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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第五章:サキモリ「原点回帰」 【前編:覚醒と蹂躙】

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第九十七話:音速の拳、空母を沈めた打撃

第九十七話:音速の拳、空母を沈めた打撃


東部戦線。

かつて美しい草原だった場所は、今や数万の魔族と不死者の軍勢に埋め尽くされていた。


「……ここまで、ね」


エレンは折れた弓を杖代わりに、辛うじて立ち上がっていた。

矢は尽き、喉は焼け、愛用していた魔法の弓もデスナイトの膂力りょりょくによって無残に叩き折られている。


彼女を完全に包囲するのは、魔王軍が誇る最強の不死軍団。

その中心には、巨大な漆黒の甲冑に身を包んだ幹部『デスナイトロード』が、冷酷な眼光を放ちながら呪われた大剣を振り上げ、死の宣告を下そうとしていた。


エレンが死を覚悟し、静かに瞳を閉じた――その時だった。


空が、物理的に「割れた」。


ドォォォォォォォォォォォォン!!


戦場全体に響き渡ったのは、雷鳴をも凌駕する轟音と、大気を切り裂く衝撃波。


直後、エレンとデスナイトロードの間のわずかな空間に、一筋の「黒い流星」が音速を超えて突き刺さった。


激突。

それは、重爆撃機の直撃にも等しい、質量と速度の暴虐だった。


着闘の衝撃だけで、周囲にいた数百のデスナイトや魔族の正規兵が、木の葉のように粉砕され、爆風と共に吹き飛ばされる。


轟々たる砂塵が舞い上がり、戦場の一角が瞬く間に更地へと変えられていく。


「なっ――!? 何事だッ!」


デスナイトロードが、初めて動揺の声を上げる。


砂塵が晴れる中、そこに姿を現したのは、全身から熱せられた機械のような蒸気を吐き出し、黒い霧を纏った一人の男だった。


サキモリ。

だが、そこにエレンの知る優しい「サキモリ」の面影は、微塵もなかった。


汗と返り血が混ざり合い、緑色だったはずの軍服は、名状しがたい「漆黒」へと染まりきっている。

心拍数は通常の三倍、血管は浮き上がり、赤黒く濁った眼光が、冷徹に敵を捉えていた。


サキモリは、目の前のデスナイトロードを一瞥もせず、ただ静かに拳を握り込んだ。


彼にとって、伝説級の硬度を持つ甲冑も、不死身の身体も、計算の外にある。


「……邪魔だ」


サキモリの一歩。

ただ地面を蹴ったその一歩で、大地はクレーター状に爆ぜ、彼は音速に近い速度でデスナイトロードの懐へと「転送」された。


デスナイトロードが大剣を構える暇さえ、サキモリは与えない。


ズガァァァァァァァン!!


サキモリの放った、ただの真っ直ぐな拳。

それがデスナイトロードの胸部に接触した瞬間、40ミリカノン砲の直撃を一点に凝縮したような破壊エネルギーが爆発した。


貫通ではない。「消失」だ。

最強の甲冑ごと、デスナイトロードの胸部が、その存在ごと消し飛ばされた。


不死の魔力も、再生の呪いも、その圧倒的な物理質量と速度の前には、意味を成さない。


しかし、惨劇はそれだけでは終わらない。


サキモリの拳が引き起こした「真空のスリップストリーム」と衝撃波が、デスナイトロードを突き抜け、その背後一キロメートル圏内にいた敵軍を掃討した。


バキバキと音を立てて肉体がひしゃげ、装甲が拉げ、数千の魔族がただの「風圧」によって、存在を事務的に抹消されていく。


エレンは、眼前の光景に言葉を失っていた。


サキモリがエレンを背に庇うように立った瞬間、彼女は自身の肺が押し潰されるような錯覚に陥った。


それは人間が発するプレッシャーではない。

全長五百メートル級の巨大空母が、速度を殺さずそのまま岸壁に接岸してくるかのような、逃げ場のない圧倒的な質量の圧力。


「……下がっていろ。ここからは、俺が片付ける」


サキモリの声は低く、そして感情が完全に抜け落ちていた。


赤黒く光るその眼光に見つめられ、エレンは「はい」と答えることさえ忘れ、ただ震える喉で、その怪物の背中を見つめていた。


(第九十七話:完)

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