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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第五章:サキモリ「原点回帰」 【前編:覚醒と蹂躙】

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第九十六話:海上を駆ける駆逐艦

第九十六話:海上を駆ける駆逐艦


バルバロイの荒野に、もはや動く魔族の姿はなかった。

銀狼幹部であった「肉塊」の残骸を一瞥もせず、サキモリは返り血で黒く変色した軍服の袖で口元を拭う。


心拍数は依然として通常の三倍。全身の血管が浮き上がり、熱せられた機械のように蒸気を吐き出し続けている。


「……北か」


撤退する敵軍の軌跡、そして風に乗って届くわずかな火薬の臭い。

管理者の知性が、最短ルートを導き出す。


陸路を往けば、地形の起伏が「全速」の邪魔になる。

サキモリが選んだのは、鏡のように広がる青い平原――「海」だった。


「ア、ァ……ガッ!!」


激痛を肺に溜め、サキモリは海岸線へ向けて爆走を開始した。

砂浜を蹴り飛ばした衝撃で背後に巨大な砂柱が立ち、彼はそのまま、物理法則をあざ笑うかのように海面へと足を踏み出した。


ドォォォォォォン!!


海面を叩く足音が、大砲の轟音となって響き渡る。


時速百キロメートル。海の向こうで波を切る駆逐艦の全速に並ぶ異常な速度だ。

サキモリの身体は、時速百キロという「空気の壁」に正面から衝突し続け、叩きつける海水の衝撃で皮膚が裂け、血が飛沫となって霧に混ざる。


だが、全盛期の彼にとって、それは移動に伴う「コスト」に過ぎない。

裂けた皮膚は六十倍の代謝で即座に繋がり、流れる血は蒸気となって推進力の一部にすら変わる。


「……前方に、障害物」


視界の先、東部へ向かう魔族の輸送艦隊が現れた。

数隻の軍艦が、海を割って進む「黒い弾丸」に気づき、慌てて魔導砲の砲門を向ける。


「目標捕捉! なんだ、あの速さは!? 魚雷か!?」

「違う、人間だ! 人間が走って――」


迎撃の暇など、サキモリは与えない。

彼は進路を変えない。ただ「最短距離」を突き進む。


ドガァァァァァン!!


衝突。

それは戦術でも何でもない。ただの質量と速度の暴虐だ。


サキモリの肉体が軍艦の側面にぶつかった瞬間、鋼鉄の装甲が紙のようにひしゃげ、爆発的な衝撃波が船体を内部から粉砕した。


サキモリが通り抜けた跡には、巨大な軍艦が真っ二つに割れ、海中へと没していく無残な光景だけが残される。


「アガ、ァ……」


衝突の衝撃で肩の骨が砕けようと、内臓が揺れようと、サキモリの足は止まらない。


彼は「横切るついで」に、進路上の障害物を肉体一つで解体していく。

一隻、また一隻。海上に火柱が上がり、魔族たちの悲鳴が潮騒に消える。


サキモリの瞳には、沈みゆく敵への感慨など微塵もない。

ただ、一刻も早く、東の地に残された「変数」を、エレンを、その手で回収すること。


背後に数キロメートルに及ぶ真っ白な航跡波を残し、サキモリは巨大な水飛沫と共に、水平線の彼方――絶望が渦巻く東部戦線へと姿を消した。


(第九十六話:完)

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