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誰がタメにサク、百合と薔薇  作者: 石橋凛
幼年学校編
23/78

第二十話 武家の嗜み?

スコーン! スコーン!


 「あら、お上手」


スコーン! スコーン!


 「お見事ですね」


スコーン! スコーン!


 「鳥海(ちょうかい)さんこそ、全部当ててるじゃない」


スコーン! スコーン!


 「鳥海(ちょうかい)家には、手裏剣術が代々伝えられているんです」


スコーン! スコーン!


 何の音かですって?


 庭に立てかけた的(まと)を狙って、暁(あかつき)姉上、あたし、鳥海(ちょうかい)さんの三人が、五寸釘を投げてるのよ。

 本当は手裏剣を打ちたいのだけど、あたしたちには重すぎるので、五寸釘で代用してるの。

 日本の手裏剣術の練習にも、五寸釘が使われてたんだけど、この世界でも同じだったみたい。


 「ちょっと! 庭に案内したと思ったら! 何故、三人とも釘を投げ始めるのよ!


 仲間はずれにされた紅葉(もみじ)ちゃんが、眉毛をへの字に曲げて大声を上げる。

 そんな紅葉(もみじ)ちゃんを見て、葵(あおい)くんは苦笑いを浮かべている。


 ここは、天城(あまぎ)家の別邸。

 鳥海(ちょうかい)さんは、他家の武家屋敷に遊びに行ったことがなかったそうで、朝陽(あさひ)さまを訪ねて赤城(あかぎ)城を参内(さんだい)する前に、練習がてら、あたしンちに来ない? と誘ったら、鳥海さんだけでなく、秋月(あきづき)兄妹もお供としてやってきたのよね。


 「あ、ごめんなさい。紅葉(もみじ)。つい、夢中になってしまって。他の女の子と、手裏剣について語り合える機会が、今までなかったの。ごめんね」


 「い、いえ。凪(なぎ)さまが、楽しんでいらっしゃるなら、それでいいのです」


 「紅葉(もみじ)も試しに投げてみる? 修練を積んでないと、簡単に刺さるものではないのだけれど」


 「えっと、その……。ありがたいお言葉ですが、刃物は触るな、と家人に言い含められておりまして……」


 葵(あおい)くんの話では、紅葉(もみじ)ちゃんは、破滅的に刃物の扱いが苦手な不器用さんだとか。

 包丁を持つことも禁止されているので、料理の練習も出来ないらしい。

 ……ガールズトークの話題が手裏剣ってのはどうなのよ、ってツッコミは禁止です。


 「私としたことが、秋月(あきづき)さんたちの歓待(かんたい)をしなければなりませんでしたのに。今、お茶と茶菓子を用意しますわね」


 暁(あかつき)姉上が、パンパンと手を叩くと、御殿女中(ごてんじょちゅう)がしずしずと、お盆に載せたお茶とお茶菓子を持ってくる。


 さっきまで五寸釘を投げていた庭は、松が美しい枯山水庭園だから、庭園を眺めながらお茶を飲むのは、悪く無いチョイスよね。


 「さあ、秋月(あきづき)さんたちも、そこにお掛けになって」


 抜け目なく御殿女中(ごてんじょちゅう)が、庭先に座布団を敷いてくれている。

 紅葉(もみじ)ちゃんは、鳥海(ちょうかい)さんの隣。

 葵(あおい)くんは、その紅葉(もみじ)ちゃんの隣に座る。


 「あら、流石は天城(あまぎ)家。良いお茶ですわね。お茶菓子も上品な甘さで」


 紅葉(もみじ)ちゃんも、女の子。

 甘いものを食べたら、機嫌が治ったらしい。


 「僕たちも、鳥海(ちょうかい)家以外の武家屋敷に来るのは初めてなんだけど……。御殿女中(ごてんじょちゅう)の皆さんって、どの家でも足音(あしおと)一つ立てないものなんですか?」


 「葵(あおい)くんのご指摘通り、我が家の御殿女中(ごてんじょちゅう)は有事の際、薙刀と手裏剣で家を守ることが出来るように、訓練しておりますの。他家のことは存じませんでしたが、鳥海(ちょうかい)家の御殿女中(ごてんじょちゅう)も同じでいらっしゃるようですわね」


