↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰がタメにサク、百合と薔薇  作者: 石橋凛
幼年学校編
19/78

第十六話 眼鏡とブラコン

 「鳥海(ちょうかい)さんが書く字って、すっごく綺麗だよね。あたしも、書道は頑張ってるつもりなんだけどなあ」


 「あ、ありがとうございます。天城(あまぎ)さん。そんなに褒められるほどのものじゃないのよ」


 あたしの賛辞に、鳥海(ちょうかい)さんは、顔を赤らめて、『至誠』と書かれた紙を隠してしまう。


 今は、書道の授業中。

 異世界では、五歳でもかなり難しい漢字で、お習字するみたいです。

 彼女の名前は、鳥海(ちょうかい)凪(なぎ)。

 鳥海(ちょうかい)家は、赤城(あかぎ)国の中でも有数の武家で、彼女は跡取り娘。

 泣きぼくろが印象的な眼鏡っ子。

 眼鏡はこの世界では高級品なんだけど、鳥海(ちょうかい)家なら問題なく買えるみたいね。


 「ちょっと! そこのドロボウ猫! なに、気安く凪(なぎ)さまに声をかけてるのよ! 授業中なんだから、静かにしなさいよ!」


 授業中に「静かにしろ」って言う子が一番やかましいのは、異世界でも同じで。

 このきゃんきゃんとうるさい娘は、秋月(あきづき)紅葉(もみじ)。

 葵(あおい)君の双子の妹で、【月の女神】に仕える巫女。

 太い眉毛がチャームポイント?

 穏やかな性格の葵(あおい)君とは違い、彼女は好戦的だ。

 巫女王の有力候補の一人なんだとか。


 「も、紅葉(もみじ)……。大声を出したら、かえって目立っちゃうよ」


 鳥海(ちょうかい)さんは、恥ずかしがり屋さんで、注目されると緊張してしまうらしい。

 武家の跡取りとしては、ちょっと気が小さすぎるのが、可哀想だなあ。

 鳥海(ちょうかい)家は、評定衆(ひょうじょうしゅう)に名を連ねる重臣だったんだけど、彼女のおじい様が失脚してしまい、抜けた穴は愛宕(あたご)家が埋めてしまった。


 「ちょっと、ドロボウ猫! あんたのせいで、凪(なぎ)さまからおしかりを受けてしまったじゃない!」


 人間とは薄情なもので。

 落ち目の家より、イケイケになった家とお付き合いしたいと考える人達も多くて。

 鳥海(ちょうかい)派から、かなりの人数が愛宕(あたご)派に流れてしまったとか。


 今でも鳥海(ちょうかい)派に残っている人たちは、その分結束力が高いみたい。

 鳥海(ちょうかい)さん、男の子から見ると守ってあげたくなる雰囲気だそうだし、それがいい! という人たちはぶれないでしょうね。

 

 ……鳥海(ちょうかい)さんのことは、まだよく知らないので、彼女は猫を被ってるだけなのかもしれないけれど。


 「ちょっと、ドロボウ猫! あたしの話を聞いてるの!」


 繊細(せんさい)で押しに弱い鳥海(ちょうかい)さんに代わり、幼年学校における鳥海(ちょうかい)派を支えているのが、このやかましい紅葉(もみじ)ちゃん。

 あたしが、彼女のお兄ちゃんである葵(あおい)くんと親しくしているのも、気に入らないみたい。

 心配しなくても、五歳児にちょっかいを出すほど、あたしは飢えていませんよ。

 光源氏みたいに、幼い子供を自分の好みに育てるなんて、キモイ事はする気はありません。


 「秋月(あきづき)くん、天城(あまぎ)くん。他の生徒の邪魔をするなら、廊下に立ってなさい」


 何時の間に近づいてきた、書道の先生に怒られてしまった!


 「先生、あたしは秋月(あきづき)さんのように騒いでいませんでしたよ」


 「きっかけを作ったのは君だろう。連帯責任だ。速やかに廊下に行きたまえ」


 「あ、あの。私が悪かったんです。ごめんなさい。あたしが廊下に出ますから、二人の事はお許しください。」


 鳥海(ちょうかい)さんがあたしたちを庇って先生に謝るけど、この先生は何時もあたしと秋月(あきづき)さんを狙い撃ちにするのよねえ。

 鳥海(ちょうかい)さんの謝罪を無視して、先生はアゴをしゃくり、あたしと秋月(あきづき)さんに叱責目線を飛ばす。


 うがー!

 なんて、理不尽な!

 秋月(あきづき)さんのおかげで、またとばっちりを受けてしまった!

 秋月(あきづき)さんが、スゴイ目つきであたしを睨んでから、スタスタと廊下に向かうので、あたしも廊下に出るか。

 ……秋月(あきづき)さんに関わって、こうして何度も廊下に立たされたことか!


 「懲りないドロボウ猫ね! あんたのせいで、私まで廊下行きになっちゃったじゃない!」


 教室の中に聞こえないように、小さな声であたしに文句をたれる秋月(あきづき)さん。

 彼女にはめちゃくちゃ嫌われているみたいで、ゴミを見るような目で睨(にら)みつけてくる。


 「あたしには、天城(あまぎ)朔(さく)って名前があるんだから、ドロボウ猫は止めて欲しいなあ」


 「うちの神社に金貨を三千枚も寄進(きしん)するなんて! 五歳でそんな大金を持ってるなんて、ドロボウしたんでしょ!」


 綺麗にお手入れされた太い眉を吊り上げて、更にヒートアップする秋月(あきづき)さん。


 金貨一枚が、日本円にしてだいたい十万円。

 三千枚だと、三億円相当になるわね。

 暁(あかつき)姉上が、さらにあたしの貯金を倍にしてしまったので、怖くなったあたしは、月の女神さまの神社に貯金の半分を寄進したのだ。


 「ドロボウなんてしないわよ。月の女神さまのご加護で、予想外の大金を手にしてしまったから、感謝の気持ちをこめて、寄進(きしん)しただけよ」


 「私を買収して、凪(なぎ)さまと、葵(あおい)お兄ちゃんを横取りしようって魂胆(こんたん)なんでしょ! 皆、あんたに騙されてるけど! あたしの目は誤魔化せないわよ!」


 秋月(あきづき)さんは、何故かあたしに対してだけ、理不尽に当たり散らすのよね。

 ……鳥海(ちょうかい)派の幹部にして、将来の巫女王候補に恩を売っておきましょうと言ったのは、暁(あかつき)姉上なんだけどなあ。


 「ちょっと! なに黙り込んでるのよ! まさか、葵(あおい)お兄ちゃんにイヤらしい事でもしたんじゃないでしょうね! そんなの絶対に許さないわよ!」


 興奮して鼻血をダラダラと垂らす秋月(あきづき)さんの顔を手拭(てぬぐ)いで拭いてあげると、「あ、ありがと」と礼を言いながら、そっぽを向いて自分の手拭(てぬぐ)いで鼻元を拭きはじめる


 「きっと、葵(あおい)お兄ちゃんだけでなく、凪(なぎ)さまも狙ってるに違いないわ! あんたなんかに、二人を絶対に渡したりしないんだから!」


 せっかく鼻血をキレイにしたのに、興奮しすぎたのか、ブバッとスゴイ勢いで鼻血を噴き出す秋月(あきづき)さん。


 「秋月(あきづき)さん。そんなに興奮しすぎると、鼻血が酷くなって貧血になってしまうわよ」


 「あんたなんかに心配されると、かえって気分が悪くなるのよ! 余計な事は言わないでちょうだい!」


 ここまで邪険にされても、あたしが秋月(あきづき)さんを嫌いになれない理由がある。

 巫女王(みこおう)を目指したいなら、落ち目の鳥海(ちょうかい)家より有力な後援者を探した方が良い。

 生臭い話になるけど、宗教の世界でも上を目指したいなら、政治的な力が動くみたいで。

 神通力では、あたしにはちょっとだけ及ばない秋月(あきづき)さんは、それでも五歳としては破格の神通力を持っており、他の派閥からの取り込み工作もあると、暁(あかつき)姉上から聞いている。

 

 それでも、幼馴染の鳥海(ちょうかい)さんから離れようとしない、彼女の義理堅さをあたしは評価しているのだ。

 出来れば、彼女とも友達になりたいんだけどなあ。

 もしかしたら、ひょっとすると、未来では彼女が義妹になる可能性もゼロじゃないんだし。

 今のところ、同世代で親しくしてる扶桑(ふそう)人の男の子って、陽月(ようげつ)さまと葵(あおい)くんぐらいしかいないわけで。


 授業が終わり、鳥海(ちょうかい)さんと葵(あおい)くんが宥(なだ)めに来るまで、秋月(あきづき)さんはキャンキャンとあたしに吠えつづけた。


 秋月(あきづき)さんって、葵(あおい)君にはデレデレなのよね。


 「あ、お兄ちゃん。これは、その。ご、ごめんなさい」


 あたしへの勢いなどどこに行ってしまったのか。

 葵(あおい)君の前では赤い顔でしろどもどろになっちゃって。

 ブラコンを拗らせてるみたいだし、葵(あおい)君の彼女になる女の子は大変だなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。