第四十二話 神造の武具
華やかで美しい甲冑。
霊威を帯びた宝剣。
凍てつく波動を放つ神槍。
他にもっといくらでも立派な武具が並んでいるのに。
朝陽さまたちは、脇目もふらず、一直線に目当てへと歩を進める。
朝陽さまの前には、知恵の輪。
暁姉上の前には、漏斗。
陽月さまの前には、こんにゃく。
「なんと、美事な……。目を離せないわ」
知恵の輪にそっと指を添えて、感嘆に震える朝陽さま。
「この漏斗は……。いいものだ」
怖れるかのように、漏斗を恭しく頭上に掲げる暁姉上。
「……。……」
ナニゴトか、ぶつぶつとつぶやきながら、こんにゃくをぷにぷにと人差し指で突く陽月さま。
……どこから、誰にツッコミを入れたら良いのかしら?
ここって、武具屋よね?
雑貨屋さんじゃないわよね?
「三人とも、目の付け所がシャープじゃねえか! その3つが、今うちにある”特等”の武器では、最高の品だぜ!」
案内してくれた猫族の店員が、満足そうな笑みを浮かべて、巻き毛を震わせる。
「ね、ねえ。あたしには武器には見えないんですけど。……そんな武器? で大丈夫なの?」
「大丈夫だ! 問題ない!」
「あ、あの。一番いい武器をお願いしたいんですけど……」
店員は、信じられないと言わんばかりに、あたしの顔をア然と見つめる。
「おいおい、アンタが選んだ武器だって、釣り竿と柄杓だろ? 神造の武器は、一目では武器と理解できないモノの方が、強力なんだぜ?」
店員が、何を言ってるのかわからないんですけど。
確かに、以前ここで受け取った、トネリコの枝は釣り竿に。
ヤドリギの枝は柄杓へと姿を変えたんだけど。
武器として使える気配はなく。
釣り竿は、よく釣れるだけでなく、あたし次第で何でも釣れるようになるらしいけど、まだ釣れるのは魚だけ。
柄杓は、すくった水を浄化し、人や動物が飲めば、飢えと渇きと病を癒し、土に撒けば作物の発育を強壮にする霊水へと変えてくれるので、柄杓の方は超便利な道具にはなってはいるんだけど。
どっちも、武器じゃないじゃない!
「理解できない武器による攻撃。お嬢ちゃんなら、どうやって防ぐ?」
どのような攻撃なのか、理解できない攻撃なんて、防げないし、避けるのも難しいでしょうけど、もっと根本的な問題があるわよね?
「……理解できない武器を、どうやって使いこなすの? 持ち主が武器として扱えなかったら、意味が無いじゃない!」
「手っ取り早く強くなりたいなら、神造の武具なんて選ぶもんじゃねえ。目の前の武具をどのように使いこなせば良いのか? それを試行錯誤することが、神の試練。神の試練を乗り越えた者だけが、神造の武具の真価を発揮できるのさ」
「……難しくてよくわからないんですけど。見た目に惑わされないで、本質を見極める必要があるってことかしら?」
「だいたい、あってるな。お嬢ちゃんの釣り竿と柄杓も、その本質を理解した時に、本当の姿を目にすることが出来るだろうさ」
釣り竿と柄杓でどうやって戦おうか悩んでたけど、まだ形状が変わるのかしら?
「ありがとう、朔。これほどの品は、これからの生涯で、もう出会うことは無いかもしれないわ」
華やかな笑みを浮かべて、あたしの両手を握り、シェイキングして下さる朝陽さま。
ちょっと、痛いけど、心底喜んでくださっているようなので、あたしも自然に笑顔になる。
「朔のような妹がいて、私は果報者だわ。ありがとう。大切にするわね」
漏斗に頬ずりしながら、恍惚感全開の笑顔をみせてくれる暁姉上に、ドン引きするあたし。
「朔。私の誕生日はまだ先だが、10歳の誕生祝いの前渡しとして、私にこれを譲ってくれないだろうか」
こんにゃくを片手に、真剣な眼差しをあたしにぶつける陽月さま。
……こんにゃくの、どこが気に入ったのかしら?
そもそも、これだけ道具じゃなくて、食べ物にしか見えないんですけど。
無言になってしまったあたしを見て、陽月さまが、ガックリと肩を落とす。
「済まない。私としたことが、朔の都合を考えずに無理を言った」
「ちょ、お止めください。陽月さまに気に入っていただけたなら、ぜひ、お持ち帰りください。神造の武具は、成熟するのに歳月を要します。手にすることに変わりがないなら、早いほうが良いでしょう」
「そうか。そなたの芳情に感謝を」
しょぼーん、から一転して、ご機嫌になる陽月さまは、やはりまだお子様なのよね。
朝陽さまと暁姉上たちは、およそ子供らしくないんだけど。
みんな、気に入ってくれたなら、是非も無し。
店員さんにお願いして、特等の武器を3つ受け取ることにした。
これで、あたしが当選した特等はおしまい。
4人で話し合った結果、1等の品は、もう少しあたしたちが成長するまで、残しておくことになった。
【蜘蛛神天網】から、現実世界の赤城城へと戻ったあと、城内に与えられた暁姉上の部屋に、あたしだけが呼ばれて連れ込まれてしまった。
暁姉上の部屋は、ここでも沢山の書物が積み上げられている。
お香の優しい香りが、書物の匂いを中和してくれている。
古い書物って、ちょっと臭うのよね。
暁姉上に誘われるまま、お互いに向かい合って正座する。
「私も、朝陽さまに、贈り物をするつもりです。物ではなく、余興を催して、喜んでいただこうかと」
「承知いたしました。あたしに出来ることがあれば、精一杯お手伝い致します」
「朝陽さまが、高雄朔なるマレビトに執着していること。朔も知っているわよね?」
高雄と言われて、ドキッとするあたし。
知ってるも何も、姉上と一緒に、高雄を探すように、朝陽さまに命じられてるのよね。
「では、朔。なぜ、あなたが高雄なのですか?」
「え? なぜ、姉上がそのことをご存知なのですか?」
……あ゛!
「ゴホンッ! エヘンッ! あ、姉上はなにをおっしゃるのか、あ、あああたしにはさっぱり……」
無様に狼狽するあたしを、真顔で凝視する暁姉上。
こ、これは、誤魔化せそうにない!
「……カマをかけてみただけだったのに、本当に朔が高雄だったのね」
あたしのバカ、バカ、バカ!
紅葉ちゃんの時といい!
正体をストレートに詮索された時、動揺しちゃって、隠せないじゃないの!
「主命に従わず、正体を隠しているのは、何か事情があるのでしょう。朝陽さまにも、青嵐お爺様にも、誰にも話さず、私の胸の内だけにしまっておくことを約束します。私に相談なさい」
あたしの頬に、ひんやりとした手のひらを当ててくれる暁姉上。
「貴女の姉は、この私だけ。主君や家長にも話せないことであっても、私にだけは相談してちょうだい。絶対に貴女を裏切らないから、姉上を信じて」
暁姉上の眼差しから、あたしを案じてくれている暖かさを感じる。
暫く、無言で向かい合うあたしたち。
結局、沈黙に耐え切れずに、暁姉上に、全てぶっちゃけることにした。