 実は、うちの御殿女中(ごてんじょちゅう)は、全員がくノ一なんだけど。

 鳥海(ちょうかい)家も同じかもしれないけれど、そんな迂闊(うかつ)な話題は、暁(あかつき)姉上が振るわけもなく。

 鳥海(ちょうかい)さんも、曖昧(あいまい)な笑みを浮かべている。


 「紅葉(もみじ)ちゃんも、鳥海(ちょうかい)さんが赤城(あかぎ)城に参内(さんだい)する時は、付き添うのかしら?」


 さり気なく話題を変えると、紅葉(もみじ)ちゃんは、きょとんとした表情になり。


 「え? もちろん、凪(なぎ)さまがお城に参内される時は、お伴するわよ」


 「では、参内する前に、畳の裾(すそ)を踏まないで歩けるように、練習していったほうがいいわよ」


 「……。あんたが何を言ってるのか、よく分からないんだけど」


 鳥海(ちょうかい)さんは、流石に分かったらしい。


 「あ、そうだった! 朔(さく)さんに指摘を受けるまで、忘れていたわ! 武家の畳の裾(すそ)は踏んではいけないものなのよ」


 秋月(あきづき)兄妹には、この説明では不足だったようで、目が点になっている。


 「畳の裾(すそ)には、屋敷を攻められた時の罠として、刃を仕込むことがあるのよ。だから、常日頃から、武家の畳の裾(すそ)は踏まないものなのよ」


 前世のあたしも、泉(いずみ)母さんから、畳の裾(すそ)を踏まないように躾けられたけれど、現代日本家屋の畳の裾(すそ)に刃を仕込むはずもなく。

 元武家だったから、無意味となってしまっても、当たり前の作法として、現代でも伝えられているとか。


「……そんな習わしがあるとは。私の不調法で、凪(なぎ)さまに恥をかかせるわけには参りません。参内の日までには、自然に歩けるよう練習します!」


 気炎を上げる紅葉(もみじ)ちゃんに、皆からの生暖かい視線が集まる。


 「紅葉(もみじ)は、本当に、凪(なぎ)さまの事を慕っているんだね」


 葵(あおい)君の何気ない指摘に、紅葉(もみじ)ちゃんの顔がゆでダコのように、真っ赤に染まる。


 「そ、それれれはっ……。秋月(あきづき)家は、代々、鳥海(ちょうかい)家に御恩があるわけでっ! と、当然のことです!」


 「紅葉(もみじ)、ありがとう。不甲斐ない私を支えてくれて。参内まで日にちがないから、良かったら我が家に泊まって、畳の裾(すそ)を踏まない自然な歩き方の練習をしてもらってもいいかな?」


 「えっ! お泊りしてもいいんですか?!」


 「勿論よ。私の方からお願いしているんですもの。立場上、私が秋月(あきづき)家に泊まりこむわけにはいかないし」


 鳥海(ちょうかい)家の嫡子(ちゃくし)が、他家に泊まりこむには、相応の理由が必要なはず。

 歩き方の練習では、許されないでしょうね。


 「お泊り……。凪(なぎ)さまと一緒に、二人だけの夢の中へ……」


 ぶしゅうっ! と音を立てて、紅葉(もみじ)ちゃんが鼻血を吹き出すと、手慣れた手つきで、鳥海(ちょうかい)さんが、手ぬぐいを紅葉(もみじ)ちゃんに差し出す。

 ……。

 凄い!

 鼻血の飛沫(ひまつ)を、全部手ぬぐいで受け止めてる!

 鳥海(ちょうかい)さんも、それなりに武術を仕込まれているみたいね。

 この世界の武家娘は、どの娘も侮れない!

 

 ところで、紅葉(もみじ)ちゃんは、何を想像して鼻血を出したのかしら?

 ひょっとして、ひょっとしなくても、鳥海(ちょうかい)さんに気があるのかしら?


 この異世界には同性愛が満ち溢れている。

 あたしはそっと、タメ息を吐いた。

遅くなりましたが、連載再開です。

まだまだエタりませんよ。

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