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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第五章:サキモリ「原点回帰」 【中編:次元の断絶】

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第百話:四百時間の狂気(マッド・クロック)

第百話:四百時間の狂気マッド・クロック


中央戦線の敵主力を沈めたサキモリに、休息という概念は存在しなかった。


「……心拍数、維持。血圧、固定。意識の混濁……許容範囲内だ」


サキモリの喉から漏れるのは、もはや人間の言葉というよりは、酷使され続けた機械の軋み音に近かった。

全盛期のスペックを維持するためのリミッター解除。

それは心臓に過負荷をかけ、血管を常に破裂寸前まで膨張させる「自傷行為」の連続だ。


彼の体内では、今この瞬間も絶望的なドラマが繰り広げられている。

急激な血流に耐えきれず、細い血管が数千、数万単位でブチブチと音を立てて断裂する。

だが、その直後に六十倍の再生力が働き、傷口を強引に接合する。


「壊れては直り、直っては壊れる」。

全身の神経が「死」を叫び、脳が絶叫を上げるほどの激痛。

普通の人なら一秒と持たずショック死する地獄を、サキモリは精神力一つで繋ぎ止め、戦闘行動を継続していた。


不眠。不休。

東から中央、そして次なる目的地である南部・アルタ王国へ。

その行軍は、既に「四百時間」に達しようとしていた。


「バ、化物め……! 魔法も使わずに、なぜこれほどまで戦い続けられる!?」


進路上にいた魔族の残党たちが、恐怖に顔を引きつらせて絶叫する。

彼らの目に映るのは、もはや人間ではない。

全身の毛穴から気化した血液が「黒い蒸気」となって立ち昇り、サキモリが進むたびに戦場を夜の闇のように塗りつぶしていく。

その蒸気に触れた者は、サキモリが発する圧倒的な熱量と殺意に当てられ、戦う前に膝を屈した。


「……障害、確認。排除デリートする」


サキモリが腕を振る。

ただの横なぎ。

しかし、三十倍に跳ね上がった筋力から放たれる風圧は、大型トラックが突っ込んできたかのような衝撃波となり、数十人の重装歩兵を盾ごと粉砕した。


泥を啜り、草を噛み、己の命を「熱」へと変換し続ける怪物。

彼は四百時間の間、一度も目を閉じず、一度も速度を落とさなかった。


敵軍にとって、それはもはや戦術で勝てる相手ではなかった。

地形を変え、天候を歪め、ただ「通り過ぎるだけ」で軍隊を消滅させる不可避の終焉。


「逃げろ……! あれは人間じゃない……『歩く災害』だッ!!」


魔王軍の間に、その呼び名が急速に広まっていく。

サキモリの後ろには、もはや草木一本すら残らない。


黒い霧を纏った死神は、ただ黙々と、かつて自分が愛した「平和な日常」を汚した者たちを、この世から消去するための事務作業を続けていた。


その歩みの先には、南部の最終防衛拠点。

ルミナが全てを失い、炎の中で膝をつくアルタ王国があった。


(第百話:完)

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