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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第三章:エレン「視界なき殲滅」

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第八十一話:黒い騎士の壁

第八十一話:黒い騎士の壁


ドォ、という重低音が塔の最上階を震わせた。

螺旋階段の闇を割り、現れたのは「鉄の塊」だった。


古代種、デスナイトロード。

それは生物の温もりを一切持たない、死と呪いだけで構成された漆黒の重装甲。その背後には、同じく黒い甲冑に身を包んだデスナイトたちが、物言わぬ影のように控えている。


「……ッ!」


エレンは反射的に、指に込める魔力を最大まで引き上げた。

零距離。狙撃手にとっては最悪の間合い。だが、今の彼女にはサキモリから教わった「最適解」がある。この距離ならば、相手の防御が最も薄い継ぎ目を、至近距離からの魔力収束射撃で貫ける。


「消えて……!」


至近距離から放たれた十数発の魔力矢。それらは閃光となって、デスナイトロードの喉元と心臓部へと吸い込まれた。


キィィィィィン――!


鼓膜を突き刺すような鋭い金属音が響く。

だが、エレンの瞳は驚愕に見開かれた。渾身の射撃は、漆黒の甲冑に白い火花を散らせただけで、傷一つ付けることができなかったのだ。


信じられない光景はさらに続く。

追撃として放った一射。デスナイトロードはそれを避ける素振りも見せず、あろうことか飛来する光の矢を、その籠手ガントレットで鷲掴みにした。


バキィッ、と。

魔法的に凝縮されたはずのエネルギー体が、黒い手の中で、ただの枯れ枝のように無造作に握り潰される。


(……魔法が、効いていない? いえ、物理的な衝撃さえ、あの鎧は「なかったこと」にしている……!)


戦慄がエレンの全身を駆け抜ける。

サキモリに教わった弾道学も、空間設計も、すべては「攻撃が通用する」という前提の上に成り立つロジックだ。しかし、目の前の怪物は、その前提そのものを根本から否定していた。


「……無駄だ、と言っているのですね」


エレンは震える足で、後方へ飛び退いた。

時計塔の最上階という狭い空間。彼女に残された唯一の対抗手段は、狙撃手としての天性……デスナイトを僅かに上回る「俊敏性」だけだった。


「はあああああッ!」


叫びとともに、魔法陣を盾代わりに展開し、連続射撃を浴びせながら回避行動に移る。

デスナイトロードの振るう大剣が、エレンの髪を掠め、背後の石壁をバターのように切り裂いた。塔全体が激しく揺れ、瓦礫が舞う。


エレンは塔の縁を走り、重力を無視した動きでデスナイトロードの死角へ回り込む。だが、相手の眼窩に宿る鬼火は、透過魔法を重ねる彼女の姿を正確に追い続けていた。


「隠れても、無駄……。この方、私の魂を、直接視ているのね……!」


逃げ場はない。隠密も通用しない。

魔力が枯渇しかけ、視界が赤く染まる中、エレンは最後の魔力を振り絞って弓を引き絞った。これが通じなければ、もう手はない。


だが。


ガキンッ――!!


放たれた最後の一矢が届くより早く、デスナイトロードの剣が、風を切る速度で横薙ぎに振り抜かれた。

狙いはエレンの体ではない。彼女が握る、命よりも大切な「弓」だ。


凄まじい衝撃がエレンの手首を襲い、愛用の弓が弾き飛ばされた。

弧を描いて夜空へと消えていく弓。

必勝のロジックが、物理的に粉砕された音が、狭い塔内に虚しく響き渡った。


「……ぁ……」


武器を失い、背中を石壁に押し付けられたエレン。

目の前には、逃れられぬ死を体現する漆黒の騎士。

サキモリの「最高傑作」でありたいと願った少女の誇りが、今、冷たい鉄の壁の前に、音を立てて崩れ落ちようとしていた。


(第八十一話:完)

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