第二十六話 露見
朝陽さまと陽月さまを中心に、有力武家の子息たちが集まった宴が始まる。
未成年ばかりだから、お酒は飲まないんだけど。
「美味い、美味い。やっぱり、食べ物はお上品に食べるより、食べたいように食べるのが一番だな!」
黙っていれば、深窓の美少女だった葛城さんは、男っぽい性格が正体だったようで、賑やかに笑いながら、陽月さまと、食べまくっている。
無口な陽月さまは、健啖家で、見た目よりよく食べるのだ。
「梓は美味しそうに食べるな。見ているだけで楽しくなるぞ」
「あははっ! ありがたき幸せ! 自然体で陽月さまと美味しいものを食べる。産まれて初めて、爽快な気分になっております。ほら、凪も遠慮しないで、どんどん食べろ。食べないと強くなれないぞ」
凪さんは、微苦笑を浮かべながら、自分のペースを守りながら、二人と食事を共にしている。
……男の子になったのだから、凪くんと呼んだほうが良いのかしら?
葛城さんに叱られた笠置真純さんと、生駒実純さんの二人は、意気消沈した様子で、ぼそぼそと食べ物を摘んでいる。
髪型は二人共、ショートボブ。どちらも美少女だけど、笠置さんはたぬき顔、生駒さんはキツネ顔なので、他派からは、葛城派の赤いたぬきと緑のきつねとあだ名されている。
愛宕さんは、取り巻きの清滝天音、桂川伊万里を従え、朝陽さまと暁姉上と談笑している。
清滝さんと桂川さんは、元々は鳥海派に属する家系だったので、あたしは良く思っていない。
家の事情とはいえ、親しくしていた鳥海さんへのそっけない態度は面白くない。
「朔ちゃん、どうしたの? 久しぶりに会ったのに、なんだか元気が無いね」
珍しくこうした場に参加した、五十鈴ちゃんは、しばらく見ない間に、少し大人びた雰囲気になっている。
……何か、あったのかしら?
以前より、余裕のようなものを感じさせるわね。
「新しい我が家にも、夢棺をようやく設置できたの。朔ちゃんは、まだ自由に使わせてもらえないでしょ? 今度遊びに来た時に一度試してごらんよ」
「正式に朝陽さまと陽月さまの近侍としてお城に出仕したから、あまり自由になる時間がないのよ。休暇を貰えたら遊びに行くわね」
「うん、約束よ。必ず遊びに来てね」
「天城さま、ご歓談中、失礼致します。お花を摘みに行きたいのですが、一人では不安ですの。一緒に来てくださらない?」
宴の片隅でもそもそと食事をしていたらしい紅葉ちゃんが、あたしの返答を待たずに手を握って立ち上がる。
うひぃ、審判の時が来たのか。
怪訝そうな顔をした五十鈴ちゃんに見送られながら、あたしは紅葉ちゃんに手を引かれ、人気のない場所に連れ込まれた。
紅葉ちゃんの祝詞に呼応し、地面に【月の女神】さまの神紋が浮かび上がる。
……あれ? 周囲の喧騒が全く聞こえてこない!
「【月光の聖域】で、周囲との音のやり取りを遮断したわ。これなら誰にも聞き耳を立てられることもなく、洗いざらい話してもらえるわね」
もしかして、紅葉ちゃんってば、あたしより神通力が強くなってる?
笑顔で凄まれて、怖いんですけど。
「あなたの右手には【月の女神】さま、髪の毛には【蜘蛛神】さま、左手にはなんだかよくわからない存在の分け御霊が宿っているわね。いったい、何者なの? 悪夢の中の怨霊から、私と凪さまを助けてくれたのは、あんたなんでしょう?」
うわーい、全部バレてるじゃないの!
「分け御霊が宿っていること、何故、紅葉ちゃんに分かるの?」
「私の眼は浄眼と言って、特別な力を宿した眼なんだけれど、怨霊との戦いの後、力が強くなったの。以前はあんたの右手から【月の女神】さまの力が垣間見えてただけだったけど、今は色々とはっきり見えるのよ」
紅葉ちゃんは、ずいっと私の顔に自分の顔を寄せる。
顔が近い!
吐息を感じるし、鼻が当たってる!
「眼を覗き込んでみると、あんたの魂の形がはっきり見える。あたしたちを助けてくれた高雄の姿をしてるわね」
トンデモない発言をしながら、スッと身を引いた紅葉ちゃんは、あたしの全身に視線を彷徨わせる。
「間違いないわ。巷で噂の高雄なる訪い人は、あんただったのね。……【月の女神】さまの使徒なのかしら? でも、【蜘蛛神】さまの分け御霊を髪の毛に宿してる。なんだか、やたら強いみたいだし」
見ただけで、全部の秘密が分かっちゃうなんて、反則じゃない!
こんなの相手に、どうしたら良いのよ!
「正体を隠しているのは、何か事情があるのだろうから、詮索はしないし、他言もしないわ。でも、私も怨霊なんかに負けないぐらい強くなりたいの。どうしたら【月の女神】さまの使徒になれるのか、教えてちょうだい」
「【月の女神】さまの使徒って? あたしは使徒とかじゃなくて、弟子なんですけど」
「弟子? あ、あんた、女神さまから直接教えを授かってるわけ? そんな話、前代未聞よ! 神代の時代じゃあるまいし!」
あ、ヤバイ。
秘密を次々に暴かれて、動揺のあまり口が滑った!
紅葉ちゃんは、地面に身体を投げ出すと、あたしに土下座を始める。
「お願い、何でもするから! あたしも女神さまの弟子になれるように、女神さまにお願いして! 怨霊にまた襲われた時に、あんたがもう一度助けに来られるとは限らないんでしょ!」
この世界では、悪夢の中で怨霊に殺されることが、最悪の死に方とされている。実際に怨霊に襲われた経験がある紅葉ちゃんが味わった恐怖は、あたしの想像を超えているんでしょうね。
……どうしよう。
女神さまに弟子入りするってことは、夢の中のあたしの部屋に連れて行かないといけないのよね。
そんなこと出来るのかしら?
そもそも、あたしの秘密をどこまで明かして良いのか。
調息して、心の中に満月を観じる。
自分の身を投げ出してまで、鳥海さんを守り切った、紅葉ちゃんの献身を信じよう。
「紅葉ちゃん、土下座なんてやめて頂戴。女神さまにお願いしてみるわ。だから立って」
「ほ、本当に?」
ぐしゃぐしゃに涙で濡れた顔で、あたしが差し出した両手にすがる紅葉ちゃんの姿を見て、あたしも腹をくくった。
「女の子が、何でもするなんて、言っちゃダメよ。今夜、女神さまにお願いする。お許しを得たら、すぐに連絡するわ」
「ありがとう。もしも、女神さまに断られた時は、あたしをあんたの弟子にして頂戴!」
あたしに弟子入りしても、中途半端な武術しか教えられないのよねえ。
高雄流古武術は奥伝、九頭龍は初伝に過ぎないし。
どう説得したら良いのか思いつかないけど、とにかく、女神さまにお願いしてみよう。
筆が乗ったので、今夜は二話投稿しました。
第二十五話をご覧になってない方は、一話お戻りください。




