第三十八話 ふくびき
木造っぽい店内の床は、石畳。
武器や防具が種類別に、規則正しく陳列されていて、店内のあちこちで、お客さんと店員が商談をしている。
店の奥には、縁台が置かれており、座って休むことも出来るみたい。
「らっしゃい! ここでは身分も年齢も関係ねえ! 武器に見合う実力があれば、好きなように見て行くがいい!」
出迎えてくれた店員さんは、艶やかな黒い毛皮の猫族だった。
なるほど、猫族なら実力本位。
身分なんて気にしないわね。
「100連詫び石ふくびきを回したいんだけれど。どうしたら良いのかしら?」
100連と耳にして、目の前の猫族だけでなく、周囲に居たお客さんたちも、驚いた顔をして騒ぎ始める。
「よくもまあ、そんなに詫び石を貯めこんだな。どれだけ厄介事に巻き込まれたんだ?」
呆れた声色で、巻きひげのように見える触角を震わせる。
詫び石って厄介事でもらえるものなんだ。
うん、大体あってる。
魔族の魔導書と契約するハメになるなんて、この世界では、最上級の厄介事でしょうし。
「おっと、詮索するつもりはないんだ。気を悪くするなよ? 100連の場合は、2種類ある」
「2種類?」
「1つは、別室で余人を交えることなく、静かにふくびきを行う。何が当たったのか、他人に見られたくない場合は、こちらを勧める。高価な品を当てると、悪いやつに目をつけられるかもしれないからな」
「子供から、ふくびきの景品を掠め取ろうなんて雑魚なんて、返り討ちにしてやるわよ!」
猫族の店員は、呵々と笑いながら、触手で、あたしの肩をバシバシ叩く。
手加減してくれてるのか、あまり痛くない。
「お客さん、言うじゃねえか。では、もう1つのふくびきをお勧めするぜ。この場で公開しながら、ふくびきを行う。大当たりがでれば宣伝になるから、特等と1等に2等は、当選したら、好きなモノを選ばせてやる。気に入ったものがなければ、入荷待ちの予約に差し替えることも出来る。さらに、不要な当選品は、この商店街ならどこでも使える商品券と交換してやろう」
ダブっても、他人に譲渡することが出来るから困らないんだけど、選べるのは魅力的ね。
朝陽さまと、暁姉上の10歳の誕生日が近いから、誕生日プレゼントにしてもいいわね。
「良いわ。その話、乗った!」
躊躇なく、詫び石がぎっしり詰まった巾着袋を店員に差し出すと、周囲から大きな歓声が沸く。
「……なんで、他のお客さんたちが喜んでるのかしら?」
「お嬢ちゃんが、100連のうち、特等から2等までを幾つ当てるのか、予想して賭けをするのさ。胴元は、うちの店だがな」
なるほど、宣伝になるだけでなく、トトカルチョみたいなことまでするのか。
あたしとお店の両方に利益がある話だから、問題無いわよね。
他の店員さんとお客さんたちが、慌ただしく賭けの準備を始めると、今まで黙っていた五十鈴ちゃんが。
「店員さん、もう一声サービスしてくれないかな? この子は武具袋を持ってないから、当選品を収納出来るだけの容量がある武具袋が必要なのよ」
「武具袋って何?」
「見た目は手で持ち運べる大きさの袋なんだけど、見た目以上の大きさの武器防具を沢山収納できる袋のことよ。蜘蛛神天網の中だけでなく、現実世界にも、袋の中身ごと持ち出せて便利よ」
「そんなに便利な袋だと、お高いんでしょう?」
「お嬢ちゃんが即決で公開ふくびきに応じてくれたからな。武具袋は1つサービスするぜ! じゃあ、こっちに来てくれ」
縁台まで案内されたので、五十鈴ちゃんと一緒に腰掛けると、女の子の店員さんが、お茶とお茶菓子を持ってきてくれる。
準備が整うまでの間、ちょっと待たないといけないようだ。
暫くの間、五十鈴ちゃんとダベりながらお茶を飲んでいると、猫族の店員が戻ってきた。
「待たせてしまって、悪かったな。準備ができたから、こちらに来てくれ」
店内で、一番広い空間の真ん中に、お立ち台があり、誘導されるまま、お立ち台の上に立つと、目の前に透明な水晶球が現れる。
「その水晶球に触れると、100連ふくびきを回せるぜ。100回も回転抽選器を回すのは、お互い手間で面倒だからな」
ガラガラ100回も回して出てきた玉を、100回数えて分別するのは、言われる通り面倒よね。
お店の壁面に、抽選結果が投影されて、皆で確認できるんだとか。
あたしが水晶球に触れると、水晶球と壁面が、白、青、赤と交互に明滅し、時々銀色や金色に光ると歓声が上がり、最後に虹色に10回光った後、紋章のように見える何かが、5種類表示されると、店内は静まり返ってしまう。
壁面には、5つの紋章が表示されたままなんだけど、外れたから、白けちゃって、静かになっちゃったのかな?
