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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第二幕・第二章 :資源戦の幕開け「スライムは原油である」

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第四十五話:アリサの受難、背中を守る規律

第四十五話:アリサの受難、背中を守る規律


『粘液の穴』の探索が始まって数時間が経過した。

洞窟の深部はもはやスライムの飽和状態にあり、壁という壁から「資源」が染み出している。


サキモリはその中心に立ち、一切の無駄を排した所作で精製・採取を続けていた。

しかし、その姿は周囲から見れば「異常なまでの無防備」に他ならない。


「サキモリ殿! 採取に集中しすぎだ、後ろを見ろ!」


アリサが鋭い叫びと共に、背後から迫った巨大なスライム……『岩石粘塊ガンスライム』を重厚な盾で弾き飛ばした。

鈍い衝撃音が空洞に響く。


「……感謝します、アリサ殿。ですが、計算上、エレン殿の索敵範囲に敵性反応はありませんでした」


「索敵漏れではなく、天井から直接降ってきたんだよ! 全く、資源を前にすると貴殿は周囲の安全確認が疎かになりすぎる!」


アリサは憤慨しながら、盾の表面に付着した粘液を忌々しげに払った。


サキモリはと言えば、その言葉を「貴重な指摘」として受け流しながら、インベントリから完成したばかりの数本の小瓶を取り出した。


「……ちょうど良かったです。ルミナ先生に精製していただいた『特級原油』を基材にした、最新の試作ポーション……『中級回復薬・改』です。成分比率を五パターン変えました。……早速、性能試験に移ります」


サキモリはそう言うと、無造作に腰のナイフを抜き放った。

その切っ先が、迷いなく自身の左腕へと向けられる。


「ちょっと! おじさん、またそれなの!?」


ルミナが飛んできて、サキモリの腕をポカポカと杖で叩いた。


「成分が気になるなら、解析魔法で調べればいいじゃない! なんで即座に自分を切り刻もうとするのよ!」


「……いえ、ルミナ先生。魔法による観測値と、自身の肉体が受ける痛覚・再生速度の『実測値』には乖離があります。最も信頼できるデータは、自身の体から得られるもの。これが最短の最適解です」


「サキモリ様、お願いです、止めてください……!」


エレンが縋るようにその手を握り、涙目で見つめる。


「サキモリ様が傷つくのは……たとえ実験であっても、私の心が耐えられません……。どうしてもというなら、代わりに私が……」


「エレン殿、貴女の体は精密な索敵ユニットです。損壊させるわけにはいきません」


サキモリは至極真面目な顔で、エレンの手を優しく、しかし断固として振り解こうとした。


その時、凄まじい金属音と共に、サキモリの目の前に「概念の盾」が顕現した。


「――そこまでだ、サキモリ殿!!」


アリサが『アイギス』の魔法を物理的にサキモリの眼前に叩きつけたのだ。

サキモリのナイフが、強固な魔力の壁に跳ね返される。


「……アリサ殿。実験の妨害はやめてください。規律ある行軍のためには、装備ポーションの性能把握は必須事項です」


「貴殿が言う『規律』の中に、**『指揮官は自己の肉体を大切に扱うべし』**という項目はないのか!」


アリサが盾を構えたまま、サキモリの顔の数センチ先まで詰め寄った。

その瞳には、騎士としての、そして仲間を思う女性としての真剣な怒りが宿っている。


「いいか、よく聞けサキモリ殿。貴殿は我らパーティのリーダーであり、お互いが管理権を預かる兵士だ。我々にとって、貴殿の肉体は個人の所有物ではなく、この『パーティー』を維持するための最重要備品なんだよ! その備品を勝手に損壊させるのは、軍の規律以前に、我々への背信行為だ!」


「……備品の損壊、ですか」


サキモリはナイフを止めた。

その言葉には、彼なりのロジックで納得できる響きがあったらしい。


「そうだ! 安全管理ができない者に、他者の命を預かる資格はない! 試験は実戦で行えばいい。私が前線でわざと傷を受けてこようか? それとも、最初から傷を負わせないように私が守り抜けば、薬の出番などない。……どちらがいい!」


アリサの熱弁に、サキモリはやれやれとナイフを鞘に収めた。


「……了解しました。アリサ殿にそこまで言われては、強行は不利益と判断します。試験は保留。安全第一で進みましょう」


「……分かればいいんだ、分かれば」


アリサが安堵の溜息をつくと同時に、概念の盾が消える。

ルミナは呆れて肩をすくめ、エレンはアリサに「よくやってくれました」とばかりにニコっと笑ってピースして見せた。


「……では、アリサ殿。私の『背後の安全』、引き続き厳重な管理をお願いしますね」


「ああ、任せておけ。……全く、敵より貴殿を止める方が骨が折れる」


凛々しく笑うアリサの盾は、スライムの粘液でベタベタだったが、その光輝は一点の曇りもなかった。

不沈の軍人は、最強の「安全管理者」に見守られ、再び洞窟の奥へと歩を進めた。


第四十五話:完

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