第十九話 ポジショントーク 1
夢の中のあたしの部屋に帰ってきた。
早速、初伝のアカシの恩恵を使用して、天城朔の姿に変身している。
一瞬で姿が変わってしまうのが面白い!
三面鏡の前に立つと、今のあたしの姿が映る。
ふわふわなピンクの髪はネオウルフ。
つぶらな瞳もピンク色。
顔立ちは、泉母上にも、響母上にも似てないわね。
筋肉ダルマじゃない時の、朱門おばあさまにちょっと似てるのかしら。
……残念ながら、あんな美形じゃないんだけど、面影があるのよね。
「朔ちゃん、お茶の用意が出来たよ。こっちにおいでよ」
手際が良いことに、【邪気眼】は部屋に入ると、いつものように卓袱台に急須と御茶菓子を用意している。
【邪気眼】の目の前、女神さまからみて左側に正座する。
……幼女ボディだと、座高がいつもと違うわね。
当たり前なんだけど。
「さて、日向博士からは、だいたいの事情は聞いてるんだよね? 実は、ボクが前世の朔ちゃんの死に立ち会ったのは偶然じゃない。キミが何度も転生を繰り返してるのが面白くて、見物に来たのさ」
【邪気眼】は、いっそ晴れやかな笑顔を見せながら、とんでもない発言をする。
「見物って、人の生死を何だと思ってるのよ!」
あまりにも、あたしの人生を軽視した【邪気眼】に怒声を浴びせるけど、【邪気眼】は涼しい顔。
ぐぎぎぎぎ、もっと強くならないと、こいつにギャフンと言わせるのは無理か!
「ヒトの魂を監視するボクにとって、生も死も等価値なのさ。ハジマリのオワリ、オワリのハジマリに過ぎないからね」
「わけのわからない能書きは良いから、あたしの結婚と世界の運命がどんな関係があるのか教えなさいよ!」
「今のキミに、ボクが教えてあげられるのは、あと一つだけ。キミが無条件に信じて良い転生者は、日向彩だけだよ。彼女は世界を天秤にした時、家族よりも教え子のキミを必ず選ぶからね」
日向彩。
あたしの学校の教頭先生で、日向博士の妻、五十鈴ちゃんの母親。
両親も教頭先生の教え子だった関係で、公私ともに良くしてくれた恩師だ。
「繰り返した転生の中で、彩先生を見つけたこともあったの? 日向博士たちは、そんな記憶を持ってないみたいだけど」
博士と五十鈴ちゃんは、行方不明になった彩先生に、ただの一度も会った事が無いと言ってたのよね。
【邪気眼】はおいしそうに湯呑のお茶をすすってから、話を再開する。
「彼らが覚えてないのは、キミが彩ちゃんに再会出来たのは、彼らの死後だけだっただからだよ。彼らが死ぬ前に、彩ちゃんと再会しないと、ゲームオーバーだ」
邪気眼は、前世のあたしそっくりの顔を、愉悦に満ちた邪悪な表情に歪める。
「彩先生はどこにいるの? そもそも、どうして行方不明になったのよ!」
【邪気眼】は、オーバーに肩をすくめて見せる。
「おっと、おしゃべりが過ぎたね。一つしか教えないはずが、サービスまでしちゃったよ。アハハハハッ!」
もったいぶって!
思い切り、【邪気眼】を睨みつけてやるけれど、{邪気眼】はニヤニヤと歪んだ笑顔を見せるだけ。
コイツ、本当に感じが悪いわね!
いつか必ず、ブッ飛ばしてやる!
「初伝に到達した褒美に、メスブタに助言してやろう。愛宕百合。このゲスブタには隙を見せるな。こいつは、前世が男、精神も男のままなのに、女の体を選び、オレが作り出したシステムを破壊しようとしている」
……困った。
はい、喜んで! 以外の発言は禁じられてるので、質問することが出来ない!
愛宕さんの視線に違和感を感じてたけど、中の人が男性だったら、あんな目つきになるのかもしれないわね。
あたしが悶々(もんもん)としていると、【邪気眼(じゃきがん】が嬉しそうに割り込んでくる。
「朔ちゃんの代わりに、ボクが女神さまに質問してあげるよ。これは貸し一つだよ。……百合ちゃんは、性同一障害じゃないのかい? 身体的な性別と性自認が一致しない人は地球にはいるんだけど」
女神さまは、険しい顔になり、あたしと【邪気眼】を睨みつける。
女神さまの眼光を受けて、あたしは金縛りにあったように、身動きが取れなくなる!
「扶桑人が、性同一障害になる事はありえない。性自認と身体的性別は、必ず一致するのだ。たとえ無意識であっても、女から男に性自認が変わった場合は、身体的性別も女から男に変わるのだ。性自認と身体的性別の不一致が発生しないように、このセカイのシステムをオレサマが創りあげたのだ」
エキサイトしたのか、女神さまが気焔を上げる。
前世のあたしと同じ容姿のはずなのに、迫力がぜんぜん違う!
「ゲスブタめ! マガツカミの手先となり、セカイのコトワリを侵食する異物。絶対に許さぬ!」
女神さまは、あたしに向き直ると、真顔に戻る。
懐から、黒漆塗りの柄と鞘に、【三日月に九曜】――高雄家の家紋が入った短刀を出して、あたしに差し出す。
あたしの守り刀!
無くしたはずの鞘がある!
「メスブタが無くした鞘は、オレサマが回収しておいた。キサマは、両親より先に死んだ親不孝者だ。せめて、形見は大切にして、前世の両親への感謝の気持ちを忘れるな」
思わず、目頭が熱くなる。
そうよね、両親より先に死ぬことほど、親不孝なことはないって言うものね。
女神さまに、深々と頭を下げてから、守り刀を受け取る。
「メスブタに神命を下す。愛宕百合を調査し、決定的な証拠を見つけ次第、背後に潜むマガツカミ共々粉砕せよ!」
女神さまの御威光にうたれ、あたしは再度、深々と頭を下げた。




