第十七話 女神さまがみてる
「ごきげんよう。今日も皆、元気そうで何よりだわ」
上機嫌な朝陽さまは、大輪のひまわりのような笑顔を見せる。
覇気に満ちた眼差しは、とても七歳には見えない。
ドリル金髪は、ますますド派手に。
……お手入れはどうしてるのかしら?
朝陽さまは、あたしより先に起きてしまうので、あのドリルをどう維持してるのか、未だに知らないのよね。
「では、各々の守護神に祈りを捧げてから、昼餉としましょう」
朝陽さまにならい、同席している皆が、それぞれの守護神に祈りを捧げる。
……あたしの場合は、右腕に女神さまが宿っておられるので、右腕を掲げる奇妙なお祈り。
最初は皆から、「あんた、なにやってんの?」的な注目を集めていたけれど、もう見慣れてしまったのか、誰もツッコミを入れなくなった。
ここは、幼年学校の食堂。
ちょっとお高いので、一般の生徒は食堂を利用しないで、お弁当を持参している。
つまり、食堂には、それなりに裕福な子供しかいないわけで。
昼食時には、赤城国における次世代の幹部候補が集まっている。
お金が無くても、能力がある子供はいるはずなんだけどね。
この世界は階級社会ではあっても、能力があれば立身出世は可能なわけで。
朝陽さまも同意見みたいだけれど、一般の子供から見ると、朝陽さまは高嶺の花過ぎて、ガチガチに緊張しちゃって、なかなか親しくなれないみたい。
そうした経緯から、朝陽さまからは、見どころのある庶民を探すようご下命を受けている。
もう少し成長したら、球磨たちと一緒に、しばらく冒険者やってみるのもいいかもね。
脳筋なあたしでは、優秀な文官候補なんて見分けがつかないけど、武官候補なら見つけられるかもしれない。
『肉体言語』でОHANASHIしたら、だいたいの人となりは把握できる自信がある。
「……この面子だと、男子は私だけだから、どうしても落ち着かぬな」
陽月さま以外は、ここには女子しかいないことになっている。
玉の輿狙いなのか、まだ五歳児なのに女子に付きまとわれるせいで、若干女の子が苦手になってるみたい。
「陽月。貴方もそろそろ、女の子の上手なあしらい方を覚えなさい。逃げてばかりじゃ駄目よ」
朝陽さま、五歳児が女の子を上手にあしらうとか、ちょっと怖いんですけど。
「朔とは気軽に話せるのですが。あしらい方はともかくとして、女子とも話が弾むように努力してみます」
乳兄弟で、実質的に御側役に就任してるあたしとは、男友達のような関係になっているのよね。
女の子として意識されてないのは、ちょっと悲しいです。
「陽月さま、葛城家の別邸で、ちょっとした宴を催す予定がございます。同世代の子供たちも多数集まりますので、一度はご来臨を賜りますようお願い申し上げますわ。朝陽さまからは、既にご快諾いただいておりますのよ」
葛城家は、天城家と双璧をなす家柄で、葛城梓さんは、そこのお姫様。
年齢はあたしたちより上で九歳。
楚々(そそ)として見えて、彼女はあたしを超える脳筋らしい。
暁姉上からの情報によると、食堂に入る前に何度もカンニングペーパーを読み返す姿を見かけるとか。
葛城家は、頭が良い人が多い家系と聞いているけど、彼女は例外だとか。
黙って座っていれば、深窓の令嬢っぽいお姫さまなんだけどなあ。
亜麻色の長い髪なんて、サラサラで綺麗だし。
でも、運動神経は良さそうだ。
まだ武術の修行をはじめたばかりの年齢のはずなのに、歩き方がもう素人じゃないのよね。
取り巻きが邪魔して、なかなか話す機会が無いけれど、葛城さんとは仲良くなれるかも。
今すぐ、この場で話しかけろですって?
朝陽さまと陽月さまとお話するのに、いっぱいいっぱいになってる彼女の邪魔をするのは気の毒じゃないの。
葛城さんに限らず、社交的な朝陽さまと違い、お誘いは沢山あるのに、陽月さまは、あまり表舞台に出ようとしない。
嫡子の朝陽さまに遠慮してるってのあるかもだけど、性格的に社交場は苦手みたいね。
「あら、葛城さまばかり、ずるいですわ。是非とも、愛宕家の別邸にもお立ち寄りください。精一杯歓待させていただきますわ」
愛宕百合。
鳥海家を飛び越えて、勢力を伸ばしてきている愛宕家のお姫さま。
緩やかなウェーブがついた長い紫色の髪。
潤みがちな眼は、同性のあたしから見ても色っぽい。
十歳で目つきが色っぽいのは、おかしいんだけどね。
彼女の目を見ると、あたしの左手がひどくうずく。
つまり、彼女は地球からの転生者なのだ。
あたしよりも五歳も年上なので、赤城家に正式に召し抱えられるのも、あたしより先になるはず。
左手がうずくだけじゃない。
気を緩めると、右手が愛宕さんのアゴを狙って、スゴイパンチを出しそうになるのだ。
女神さまは、愛宕さんのことが大嫌いみたいだけど、公の場で彼女を殴ったら、あたしが処罰されることになるので、勘弁してほしいなあ。
葛城さんと、愛宕さんからの同時アタックを受けて、陽月さまは引き気味になりながら。
「う、うむ。では姉上との先約がある葛城家を訪問したら、愛宕家にお邪魔することとしよう。よろしく頼むぞ」
「ありがとうございます。私のお友達は気の良い方ばかり。陽月さまもきっとお気に召していただけると思いますの」
葛城さんは嬉しそうだけど。
彼女の友達というか、取り巻きは他の派閥より、きっつい性格の女の子が多いんだけどなあ。
彼女たちに邪魔されて、なかなか葛城さんと親しくなれないのよね。
「愛宕家での歓待にもご期待くださいませ。陽月さまにお寛ぎ頂けるよう、男子中心の宴と致しましょう。朝陽さまも、是非ご来臨賜りますよう、お願い申しあげます」
「ご歓談中失礼いたします。そろそろ召し上がりませんと、せっかくのお食事が冷めてしまいます」
「あら、凪の言う通り、そろそろ食べ始めましょう。……そうね、凪は一度、赤城の下屋敷にいらっしゃいな。貴女だけ、来た事がなかったわよね」
「あ、ありがとうございます。大変光栄です。朝陽様のお言葉に甘え、お邪魔させていただきます」
流石、朝陽さま。
葛城さんと愛宕さんに押されていた、鳥海さんへのフォローを忘れない。
葛城さんは笑ったままだけど、愛宕さんの目つきが、一瞬変わったわね。
すぐ取り繕ったみたいだけど。
表面上は、静かに食事が進んでいくけど、愛宕さんの視線が気になって仕方がない。
彼女は、どんな前世の持ち主なのかしら?
「鳥海殿には、愚妹がお世話になり、大変感謝しております。気軽に天城の別邸まで遊びに来て下さいまし」
天城家は、朝陽さまと陽月さまの乳兄弟というアドバンテージがあるので、暁姉上は、余裕があるわね。
左手がうずくし、右手は油断すると愛宕さんをぶん殴りそうになるし。
【邪気眼】と女神様とは、一度話し合った方が良いかしら。
あたしも、普通にお食事したいです。




