通りだ。珍しく察しが良いな。黙って去るのは信義に反する故に、限界までオマエを待っていたのだ。紅葉にはオレ様が指導を続ける故に、今後は、現実世界で、紅葉に指導を仰げ」
「仰せのままに」
すっかり調教されてしまったあたしは、いちいち女神さまに反発するのは無駄だと学習している。
「そろそろ、立ち去らねばならぬ。邪気眼は消えた故に、今後はルル皇太女を相談役とせよ。彼女は利害が一致する限り、オマエを裏切らぬ」
黙っていると、これでお別れになりそうなので、あえて口を挟む。
「これまでありがとうございました!」
「最後くらいは殊勝に見送るか。小憎らしいやつよ。では、置き土産をくれてやろう」
女神さまが、そっとあたしの左腕に触れると、銀色に輝き出す。
「九頭龍を極めれば、その左腕が窮極の門を開く鍵となろう。では、さらばだ、朔」
女神さまがそう言い置いて、姿を消すと、左腕の輝きは穏やかなものとなり。
でも、キラキラ輝いたままでちょっと落ち着かない。
これ、現実でもキラキラしたままなのかしら?
「契約者よ。別れは済んだか?」
今まで大人しくしていた、ルル皇太女が口を開く。
「待たせたわね。色々と話したいことがあるのよ」
「なんなりと聞くが良いぞ、契約者よ。邪気眼と女神に知識を授かったところであるしの」
ルル皇太女は、ちゃぶ台の前にあたしを招き寄せると、器用に急須から湯呑みにお茶を入れてくれる。
女神さまとの対峙は緊張するから、夢の中とは言えど、お茶で一服できるのはありがたい。
「では、まず邪気眼のことから。あいつ、なんで消えてしまったの?」
「契約者が、死ぬはずだった前世の自分の命を救うという辻褄が合わないことをしでかしたからな。契約者の死に立ち会ったはずの奴は、因果律の矛盾から力を失って、契約者に影響力を行使することができなくなったのさ」
ルル皇太女の話が難しくて、よくわからない。
そんなあたしをルル皇太女は察したのか、穏やかに微笑みながら。
「時間軸の差異があるようだが、前世の契約者こと、高雄朔はティンダロスの猟犬の襲撃により落命し、今生はこの世界に天城朔として生まれ変わった。その一部始終を邪気眼が見守っていて、現在に至る。ここまでは良いか?」
邪気眼が昔してくれた説明と矛盾しないので、首肯を返す。
「つまり、天城朔が、高雄朔を死なさずに、蘇生させてしまったから矛盾が生まれてるってことかしら?」
「その通りだ。その矛盾をセカイが修正した結果、邪気眼は、この夢の中から姿を消した。高雄朔と天城朔が同時に生きているという矛盾を解消しない限り、ここには戻ってこれないそうだ」
「前世のあたしか、今のあたしのどっちかが死んだら、邪気眼が戻ってくるってこと?」
「契約者が死んでしまったら、この夢は維持できないであろうよ。魂が蜘蛛神天網に取り込まれて、別人に転生してしまうからな」
邪気眼を呼び戻すために、前世の自分を死なせてしまうとか、あり得ないし、邪気眼とはこれでお別れよね。
でも、なんであたしは自分がどうのように死んでしまったのか、覚えてないのかしら?
邪気眼に質問したくても、もう会えそうにないのが困ったなあ。
「なんとなく邪気眼についてはわかったから、次はティンダロスの猟犬に襲われた時、ルル皇太女が何をしたのか教えてちょうだい」
リズちゃんの話を信じるなら、マテリアルとやらで干渉したのは、ルル皇太女しかあり得ないわけで。
「契約者が、姉と一緒にティンダロスの猟犬を斃したであろ? その死骸をマテリアルに変換することで、我と、異界異形の魔導師の力を回復したのだ。マテリアルというのは、魔導を行使するために必要な資源のことだ」
「ロールプレイングゲームの、マジックポイントのようなものかしら? マジックポイントじゃ、わからないか。魔法を使う時に消費するエネルギーのようなものらしいけど」
さすがに、ゲームのことはわからないのか、ルル皇太女は眉根を寄せ。
「ゲームとやらはよくわからぬが、おおむねそのようなものであろうよ。そのあたりは、契約者の前世と同郷の魔導師に聞いたほうが良かろ。ここに喚ぶか?」
「リズちゃんを、ここに呼べるの?」
「喚べるともさ。マテリアルを分け与えた時に、パスを絆いだからの」
ルル皇太女は立ち上がり、咳払いをしてから、柏手を三回打ちながら。
「魔導帝国皇太女、ルル・イエ・アルアジフの名において命じる。異界異形の魔導師よ、おいでませい!」
ルル皇太女の足元から光条がカーペットに広がり、魔法陣を描き。
魔法陣から、リズちゃんが姿を現した。
もう少し、説明回が続きます。
主人公が性転換以降、評価が下がりましたが、男の子が女の子になっちゃうのはありでも、その逆はナシな読者さんが多いのかしら/(^o^)\




