第七話:桜田門の影
#犬神家の崩壊 #狂愛の神経結合 #アンウィーヴィング #ダークロマンス #サイコスリラー #近親相姦 #胸糞展開注意 #純愛と狂気 #グロ注意 #救いなどない
(POV:草薙 連警部補)
警視庁本部の窓から見える東京タワーは、夜空を無慈悲に刺す赤い針のようだった。
私のデスクには、『蒸発事案:渋谷区』と題された茶封筒の束が、不気味な墓標のように積み上がっている。
蒸発。跡形もなく、この世界から消え失せる人々。
日本において自発的な失踪は珍しくないが、松濤をはじめとする都内有数の高級住宅街周辺で若い女性が連続して消えるのは、明らかに不自然だ。彼女たちには、借金や劣悪な人間関係から逃げ出す理由など何一つない。
ただ、あの「名家」の領域に足を踏み入れたのを最後に、彼女たちの行方は完全に途絶えている。
「草薙さん、まだ残ってたんですか?」
若手の佐藤刑事が、執務室の入り口に立っていた。
「渋谷の郵便局から妙な通報が入りました。今日、犬神邸に荷物を届けた配達員が不審に感じて連絡してきたんです。門の奥からゴミの腐敗臭のような異臭が漂っていたこと。それから、まるで生ける屍のような不気味な使用人を見た、と」
私は禁煙のルールなど知らん顔で煙草に火をつけ、紫煙を誰もいない部屋に充満させた。
犬神メディカルグループ。その名は、確たる証拠なしに我々警察が触れるには巨大すぎる。総帥である犬神寛二郎は単なる製薬会社のCEOではない。警察外郭団体の主要な寄付者――つまり、上層部の飼い主でもあるのだ。
「上塚詩織」
二日前に消息を絶った少女の写真を見つめ、私は低く呟いた。「神泉駅の防犯カメラに、犬神邸の方向へ向かう姿が捉えられたのが最後だ」
私は車のキーを乱暴に掴んだ。松濤の「プライバシー」という名の障壁は強固だ。相手が犬神家ともなれば、令状なしに踏み込むのは不可能に近い。だが、単なる『任意での挨拶』に令状など不要だ。
深夜の松濤へ車を走らせると、あの巨大な屋敷の門が見えてきた。息が詰まるような、死に絶えた静寂。高さ三メートルのコンクリート壁の向こう側で、何か根源的な狂気が蠢いているのを、刑事の直感が激しく告げていた。
*
その頃、屋敷の二階では、江戸と朱里が陶酔の極致にいた。
禁断の装置『織り手』による神経同調は、彼らの魂に消えない傷痕を残し、いまや肌を合わせずとも互いの内臓の動きや心音を感じ取れる、悍ましき接続を作り上げていた。
江戸は暗いバルコニーの椅子に座り、薄い絹のドレスを纏った朱里を膝に乗せている。二人は遠くに見える新宿の不夜城の灯を眺めていた。江戸の白皙の手には小さな外科用のメスが握られ、彼は慈しむように、自らの腕の皮膚へ『朱里』の名を刻みつけている。
朱里は、同調された神経を通じて、自分の腕に刃が走るような錯覚の悦びに身を震わせ、甘い吐息を漏らした。
「お兄様……門の前に、警察の車がいるわ」
朱里は江戸の腕から滲む、どろりとした鮮血を舌先で舐めとりながら妖しく囁いた。
江戸は微塵も動じない。階下で見張る私の覆面パトカーを見下ろし、薄く冷笑しただけだ。
「放っておけ、愛しい人。警察の犬どもが嗅ぎ回りすぎるなら、父様がまた新しい『餌』を用意してくれるさ」
*
私は通りを挟んだ向かい側でエンジンを切った。
屋敷の通気口から微かに漏れ出す、鋭い消毒液の臭気と、胸の悪くなるような濃厚なお香の香りが混じり合う。
上塚詩織はあの中にいる。あるいは――かつて彼女だった「肉の残骸」が。
今夜は観察に留める。だが、私の確信は揺るがない。
饗宴はまだ始まったばかりであり、あの犬神家は、この東京中を生贄の祭壇に変えるまで、決して止まらないだろう。




