第二話:呼吸するレンズ
#犬神家の崩壊 #狂愛の神経結合 #アンウィーヴィング #ダークロマンス #サイコスリラー #近親相姦 #胸糞展開注意 #純愛と狂気 #グロ注意 #救いなどない
(POV:犬神 朱里)
私の部屋の壁は、色で塗られているのではない。十六枚のモニターが放つ、青白い光によって染められている。ここ、犬神邸の暗黒の核心において、私は神だ。すべてを見通している。食堂で父様がメスを弄んでいる間、上塚詩織の項を伝う冷や汗の一滴まで、私にははっきりと見える。
「可哀想な、小さな客演さん」
私はモニターに映る詩織の顔をクローズアップし、指先で液晶をなぞりながら囁いた。
ズームボタンを押し込む。彼女の肌の毛穴、唇의微かな震え、そして何より好ましいのは――罠にかかった鳥の羽ばたきのように激しく脈打つ、頸部の鼓動だ。彼女は知らない。食堂の鏡の裏、換気口の奥、 seniorそして部屋の隅にある人形の瞳の向こう側から、私が彼女の魂を解剖しているということを。
部屋の扉が音もなく開いた。死の気配を覆い隠そうとする、安っぽい花の香水――先ほど廊下ですれ違った詩織の匂いが残滓のように流れ込む。だが、その後に続くのは私の最も愛する香り。江戸兄様の、鋭く冷徹な気配だ。
私は振り向かない。その足音だけで彼だとわかる。
「見ているのか、朱里」
兄様の声が耳元で囁かれた。彼は私の後ろに立ち、モニターを見下ろした。
「彼女、臭いわ、お兄様」
私は画面を見つめたまま、淡々と答えた。「怯えた狐の匂いがする。なぜ彼女を私たちの食卓に招いたの? あの場所は純粋であるべきよ。私たちの血筋と同じように」
兄様は低く笑った。彼は私の椅子を回し、自分と向き合わせる. 私と同じ形をしたその暗い瞳は、冷酷な支配欲を湛えて私を射抜いた。
「彼女は愛されるためにここにいるのではない、朱里。僕たちの新しい玩具だ。地下にある標本のコレクションには、もう飽きていただろう?」
兄様の影がコントロールパネル全体を覆った。モニターの青白い光の下で、私たちは外界の倫理では決して測り知れない、血の繋がりに基づく沈黙を共有した。
「今夜、彼女は君の被験体だ」
兄様の声は氷のように冷たい。「彼女がここで過ごす一秒一秒を観察しろ。父様は、自分の世界が崩壊していく中で『上塚』の人間がどこまで精神を保てるかを知りたがっている」
私は微笑み、コントロールパネルの上で指を踊らせて、食堂の隠しマイクを起動した。陶器の皿の上でフォークが擦れる音が、私の神経を直接掻き毟るように響き渡る。
「少し、見世物を見せてあげましょうか、お兄様」
私は引き出しから小さなリモコンを取り出した。
ボタンを押す。画面越しに食堂の照明が明滅し、詩織の背後の壁に不気味に蠢く長い影が投げかけられた。彼女は凍りついた。見開かれた瞳が不安の源を探して彷徨う。これこそが最高の瞬間だ。獲物が、自分を狙う捕食者の存在を自覚し始めるこの瞬間が。
兄様は私の隣で、詩織の反応を鋭い眼差しで見つめている。私たちは、恐怖が彼女の正気を蝕んでいく様を共に眺めていた。この屋敷の別の部屋では、鋭利な道具たちが、その出番を待っている。
「見て、お兄様」
私は期待に声を弾ませた。「彼女はもう逃げられない。この屋敷は彼女の迷宮であり、私たちはその鍵の持ち主。彼女は私たちの標本の一部になるのよ……永遠にね」
兄様は深く頷いた。モニターの中では、詩織が震えながら立ち上がり、施錠された扉へと力なく歩み寄っていた。
(探し続けなさい、小さな狐さん)
私は心の中で冷ややかに呟いた。
(出口を求めて彷徨うほど、あなたは私たちが用意した深い闇の奥底へと沈んでいくだけなのだから)




