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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三幕・第二章:削り続ける地獄(サキモリ編)

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第七十三話:極限集中「三点思考の固定」

第七十三話:極限集中「三点思考の固定」


バルバロイの戦場。一〇万の軍勢が真っ二つに割れ、そこから「巨大な絶望」が姿を現した。


「……古代種、銀狼族ワーウルフ……! なぜ、あんな伝説の怪物がここに……!?」


傍らに控える伝令兵が、ガチガチと歯を鳴らしながら絶望の声を上げた。

サキモリはその名を初めて耳にした。だが、知識など必要ない。対峙した瞬間に理解した。眼前に立つのは、サキモリの身長を遥かに凌ぐ巨躯を持つ人狼。だが、その本質は獣の荒々しさではない。軍服姿のサキモリが持つ『灰色の槍』よりも太く、重い黒鉄の槍を、羽毛のように軽く片手で操る「武」の怪物だ。


銀狼族の放つ圧力が、サキモリの傷ついた左肩を締め付ける。

人類を遥かに凌駕するパワー、スピード、そして尽きることのないスタミナ。それは、サキモリが二十年間、近代兵器を相手に培ってきた「効率」という名の城壁を、正面から粉砕し得る暴力の化身だった。


「サキモリ様ッ! 南、アルタのルミナ殿の戦域に『ドラグナイト』が出現! 広域殲滅魔法による被害が甚大です、指示をッ!」


背後から届く伝令兵の悲鳴。

仲間の窮地。本来なら思考を割くべき重大な戦況報告だ。しかし、眼前の銀狼族が放つ初撃――ただの牽制に過ぎない突きが、サキモリの頬を掠め、背後の石壁を粉薬のように砕いた。


この怪物を前にして、他人の心配をする余裕など、一ミリ秒も残されていない。サキモリは瞬時に判断を下す。


(……外部情報の遮断を確認。これ以上の並列処理は、個体(私)の戦闘維持を不可能にする)


サキモリは、血の滲む唇で静かに宣言した。


「――構造を、三点に固定。余剰プログラムをすべて強制終了パージします」


彼は自身の内側にある「優しさ」や「不安」といった、人間としての情緒を心の奥底へと封印する。ルミナが泣いていようと、アリサが倒れようと、今のサキモリにとっては「未確定のノイズ」に過ぎない。


思考のすべてを、生存と殺戮のためだけに再定義する。


「死なない・避ける・殺す」


視界から色が消え、世界が静止したような錯覚に陥る。

サキモリの心拍数は一定に保たれ、震えていた指先が、嘘のようにピタリと止まった。


ドォォォン……!

銀狼族が爆音と共に踏み込み、黒鉄の槍を叩きつける。

サキモリはそれを「避ける」のではない。最小限の首の傾げで回避し、同時に「殺す」ための最短距離を槍で突く。


一対一〇万。そして、格上の古代種。

絶望的な状況下で、サキモリの動きは逆に「無駄」を削ぎ落としていった。


「……遅い」


無機質な呟き。

サキモリの槍が、銀狼族の鋼のような毛並みを切り裂き、血を噴き上げさせる。

一人。たった一人で、魔族の軍勢を押し返し始めたのだ。

感情を捨て、ただの「戦う機械」へと戻った男の槍が、戦場の空気を凍りつかせていく。


だが、代償は確実に払われていた。

過負荷オーバーロードに耐えるサキモリの膝が、ピキリと不吉な音を立てて震える。

視界がわずかに明滅し、脳の奥で警報が鳴り響く。


「三点思考」の維持限界。

それは、サキモリの肉体が「人間」として保てる最後の境界線でもあった。


(第七十三話:完)

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