と思いきや、悲鳴と怒号が爆発し、観客たちが地団駄を踏んで悔しがる。
「おいおいおい、1等が10個に、特等が5個だと? お嬢ちゃん、どんな強運なんだよ!」
「え? そんなに当たったの?」
「虹色が1等。特等だと、それぞれの武具に刻まれた紋章が表示される。お前さんも、見てただろ?」
「事前に説明がなかったから、なにがどうなってるのか、よくわからなかったのよ」
当選確定の演出があったのなら、教えてくれてたら、興奮できたかもしれないのに。
「その他の内訳は。2等が8個。3等が7個。4等が31個。残り39は10等か。随分偏ったな」
5等から9等までは、1つもなしというのは、ツイてるわね。
「大当たりばかり出てしまったけれど、お店は大損じゃないの?」
「特等と1等は神々からの預かりものだから、店にはなにも負担がないどころか、武具に相応しい強運を持つ客を引き当てたことで、神々から店に褒賞が出る。ふくびきの大当たりは、客だけでなく、店にとっても大当たりなのさ」
特等と1等は、神造の武具で、お金では買えないものなんだとか。
そんなのが当たる詫び石を貰ってしまって、良かったのかしら?
別室に案内されて、当選品を受け取ることになったんだけど……。
2等は、全て、【成長の靴】にした。
これは、身につけた人間と一緒に成長する魔法的な靴なんだとか。
サイズがピッタリ合うだけでなく、蒸れず、汚れず、頑丈。
運がよいと、他にも特殊な能力が付加されることがあるんだとか。
士族の子弟への贈答品として喜ばれるそうな。
朝陽さまたちも、お持ちではないようだから、誕生日プレゼントにしようかしら?
1等は、今のあたしには使いこなすのが難しいものばかりだったので、暫くの間、保留にさせてもらった。
引き取りに来るまでに、お店が潰れてしまったら、1等とは縁がなかったと、諦めることにしよう。
特等も、5つのうち、3つはまだ身の丈に合わないので保留。
ヤドリギの枝と、トネリコの枝の2つを選んだ。
五十鈴ちゃんは、樹の枝なんて、と呆れていたけれど、ただの樹の枝じゃないのよ。
試しに持たせてもらうと、あたしのイメージに合わせて、2つの枝は、槍の形になったり、打刀の形になったり。
この枝も、靴のように、持ち主と一緒に成長していく武器らしい。
未成熟の間は、様々な武器の形に変えられるけれど、成熟すると槍なら槍、刀なら刀と、形状が固定されるんだとか。
3等は銘入りの武具、4等は無名でも業物で、4等までは、現実世界でも使えるそうな。
10等は、ふくびき補助券で、10枚で1回ふくびきが回せる。
39枚の補助券を貰ったから、3回ふくびきできるけれど、今日はもう何もあたらない気がするので、使わないで残すことにした。
当選品の受け渡しの際に、武具袋も受け取った。
最初は背負うような大きさの武具袋をくれるつもりだったそうだけど、お店に予想外の利益があったので、一番上等な武具袋を貰ってしまった。
大人の手のひらサイズなので、懐にしまえてしまうんだけど、打刀も鎧も、物理法則を無視して収納できてしまって、この世界の非常識さに呆れてしまったわ。
トトカルチョは、お客さん全員が大外れで、胴元のお店はウハウハだったらしい。
お金は全く使ってないのに、上客扱いされてしまって、武具の修繕も割引で引き受けてくれることになった。




