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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第二章:削り続ける地獄(サキモリ編)

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第七十四話:消耗の可視化「カウントダウン」

第七十四話:消耗の可視化「カウントダウン」


戦場に立ち込める鉄錆と死臭。それらがサキモリの五感をじわじわと麻痺させていく。

銀狼族との激突は、もはや純粋な武芸の域を超え、互いの「存在」を削り合う残酷な消耗戦へと突入していた。


「死なない・避ける・殺す」


三点に絞り込んだ思考のループは、かろうじてサキモリの肉体を動かし続けている。だが、彼の視界は先ほどから不気味な赤色に染まっていた。網膜の毛細血管が限界を超え、視界の端が絶えず明滅している。


(……心拍数、一八〇。筋繊維の断裂率、二二%。脳の並列演算処理能力、通常時の四〇%まで低下)


サキモリの脳内で、無機質な自己診断パネルが警告灯を激しく点滅させる。

今の彼は、物理的に壊れかけていた。二十年前、孤島で鋼鉄の怪物を相手に立ち回った時の万全な状態ではない。ポーションもなく、仲間の悲鳴をノイズとして抱えた今の肉体は、ボロボロの歯車で無理やり回る機械に過ぎない。


(完全停止までの予測時間――一二〇分)


非情なデジタル数字が脳裏に浮かぶ。

あと二時間。それが、この異世界で「穏やかな守り人」として振る舞ってきた彼が、個体としての機能を維持できる残された時間だった。


ドォォォン……!

銀狼族の黒鉄の槍が、サキモリの数ミリ横を通り抜け、地面に巨大な陥没を作る。

サキモリはそれを回避したのではない。身体が、蓄積された「死の経験」に基づいて反射的に反応しただけだ。彼の意識はすでに、眼前の敵を殺すことよりも、崩壊していく自身の肉体をどうにか繋ぎ止めることにリソースを割かれ始めていた。


「ハッ、ハァッ……、ハッ……」


喉が焼けるように熱い。肺は酸素を拒絶し、全身の筋肉は一歩踏み出すたびに数千本の針を突き刺されるような痛みを訴える。

それでも、サキモリの瞳は冷徹に銀狼族の隙を探り、灰色の槍を突き出し続ける。


一〇分経過。 三〇分経過。


一〇万の軍勢は、サキモリ一人の狂気的な防衛によって、その前線を一ミリも進めることができない。だが、サキモリの脳内カウントダウンは、無慈悲に刻まれていく。


(残り、九〇分……八五分……)


一撃一殺の精度が、わずかに落ちる。

これまでは確実に急所を射抜いていた槍先が、銀狼族の分厚い皮皮に阻まれ、浅い傷に留まる。逆に、銀狼族の槍はサキモリの軍服をさらに切り裂き、その下の生身を赤く染めていく。


「……っ、ふぅ……」


サキモリは、膝の震えを槍を支えにして無理やり止めた。

視界の赤みは一層濃くなり、今や世界は夕暮れ時のような血の色に包まれている。


(残り――六〇分)


一時間を切った。

バルバロイの戦線を守り切るには、あまりにも短い時間。

他の三カ国へ駆けつけるには、絶望的なほど足りない時間。


サキモリは、自らの血を吐き出し、歪な笑みを浮かべた。感情を捨てたはずの「機械」が、最後に漏らしたのは、皮肉にも極めて人間臭い言葉だった。


「……あと、一時間ですか。それまでに、せめてもう一万は削っておきたかったのですが。……やはり、計算通りにはいかないものだ」


灰色の槍を握り直し、サキモリは再び、巨大な銀狼へと踏み込む。

命を灯火に変えて、彼は自分自身という「防波堤」を限界まで使い潰す。


(第七十四話:完)

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