第六話:沈黙を強いられた証人
#犬神家の崩壊 #狂愛の神経結合 #アンウィーヴィング #ダークロマンス #サイコスリラー #近親相姦 #胸糞展開注意 #純愛と狂気 #グロ注意 #救いなどない
(POV:九頭竜 巧)
舌を失ってから久しいが、この胃の底に澱のように溜まる不快感だけは、決して消え去ってはくれない。
毎朝、私はこの松濤にある高さ三メートルのコンクリート壁の前に立ち、無心に枯れ葉を掃く。犬神邸を近隣住民の目に、完璧なる「静謐」の状態で映し出すために。
通り過ぎる人々――役人、芸能人、実業家たちは、ただ壮麗なコロニアル様式の邸宅を羨望の眼差しで見上げるだけだ。彼らは知る由もない。自分たちの足元、豪華な大理石のわずか五メートル下で、一人の少女が絶望の深淵に囚われていることなど。
今日、私の任務は最も忌まわしく、重いものだった。昨夜の「惨劇」の痕跡を、すべてこの世から消し去ることだ。
江戸様と朱里様が、何事もなかったかのように優雅に自室へと戻られた後、私は地下室へと足を進めた。私は詩織を見た。彼女の瞳にはもう、一片の光も宿ってはいなかった。
手術台の上の彼女は、魂を抜き取られたただの抜け殻のようだった。装置は既に停止しているが、部屋には死のような重苦しい沈黙が支配している。彼女はまだ微かに息をしているが、その心は主たちの残酷な探求心によって、二度と戻れぬ遠くの闇へ追いやられてしまったかのようだった。
――ピンポーン。
門のインターホンが鳴り響いた。私は微かに身震いする。この邸宅に予告なしの来客が訪れることは、極めて稀なことだからだ。
私は地上へ上がり、身なりを整えて正門の脇にある通用口の小さな扉を開けた。そこに立っていたのは、郵便局の制服を着た中年男性だった。
「失礼します、上塚詩織さん宛のお荷物です。田舎のお母様からだそうです」男性は親切そうな笑みを浮かべて言った。「昨日から何度連絡しても繋がらないそうで、酷く心配されていましたよ」
私はただその男を凝視した。彼の背後には、平和な日常を象徴する東京タワーが赤く明るく輝いている。一方で私の背後からは、冷たい消毒液と、鉄錆の臭いが漂っている。
私はただ無機質に首を縦に振り、荷物を受け取った。安っぽい包装紙に包まれた小さな段ボール箱。中には、娘の無事を祈る家族からの、愛に満ちた何かが収められているのだろう。
郵便局員は怪訝そうに私を見た。「大丈夫ですか? 顔色が随分と悪いようですが……。それに、この妙な臭いは一体……?」
私はそれ以上言葉を交わすことなく、鉄門を冷酷に閉ざした。
静まり返った廊下を通り、江戸様の部屋の前を通り過ぎる。扉がわずかに開いており、中からは背筋が凍るような会話が漏れ聞こえてきた。
「江戸兄様……まだあの神経が痺れるような感触が残っているわ。次の機会も、本当に楽しみにしているのね」
私は詩織の母からの荷物を、屋敷の焼却炉へと運んだ。この温かい愛の結晶も、この歪んだ場所においては、無意味な残骸として灰にされるだけだ。
外界はこの場所を成功と富の象徴だと思っている。だが私は真実を知っている。犬神邸は東京の心臓部に潜む底なしの闇だ。一族の狂った繁栄のために、無辜の犠牲を飲み込み続ける呪われた深淵なのだ。
私はバケツとモップを手に取った。主たちが次の「狩り」を始める前に、地下の汚れをすべて綺麗に拭い去らなければならない。
ここ松濤の、贅を尽くした静寂の陰では、誰の救いの手も届かない。その叫びが、上流階級という名の仮面によって遮られている限りは。




