第四十七話 亀、逃げ出したあと 表の壱
地雷がある方はご注意ください
喉の渇きに急かされるように眼が覚めた。
眼を開けると、心配そうにのぞき込む五十鈴ちゃんが、憂い顔から笑顔になり。
「よかった。朔ちゃん、目が覚めたのね」
リクエストする前に、五十鈴ちゃんが水差しを口に寄せくれたので、ありがたく水をいただく。
独特な薬品のニオイが鼻孔をくすぐるってことは、日向博士の部屋で寝かされてるんだろう。
危機は乗り越えて、安全は確保されたみたいでホッとする。
「ありがとう。どのくらい、あたしは寝てたのかな?」
「一晩明けて、そろそろお昼かな? お腹すいた?」
食欲はないなあ。
闘気を使いすぎたからか、全身がだるい。
左腕に力が入らないなあと思いきや、包帯が撒かれた左肩口から先には、なにもなかった。
「そっか、左腕は消し飛んじゃったか」
武人として立身する決心をしたからには、四肢の欠損くらいは、覚悟してたつもりだったけど。
やっぱり、喪失感がハンパないなあ。
「……左腕は残念だったけど、朔ちゃんの活躍のおかげで、みんな無事だったから。それにね、今、お父さんが精巧な義手を用意してくれてるから」
この世界に、そんな便利があるとは知らなかった。
日向博士のチート技術力には感謝するしか。
「こんなこともあろうかと! いやあ、科学者なら何度でも言いたいセリフだよね!」
脳天気な奇声を発しながら、部屋の隅からマッド・サイエンティストがやっててきて。
「不謹慎よ!」
「マジ、ごめんなさい」
凄い顔で五十鈴ちゃんに睨まれて、すぐに頭を下げ始める。
「わたしから説明するわね。神造の武器を中枢として埋め込んだ義手なら、朔ちゃんのこれからの成長に合わせて、義手も成長するし、日常生活はもちろんのこと、戦闘での使用にも耐えうるの」
「神造の武器が成長するから、義手も成長するようになるのかしら?」
「そういうことね。朔ちゃんは、トネリコの枝と、ヤドリギの枝の、2つの神造の武器を持ってるけど、どちらを中枢に使いたいかな?」
五十鈴ちゃんからの問いに、しばし黙考する。
トネリコの枝は、釣り竿を経て、現在は槍に。
ヤドリギの枝は、柄杓に成長している。
槍は、今回の戦いで役に立ってくれたし、いまいち武器としての使い道がわかりにくい、ヤドリギを義手にしたほうが良いかなあ。
「そうね。じゃあ、ヤドリギの方でお願いするね。今は柄杓の形になって、あたしの部屋にあるはず」
「こんなこともあろうかと! もう、ヤドリギな柄杓は持ってきているゼィ!」
ドヤ顔で、会話に割り込んでくる、マッド・サイエンティストに、五十鈴ちゃんと一緒に、思わず苦笑する。
そんなに、こんなこともあろうかと! って言いたいのかよ!
「じゃ、さっそく準備するね。お父さんは、こっち見ないでよ!」
グイグイと日向博士の頭を掴んで、むりやりあっちの方を向かせてから、五十鈴ちゃんが、あたしの左肩の包帯をスルスルと解いてくれて。
日向博士が持ってきた、義手を左肩にゆっくりと嵌めてから、また包帯を巻き直してくれる。
「お父さん、こっち向いていいわよ。続きをお願い」
「ウェーイ、では、柄杓をこうして、こうだ!」
日向博士が、テキパキと柄杓に呪符を巻いたり、筆で義手に文字を書いてくれたりしてくれるうちに、左肩がまず熱くなってきて、やがて、義手にも熱を感じ始める。
「あっ、凄い! 感覚が湧いてきたといいますか、左腕があるのがわかる!」
思わず感嘆の声を上げてしまい、赤面する。
「朔ちゃんは可愛いなあ。そろそろ、左腕を動かしてみても大丈夫よ」
恐る恐る、左腕に力を入れてみる。
動く!
左腕が動く!
左手の指にも感覚がやどり、動かせる!
普通に動かせる!
「リハビリは必要だけれど、慣れれば、今まで通りに動かせるわよ」
「ありがとう! マジ、感謝! 五十鈴ちゃん、大好き!」
身体を起こして、五十鈴ちゃんにハグしてしまうあたし。
五十鈴ちゃんも、そっと抱き返してくれる。
「さて、左腕の件はとりあえず、これで良しとして。もう一つ、大事なことを朔ちゃんに伝えないとにゃー!」
「えーと、日向博士って、持ち上げてから落とすのが大好きだから、もう一つ、どんな大事な話があるのか、怖いんですけど」
あたしのツッコミに、日向博士は、会心の笑みを浮かべ、とんでもないことを告げる。
「朔ちゃんの身体、男の子になっちゃったから。性転換手術の技術は、この世界には無いから、これからは、男の子として、わんぱくでもたくましく育って欲しいにゃー!」
え゛?!
「……冗談よね?」
「激マジだにゃー!」
すがるような気持ちで、五十鈴ちゃんの方に視線を向けると、彼女は、ポンポンと肩をたたいてくれてから。
「男の子になっても、あたしが、朔ちゃんの一番のお友達だから」
「ぎゃーっ!!!!!!」
あわてて、飛び起きて、両腕で自分の身体を触ってみると。
骨格や肉付きが、今までと明らかに違う!
まさか、まさか!
今まで、スルーしてきた、股間の異物感目掛けて、えいやっと手を伸ばすと!
なんか、むにゅむにゅしたものがついてる!
しかも、力を入れてみると、痛い!
錯乱しながら、下履きを脱いでみると、そこには見慣れぬ、ゾウさんのような何かがついていて。
あまりのことに、あたしは意識を手放してしまった。
TSのタグを主人公でも回収しました。
あと一話か二話、表を進行させてから、いよいよ黒幕が暗躍する裏側の事情もお送りする予定です。




