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誰がタメにサク、百合と薔薇  作者: 石橋凛
幼年学校編
53/78

第四十八話 亀、逃げ出したあと 表の弐


 眼を開けると、心配そうにのぞき込む五十鈴(いすず)ちゃんの顔が、目の前に。


 「朔(さく)ちゃん、大丈夫?」


 「大丈夫じゃないです」


 五十鈴(いすず)ちゃんが、身繕いしてくれたらしく、着衣に乱れはない。

 気が遠くなっただけで、気絶してしまったわけではないみたい。

 夢だったら覚めて欲しいと、股間に手を伸ばすと、むにゅっと嫌な感触が。


 「朔(さく)ちゃん、しっかり! 男の子になったのが不満なら、また女の子に戻ればいいじゃない!」


 「そ、そうよね。性転換しちゃった原因は、昨夜のことしか心当たりがないし!」


 女神さまにお願いしたら、なんとかなるかもしれないじゃないの!

 困ったときの神頼みって言うし!


 念のため、義手になってしまった左手を確認してみると、ちゃんと月の女神さまの神紋(しんもん)が浮かんでるし!


 「やっぱり、朔(さく)ちゃんは元気なのが一番だよ! そろそろ面会の人たちを案内しても良いのかな?」


 「ありがとう、五十鈴(いすず)ちゃん。みんなに心配かけただろうし、いつまでもクヨクヨとはしてられないよね」


 生きねば。

 一日でも早く、女の子に戻るためにも!

 図々しく、生きねば!




 最初に様子を見に来てくれたのは、現場にも居合わせた赤城(あかぎ)家御一行様と、青嵐(せいらん)お祖父様だった。


 「朔(さく)、よくぞ生きていてくれたっ!」


 感極まった顔で、あたしの両手を握ってくれる青嵐(せいらん)お祖父様の姿に、あたしも胸が熱くなる。

 城代という立場上、戦死者続出の今回の一件で、身内と言えど、あたしのためだけに涙をながすことはできないのね、と察する。


 「ありがとうございます。精一杯のことはやりました」


 顔見知りの御殿女中たちが、多数殺されてる現状では、どこまであたしが喜んで良いのかよくわからない。


 「うむうむ、それでこそ、天城(あまぎ)の男子(・・)よ! あっぱれ! さすが、男子(・・)は頼りなるのう!」


 男子(・・)と連呼する優陽(ゆうひ)さまにツッコミを入れたいけど!

 ツッコミを入れたいけど!

 さすがに主君の上機嫌に、水を差すことができるような雰囲気ではなく!

 そもそも、あたしが男の子になっちゃったこと、なんでみんな知ってるの!?


 「此度の褒美として、朔(さく)を赤城(あかぎ)家の婿として迎えてもよいのう」


 ああ、睦月(むつき)さままで、とんでもないことを!


 「朔(さく)とは言え、男の子と結婚する気はないし、わたしじゃなければ、陽月(ようげつ)かしら?」


 朝陽(あさひ)さままで、追い打ちをかけてきて、涙目になるあたし。

 あたしは、婿入りじゃなくて、嫁入りか、婿取りで結婚したいの!


 この分国で一番偉い人たちの冗談は、シャレにならないから!


 「わたしは、まだ幼性(ようせい)の身ですから、縁談は早すぎますよ」


 恥じらいながらも、陽月(ようげつ)さまは満更でもなさそうな?


 だがしかし!

 陽月(ようげつ)さまに不満があるわけじゃないけど、同性婚は勘弁して下さい!


 「朔(さく)に褒美を頂戴できますのであれば、訪(おとな)い人たちの件をお願いしたく」


 主君たちの歓談に割って入ってまで、強引に話題を変えようとしてくれる、暁(あかつき)姉上、ステキ!


 「ふむ、暁(あかつき)の部屋に突如、現れたという、七人(・・)の訪(おとな)い人たちも、最初に出会った天城(あまぎ)の家に保護されることを望んでおったな」


 思案げな優陽(ゆうひ)さまは、七人(・・)って言ったわよね?


 「七人でございますか? あたしの記憶が間違っていなければ、六人だったと存じますが」


 「七人で間違いないぞ。事態が事態ゆえ、数え間違っていたのであろう」


 あれれ?

 一人目は、たぶん前世のあたし自身であるところの、高雄(たかお)朔(さく)。

 二人目は、魔法少女の大鳳(たいほう)エリザベス。

 三人目は、生徒会長にして柔道無差別級世界覇者、山城(やましろ)男山(おとこやま)パイセン。

 四人目は、生徒会副会長にして、フェンシング三種目世界覇者、従姉(いとこ)でもあるところの、大和(やまと)玻璃(はり)先輩。

 五人目は、剣道部の後輩、最上(もがみ)千鳥(ちどり)。

 六人目は、剣道部の同級生、長門(ながと)住吉(すみよし)。

 ……やっぱり、七人目の心あたりがないんだけどなあ。


 「朔(さく)よ、片腕を失うほど消耗しておるのだ。しばらくはゆっくり休め。今は休むことが、お前の役目ぞ」


 やば。

 せっかくお見舞いに来てくださった皆さんの前で、暫く考え事にふけってしまったみたい。

 優陽(ゆうひ)さまたちが辞去を告げると、皆さまご退出。

 忙しいだけでなく、みんな昨夜で消耗してるわよね。

 あたしも、暁(あかつき)姉上と、五十鈴(いすず)ちゃんに世話を焼かれながら、その日はほとんど寝て過ごした。


 そして、夜。

 左腕の神紋(しんもん)に祈りを捧げてから眠りにつくと、夢の中では、不機嫌そうな月の女神さまと、上機嫌なルル皇太女があたしを待っていた。

 邪気眼(じゃきがん)の姿は無かった。

タイトルを、『誰が為にサク、百合と薔薇』から、『誰がタメにサク、百合と薔薇』に変更しました。

漢字が一文字、カタカナに変わっただけですが、あらためてよろしくお願いいたします。

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