第三十三話 図書館に冒険を求めるのは間違ってるわね
図書館は、赤城国では見たことがない建築様式。
この世界でも、前世の地球でも見覚えがないなあ。
金属的な光沢の巨大な石を削りだして、積み上げたようなんだけど、石と石の継ぎ目には、淡く輝く宝石が埋め込まれている。
お金がかかってるなあ。
仮想現実世界の建物は、現実世界の建物のような建造費や維持費は、必要ないのかしら?
などと妄想している間に、出入り口の一つにたどり着いた。
五十鈴ちゃんと一緒に中に入ると、右手に受付カウンターがあり、受付嬢たちの前に、来館者たちが行列を作っている。
「あそこの受付で、霊子書籍端末の貸出をしてるの。端末に対応した書籍にしか使えないけれど、人気書籍も順番待ちすることなく読むことが出来るから、便利よ」
「端末そのものの順番待ちが長そうなんですけど」
五十鈴ちゃんは微苦笑を浮かべ。
「霊子書籍端末は便利だけど、高価だからね。私も持ってないのよ。それに、この図書館の中でしか使えないのよ」
「娯楽作品にも興味はあるんだけど、魔族や魔物に関する本を読んでみたいの。端末に対応してるなら、あたしも、あそこに並ぼうと思うんだけど」
「魔族や魔物に関する書籍は、危険だから端末には対応してないわよ。中には読んだだけで正気度を減らしてしまうものもあるみたいだし」
なるほど。
読書好きで、物知りな姉上たちも、魔族や魔物についてよく知らないのは、情報源になる本が危険だからだったんだ。
だったら、尚更、あたしが読んでおきたい。
ステータスを信じるなら、あたしの正気度は、かなり高めみたいだし。
その旨を五十鈴ちゃんに伝えると、閑散とした受付カウンターの一つに案内してくれた。
「いらっしゃいませ。こちらは、魔族や魔物に関する書籍の受付になります。士族と巫女さまとお見受けしますが、これらの書籍は大変危険です。保護者の方、もしくは守護神さまの許可が必要になります」
図書館だから、目の前の女性は司書なのかしら?
「こちらの水晶球に手を触れてください。許可の有無。並びに、危険に対応できる神通力をお持ちか確認させていただきます」
司書に促されて、あたしと五十鈴ちゃんが水晶球の上に手を乗せると、あたしの水晶玉は虹色に、五十鈴ちゃんは金色にピカピカと光り始める。
「金色以上の神通力をお持ちでしたら、閲覧を許可できます。虹色でしたら、禁書の閲覧も可能です」
「禁書って、何ですか?」
「魔道書など、正気度を大きく損なう可能性のある書籍は禁書として、閲覧を厳重に制限させていただいております。虹色の利用者は、守護神さまから強い加護を受け、なおかつ強力な神通力をお持ちであることを、水晶球が保証しております。自己責任となりますが、ご自由に閲覧できます」
司書の女性は顔色を変えることもなく、淡々とリスクについて説明してくれるけれど。
ここで怯んで、必要な情報を得る機会は逃せない。
「では、あたしだけ禁書を含めた全ての書籍の閲覧の許可をお願い致します」
「あら、あたしも自衛ぐらいは出来る神通力があるから、ついていくわよ。もしもの時は、援護ぐらいはしてあげられるわ」
自信に満ちた笑顔を浮かべる五十鈴ちゃんに驚くあたし。
「【蜘蛛神】さまの巫女の肩書は、伊達じゃないのよ。天網加持だって、かなり使えるんだから」
天網加持というのは、【蜘蛛神】さまの神通力。
具体的な効果は知らないけれど、何度も人生をやり直してる五十鈴ちゃんが太鼓判を押してるなら大丈夫なのかな。
「ほんとうに危ないと思ったら、あたしを置いてすぐに逃げてね? あたし一人だけなら、何時でも逃げ出せる自信はあるけど、五十鈴ちゃんをかばいながらだと、厳しい状況もあるかもしれないから」
任せなさい、と大きく胸を張る五十鈴ちゃんと一緒に、司書さんが提示した閲覧許可書に必要事項を記入していく。
「危険書籍公開書架室への入り口は、左手奥にある、扉の奥になります。しめ縄で封印されている唯一の扉になりますので、一目でそれとわかるかと。では、どうぞ奥へお進みください」
子供を危険に晒すことになるのに、最後まで鉄面皮のままの司書さんに見送られて移動すると、様々な神さまの神紋が描かれた大きな扉にたどり着いた。
しめ縄で封印されているので、ここで間違いないわよね。
「このしめ縄って、どうしたら良いのかしら?」
うっかり大事なことを聞きそびれてしまった!
どうもあたしは、こういうところが抜けてるわね。
反省します。
「朔ちゃんは相変わらずだね。私が知ってるから大丈夫よ」
五十鈴ちゃんが祝詞を【蜘蛛神】さまに奏上すると、するりとしめ縄が解きほぐされていく。
「封印が解けるのは十秒間。この間に、扉の奥に入ればいいの。あとは自動的にしめ縄が再封印するから、気にせずに先に進みましょう」
時間制限があるなら、のんびりしていられない。
万が一に備え、心に満月を観想しながら、扉を両手で押し開ける。
扉の奥は、壁や床に見たことがない模様や数式みたいなものが無数に刻まれている。
……図書館というより、ダンジョンみたいなんですけど。
見るからにおどろおどろしい雰囲気。
お化けが出てきてもおかしくないわね。
息を整えてから、あたしと五十鈴ちゃんは、扉の奥へと飛び込んだ。




