第九話:執行官の終焉
#犬神家の崩壊 #狂愛の神経結合 #アンウィーヴィング #ダークロマンス #サイコスリラー #近親相姦 #胸糞展開注意 #純愛と狂気 #グロ注意 #救いなどない
(POV:犬神 寛二郎)
地下監視モニターの映像を冷ややかに切り替える。
画面の向こうで、警視庁の草薙刑事が勝手口の暗号ロックを解除しようと躍起になっていた。その身のこなしは無駄なく洗練されており、実に見事な「狩り甲斐」のある男だ。
「江戸、朱里」私はインターコムのノイズを鳴らし、子らに呼びかけた。
「面白い『検体』が迷い込んできた。西回廊の照明をすべて落とせ。あの哀れな猟犬を、我が家のより深い奥底へと優雅に誘い込むのだ」
サーマルカメラの赤外線映像越しに、草薙が闇へと足を踏み入れる。彼は鋭い眼光で拳銃を構えているが、天井の換気口から密かに放出された、無色無臭の特殊麻酔には微塵も気づいていない。
やがて草薙の屈強な足取りが目に見えて乱れ、壁に苦しげに手をついた。
その刹那、背後の闇から、白衣を纏った江戸が音もなく肉食獣のように現れた。
「こんばんは、刑事さん」
江戸が手にした医療用の重い金属器具が、草薙の項を鈍く捉える。
衝撃に崩れ落ちる草薙の身体。すかさず駆け寄った朱里が、恍惚とした笑みを浮かべながら、その太い首筋に強力な神経遮断剤の太い針を迷わず突き刺した。これで、この誇り高き執行官は、抵抗する術を永久に失った。
*
数時間後。冷気と鉄錆の臭いが立ち込める、地下実験室。
草薙は、冷たい手術台の上で荒い呼吸と共に目を覚ました。
四肢を鋼鉄のクランプで完全に固定され、指一本分の身動きすら取れない。白衣を着た私の姿を見下ろした瞬間、彼の獣のような瞳に、激しい憤怒と底知れぬ恐怖が同時に宿る。
「無駄な足掻きはやめることだ、刑事さん」
私は、デスクの上の精密医療機器のスイッチを起動させた。キィィィンと耳の奥を抉るような高音の駆動音が、静寂の室内に響き渡る。
「君のような強靭な精神が、我が犬神家の『織り手』の神経同調にどこまで耐え、美しく壊れていくか……実に興味深い」
台の傍らに、江戸と朱里が並んで立つ。朱里は獲物を前にした猫のような残虐な好奇心を隠そうともせず、手術器具のメスを指先で弄んでいる。
草薙の強靭な肉体が、台の上でガタガタと激しく震え始めた。
装置を通じて、すでに台の裏側に固定されている『上塚詩織』の、あの限界を迎えた細胞壊死の絶望的な感覚が、彼の脳へと直接逆流し始めているのだ。どろりとした冷や汗が溢れ、刑事の顔は凄惨な苦痛によって歪んでいく。
「父様、早く高出力をかけて」江戸の暗い瞳が、妖しく歓喜に濡れている。
「彼の誇り高き『正義』の輪郭が、絶望の泥の中でドロドロに崩壊していく様を、もっと特等席で見たいんだ」
私は冷酷に口角を上げ、装置の出力を限界まで引き上げた。
草薙の脳髄に、抗いようのない電気的衝撃が奔る。それは魂の髄から存在を削り取るような、過酷な精神解剖の始まりだった。
完璧なる、絶望の連鎖。
「これが、私の聖域のルールだ」私はメスの刃先を彼の眉間に向け、冷ややかに告げた。
「ここでは君の地位も、国家の正義も何の意味も持たない。君は我が子たちの血肉を肥やすための……ただの『上質な素材』に過ぎないのだから」
部屋の隅、モニターの青白い光の下で、江戸と朱里は互いの神経の痺れを共有するように身体を寄せ合い、酷く不敵で美しい笑みを浮かべていた。彼らにとってこれは、次なる覚醒へと至るための、血塗られた祝祭に過ぎなかった。




