第二十五話 慰霊祭
鎮護公園。
季節に関係なく、桜が咲き誇る公園には、無数の石碑が立ち並んでいる。
石碑には、国を護るために死んだ人間の名前が刻まれる。
彼らへの感謝の気持ちを、子々孫々まで語り継ぐことが出来るように。
赤城のお殿さまである、優陽さま主導で、粛々と厳かな祭事が執り行われた。
ここから先は、無礼講ということで、公園内に並んだ屋台や、桜の前に敷かれた御座で宴会が始まる。
士族とか身分に関係なく、この宴会には参加できるため、城下町から様々な人たちが集まってきている。
「朝陽さま、陽月さま。お久しゅうございます。ご心配をおかけしましたが、この通り元気になりました」
紅葉ちゃんを連れて姿を見せた鳥海さん。
……はて?
なにか、これまでと違うような?
病み上がりでやつれた様子はないのだけれど、見ていて違和感を覚える。
「おや、凪。お前は男になったのか。これからは、以前より話しかけやすくなったな」
男になった?!
陽月さまの発言に凍りつくあたし。
「なるほど。顔つきが精悍になったような気がしたのは、男になったのね。それに、目から迷いがなくなったように見えるわね」
「ありがとうございます。怨霊との対峙の時、紅葉の影に隠れるだけだった、女々しい凪は死にました。むしろ、私が守りたい人たちの盾となれる、雄々しい男児になろうと決めたのです」
……話についていけない。
男児になろうと決めたら、性転換しちゃうわけ?
救いを求めるように視線を紅葉ちゃんに投げかけると、彼女も青い顔をしている。
あたしと視線があうと、あたしの右手をガン見してから、左手、頭に視線を動かし、険しい表情になる。
……見てる位置がヤバイ。
何か、勘付かれたのかも。
「ええと、鳥海さんって男の子になったのよね? 着物が女物だったから、全然気が付かなかったわ」
無理やり、話題を変えてみると、鳥海さんは白い歯をキラリと光らせながら、微笑んで見せる。
「着物は、死んだ母の形見なので。これからも、大切に着ていこうと考えています」
形見を大切にすることは、素敵なことだと思うのだけど。
……そういう理由で男の子が女装するのは、この世界ではアリなのかしら?
「あら、鳥海さま。朝陽さまと陽月さまの御前に出るのに、男装を用意しないのはどうなのかしら」
「倹約も結構なことと思いますが、上に立つものとしては、必要なお金を使って見せなければ、下々の者たちが萎縮してしまうのではなくて?」
朝陽さまと陽月さまとの歓談を邪魔されたのが気に入らないのか、茶々を入れてくる笠置さんと生駒さん。
二人共、赤城国では名門とされる武家の出身で、葛城派の幹部として、幼年学校では大きな顔をしている。
二人共、感じが悪いなあ。
いつも通り、葛城さんは、スルーしてしまうのかと思いきや、彼女は作り笑顔に青筋を立てるという器用な表情をしていた。
ブチンッ!
あ、なんか、切れた音が聞こえたような?
「二人共、控えよ」
地鳴りのような低い声が、葛城さんから聞こえる?
笠置さんと生駒さんは、そんな葛城さんを見て、ガタガタと震え始める。
葛城さん、メッチャ、怒ってる!
闘志が可視化され、葛城さんの全身から、陽炎のようにゆらゆらと闘気が立ち登り始める。
「鳥海殿。今までの非礼の数々、本当にごめんなさい」
葛城さんは、鳥海さんの手を握ると、深々と頭を下げる。
「いえ、あの。私は気にしてませんから」
「葛城家の嫡子らしく、淑女たれと教えられ、目付役の笠置と生駒の言いなりになっていた自分が情けない! 自分らしくあろうと決意し、変わって見せた鳥海殿は、立派だ。こんな私で良ければ、是非、友だちになって欲しい!」
「あ、は、はい。喜んで! これからは、私のことは凪と呼んでください」
「では、私のことは梓と呼び捨てで頼む。堅苦しいのは、やっぱり私には向いてなくてな」
笑顔で、両手を握り合う鳥海さんと葛城さんを見て、血相を変えた笠置さんと生駒さんが悲鳴を上げる。
「梓さま、なんて乱暴な言葉づかいを! ご当主さまに叱られてしまいますよ!」
「黙れ」
葛城さんは、怒鳴らず、低い声で一喝する。
「この場で、上に立つものがいるとしたら、それは戦死した勇者たちだ。勇者たちに守られただけの私たちが慰霊祭で調子に乗るなど、恥ずかしいだけだ」
葛城さんは、くるりと朝陽さまと陽月さまに向き直り、頭が地面についてしまうんじゃないかという勢いで、お辞儀をしてみせる。
「朝陽さまと陽月さまには、見苦しい姿をお見せしました。笠置と生駒の不始末は、全て、葛城一門の嫡子たる、私の責任。お二方の部下として相応しい武士となるよう、三人とも心を入れ替えて精進致します」
「梓、正直、見なおしたわ。これからは自分を偽らず、貴女らしく私たちに接してちょうだい」
「姉上と一緒に、必ず梓の屋敷に遊びに行くよ」
「梓さん、これからは私のことも暁と呼んで。改めて、友誼をかわしましょう」
今までの葛城さんは、猫を被ってたのか。
名家の嫡子って大変なんだなあ。
……あたしが甘やかされてるだけかな?
自省しよう。
「あたくしのことも、百合と呼んでくださいまし。仲間はずれにされてしまうと、寂しいですわ」
口を尖らせて、すねてみせる愛宕百合。
……可愛く見えるんだろうけど、中身が男だとわかってるあたしには、ぶっちゃけキモい。
気が付くと、紅葉ちゃんが、あたしの側に来ていて、あたしの耳元に顔を近づける。
「聞きたいことがあるから。後で、ちょっと顔を貸しなさい」
感情を感じさせない、平坦な囁き声。
男の子になっちゃった鳥海さんの話だけじゃなくて、あたしのことも、ズバッと何か言われるんだろうなあ。
トホホ、周囲はイイハナシダナーって雰囲気なのに、あたしだけおいてけぼりじゃない。
紅葉ちゃんのターンが長くなりそうなので、ひとまずここまで。
次回更新はできるだけ早くなるよう頑張ります




