第八話:息をする骸骨
#犬神家の崩壊 #狂愛の神経結合 #アンウィーヴィング #ダークロマンス #サイコスリラー #近親相姦 #胸糞展開注意 #純愛と狂気 #グロ注意 #救いなどない
(POV:上塚 詩織)
痛みはもはや、肉体を切り裂くような単なる刺激ではなかった。
この圧倒的な激痛こそが、今の私の歪んだ存在証明だった。
私は屠殺場に吊るされた哀れな肉塊のように、冷たい金属製の支柱に固定されている。目の前のモニターを強制的に視界に焼き付けられるよう、小さな金属のクランプで瞼をこじ開けられていた。モニターには、禁断の装置『織り手』の放つ、青白い光の神経グラフが不気味に点滅している。指一本動かせず、瞬きさえも許されない。私の中枢神経系のすべては、すでにこの怪物の家族に乗っ取られていた。
「見て、江戸兄様……触れるだけで、彼女の心音がこんなに速くなるわ」
耳元で、甘く冷淡な声が囁く。
朱里だ。彼女は目の前に立っているはずなのに、私は自分の皮膚で直接彼女の体温を感じることはできない。すべては繋がれた神経接続を通じて、私の脳へと強制的に流れ込んでくるのだ。朱里が冷たいメスの先端で私の頬を愛おしげに撫でると、その生々しい感触は私ではなく、江戸と朱里の脳内へとダイレクトに伝わっていく。彼らは私の痛覚受容体を奪い、それを自分たちの感覚器へと同期させているのだ。
「彼女は、僕たちのために誂えられた実に見事な楽器だろう?」
背後から江戸の低く冷徹な声が響く。
叫ぼうとした。だが、感覚の失せた私の舌は、冷たい消毒洗浄液で満たされた喉の奥で、無惨な喘鳴を狂わせるだけだった。
そして、真の地獄が始まる。
寛二郎様が、濃紫色の薬品瓶を手に不気味な足音を立てて近づいてきた。
「第二段階だ。細胞壊死の伝播実験を行う。詩織ちゃんが味わう『死』の感覚が、この共有システムを通じて子らの神経にどのような進化を及ぼすかを確認しよう」
容赦なく、寛二郎は私の腿の付け根にある太い血管へ、直接その毒液を注入した。
「アッ……ガッ……、あ、あ……ッ!!」
音にならない、魂の叫びが頭の中で爆発する。数千匹の火蟻が骨の内側から生きたまま肉を食い荒らしているような感覚。数秒のうちに私の白い肌がドス黒く変色し、壊死していくのが目に見えてわかった。
だが、私を本当の意味で絶望のどん底に突き落としたのは、彼らの「反応」だった。
部屋の隅で、江戸と朱里がこちらの様子をじっと凝視していた。二人は恍惚とした表情で身震いし、『織り手』のケーブルを通じて送られる強烈な私の痛覚信号に完全に飲み込まれていた。激しく呼吸を乱し、私の絶望的な苦痛を極上の糧にするかのように、その感覚に深く酔いしれているのだ。
「もっと、お父様……この感覚を、もっと深く私に刻み込んで……」
朱里は低く官能的に呟き、神経が繋がった悦びのあまり、江戸の腕を強く、爪が食い込むほどに掴んだ。
実験室の壁にある大きな鏡を見る。そこに映るのは、もう上塚詩織という名の瑞々しい少女ではなかった。皮膚は生命の色彩を失い、背骨から銀色のサイバーケーブルを鋼鉄の蜘蛛の足のように生やした、生ける骸骨だ。私はこの呪われた一族の絆を繋ぎ止めるために、命を吸い尽くされるためだけの贄に過ぎなかった。
(お母さん……助けて……痛いの……助けて……)
涙で歪む視界の隅で、部屋の非常灯が赤く点滅しているのが見えた。寛二郎のデスクの端にある小さな監視モニターに、暗闇の門の外で密かに動く人影が映し出されている。黒いレザージャケットを着た男――草薙刑事だ。
彼はそこにいる。コンクリートの壁をわずか数枚隔てただけの、すぐ近くの場所に。
(入ってきて……お願い……)
残された僅かな正気の残滓で、私は狂おしく願った。
(ここへ来て、この悪夢のすべてを終わらせて……。たとえ、その結果として私が灰になっても構わないから……!)




