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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第三章:アリサ「鉄壁の軍団」

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第八十四話:不動のダム、あるいは犠牲なき戦場

第八十四話:不動のダム、あるいは犠牲なき戦場


白銀の門に押し寄せる十万の軍勢は、その数を減らすどころか、さらに密度を増して防衛線を圧迫していた。


「左翼、第十二班! 盾が摩耗しているわ、三歩下がって!」

「右翼、中央との隙間を埋めなさい! 角度を一定に保って!」


アリサの凛とした声が戦場に響く。

魔族正規兵による波状攻撃は苛烈を極めていた。数に物を言わせた突撃が絶え間なく繰り返され、サキモリの理論で「受け流して」いるとはいえ、兵士たちの精神と肉体は確実に削られていく。


一瞬、中央の陣形が敵の質量に押され、歪んだ。


「――そこは通さないと言ったはずよ」


戦線の綻びを埋めるべく、アリサが自ら中央の最前線へと踏み出した。


兵士たちの視界に、一人の少女の背中が映る。

白銀の甲冑に身を包み、身の丈ほどもある大盾「アイギス」を携えたその後ろ姿は、血と泥に塗れた戦場において、あまりにも神々しく、異質なほどの静寂を纏っていた。


ドォッ! と凄まじい衝撃音が響く。

三メートルを超える巨体の魔族が、雄叫びと共に戦斧を叩きつけたのだ。だが、アリサは眉一つ動かさない。サキモリから教わった「最小面積での圧力受容」――相手の攻撃が最も重くなる一点を見極め、そこにだけ盾の強度を集中させる。


アリサは盾を真っ向から支えるのではなく、最小限の足捌きで、自身の重心をミリ単位で移動させた。

戦斧が盾に触れた瞬間、火花と共に衝撃が地面へと逃がされる。アリサは、まるで舞踏を踊るような軽やかさで盾の縁を敵の懐へ滑り込ませ、その巨体を軽々と弾き飛ばした。


次から次へと襲い掛かる魔族を、華麗に、淡々とアリサは処理していく。


「すごい……。あんな大軍を、たった一人で……」

「まるで、溢れ出す泥流を止めるダムのようだ」


後ろに控える兵士たちの目に、その光景は奇跡として焼き付いた。

アリサの背中がある限り、この門は絶対に破られない。彼女がそこに立っているだけで、死の恐怖は消え、戦場は「犠牲なき聖域」へと変わる。

数百の魔族が、彼女一人の「不動」の美学の前に沈み、屍を積み上げていく。兵士たちにとって、アリサの背中はもはやただの盾ではなく、世界を繋ぎ止める最後の希望、神聖なる救いそのものだった。


「誰も死なせない。それが、私たちがここで戦う唯一の正解です」


アリサの独白は、誰に届くこともなく風に消える。

だが、その完璧な「ダム」を、戦場の構造そのものを塗り替えるような異質な気配が襲った。


ザッ、と。

あれほど統制の取れていた魔族正規兵の最前列が、恐怖に駆られたかのように左右へ割れたのだ。


「……何が来るの?」


アリサが盾を握り直す。

開かれた「道」の奥から現れたのは、これまでの正規兵とは比較にならない、圧倒的な「厚み」を持った質量。


一歩踏み出すごとに大地が沈み、空気が重圧で軋む。


それは、ただそこに存在するだけで「防御」という概念を物理的に圧殺する、牛魔族の尖兵たちであった。


(第八十四話:完)

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