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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第二幕・第三章:補給線の革命「不沈の進軍」

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第五十五話:夜の狙撃手、エレンの「過集中」

第五十五話:夜の狙撃手、エレンの「過集中」


月明かりすら届かぬ深い夜。

「不沈の四角形」は、漆黒の帳を切り裂くように突き進んでいた。


先頭を行くアリサは、近距離からの不意な強襲に備え、『アイギス』を最小限の出力で常時展開し、その光で足元を照らしている。


だが、その盾に敵が接触することはない。


「……南南西、一・二キロ。岩陰に潜む、汚れた影……射殺します」


サキモリの傍らを走るエレンが、機械的なまでの正確さで弓を引き絞った。

放たれた魔力の矢は、闇を切り裂き、視認不可能な距離にいた魔獣の眉間を正確に貫く。


夜間の超高速行軍を成立させているのは、エレンの「千里眼」と、サキモリが投与し続けている『魔力増幅薬』による感覚の拡張だ。

しかし、その副作用は彼女の精神を異常な「過集中」状態へと叩き込んでいた。


「ふふ、見えます……全てが見えます、サキモリ様。貴方様の進路を汚す不浄な存在は、一匹残らず私が……あはっ、次! 北北東、八〇〇!」


「……エレン殿、バイタルが過熱気味です。少し出力を抑えてください」


サキモリは、全員分の予備装備や資材を満載した荷物を背負い、さらにその一番上に小柄なルミナを乗せた状態で、平然と地図を確認しながら走り続けている。

ルミナはサキモリの背で揺られながら、半ば夢現の状態でサキモリのスケッチにある薬草を魔法のマジックハンドで採取し、精製袋に詰め込む作業を繰り返していた。


「問題ありません、サキモリ様! 私はまだ、貴方様のために戦えます! もっと、もっと私を見てください……!」


エレンの瞳には、増幅薬による狂乱と、彼への過剰な執着が混ざり合った危うい光が宿っている。


「……定時です。小休止(三〇分)に入ります」


サキモリの宣言と共に、一行は街道脇の岩陰で足を止めた。

サキモリは即座にルミナを椅子から下ろし、興奮状態で周囲を警戒し続けるエレンの肩を掴んだ。


「エレン殿、強制休憩のフェーズです。これを服用してください」


「まだ戦えます! 私は……っ、ん……」


サキモリが差し出したのは、強力な睡眠導入効果を付加した特別製の回復ポーションだった。

それを一気に流し込まれたエレンは、数秒と経たずに膝の力が抜け、サキモリの胸元へと倒れ込んだ。


サキモリは無表情に地面へ腰を下ろすと、エレンの頭を己の膝の上に静かに乗せた。


「……精神的なオーバーヒートを物理的にシャットダウンしました。アリサ殿、周囲の監視を。私はポーションの在庫管理を行います」


「承知した。……しかし、その、膝枕というのは……彼女にとっては、どんな薬よりも効きそうだな」


アリサが苦笑しながら盾を構える。

サキモリの膝の上で、先ほどまでの狂気的な集中が嘘のように、エレンは安らかな寝息を立て始めた。


「……サキモリ……様……。えへへ……ずっと、お傍に……(満足げな寝言)」


三〇分後。

休憩時間の終了を告げるアラームが、サキモリの脳内で鳴り響いた。


彼は立ち上がろうとしたが、エレンの寝顔があまりに深く、ここで無理に覚醒させれば精神的負荷が残ると判断した。


「……予定を変更します。エレン殿はこのまま就寝を継続。私が背負って移動を再開します。ルミナ先生、中距離の監視任務に就いてください」


「えぇー、寝起きに索敵? おじさん、使い方が荒いのよ……」


文句を言いながらも、ルミナはサキモリの背中にしがみつく。

サキモリは、エレンを背負い椅子にしっかりと固定し、その上からルミナを担ぎ直した。


「……行軍再開。夜明けまでに、あと一二〇キロ稼ぎます」


背中に二人の女性を背負い、一人の眠れる狙撃手の寝言を聴きながら、不沈の管理者は再び闇の中を、規則正しいリズムで駆け出した。


第五十五話:完

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