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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第二幕・第二章 :資源戦の幕開け「スライムは原油である」

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第四十二話:スライムは「原油」である

第四十二話:スライムは「原油」である


帝国バルバロイの国境付近。かつて新人冒険者たちが「レベル上げ」のために列をなしていた初心者ダンジョン『粘液の穴』は、今や静まり返っている。

レベル至上主義を掲げていたこの国が崩壊した後、効率の悪い雑魚しかいないこの場所を訪れる者はいない。


「……到着しましたね。以前ルミナ先生と訪れた時と変わらず、少し湿気が強いようです」


サキモリは穏やかに言い、洞窟の入り口に立った。

背後には、重厚な鎧を鳴らすアリサ、音もなく弓を構えるエレン、そして「おじさん、本当にやるのね?」と呆れ顔のルミナが続く。


一歩、足を踏み入れる。

直後、洞窟の天井や壁から「プルン」という湿った音が響き、無数の青い影が降り注いだ。

このダンジョンの主、スライムの群れだ。


「サキモリ様、危ないっ!」


エレンが即座に魔法の矢を番える。

だが、サキモリはその制止を静かな手招きで遮った。


「……待ってください、エレン殿。射抜いてはいけません。それでは『資源』が霧散してしまいます」


「え……? でも、放置すればサキモリ様に粘液が……」


エレンが動きを止める。

彼女の視線の先では、数十匹のスライムが、サキモリの足元で波打つようにうごめいている。


一般的な冒険者なら「不快」の一言で片づける光景。

エレンは首をかしげ、不思議そうに呟いた。


「サキモリ様、これ……ただの粘液ですよ? 経験値にもならず、衣服を汚すだけの、価値なき魔物です。なぜ、これほどまでに執着されるのですか」


サキモリは膝をつき、目の前のスライムを慈しむような、それでいて兵器の整備状況を確認するかのような、冷徹なまでの真剣な目で見つめた。


「……いいえ、エレン殿。それは致命的な誤解です」


サキモリは静かに立ち上がり、視線を洞窟の奥へと向けた。


「……これらは単なる粘液ではありません。過酷な行軍を支え、兵士の命を繋ぐ『血液』であり、巨大な兵器を動かし、世界の構造を変える『原油オイル』です。今、私の目には、この洞窟が世界最大の油田に見えています」


「原油……?」


アリサとエレンが顔を見合わせる。

この世界の住人には馴染みのない言葉だが、その響きに含まれる「戦略的重み」だけは、サキモリの声音から伝わった。


「……では、採取を開始します。ルミナ先生、出力調整をお願いします」


「はいはい、おじさんのワガママには慣れっこよ」


ルミナが溜息をつき、魔力を開放する。

サキモリはインベントリの「分解・貯蔵プロセス」を最大出力で起動した。


ここからの光景は、およそ「冒険」とは程遠い。

通常、冒険者はスライムの核を破壊して倒す。


だがサキモリは、核を避け、その外郭を構成する「体液」だけを、掃除機が埃を吸い込むかのような勢いで、次々とインベントリへと格納していった。


「……第十四個体、確保。成分比率、魔力伝導率ともに良好です。……次へ参りましょう」


サキモリの手が空を切るたびに、スライムたちが「しぼむ」ように消えていく。

核だけが地面にポツンと残り、体液を失った魔物は魔力粒子となって霧散する。


サキモリは「経験値」には目もくれず、ただひたすらに粘液という「資源」を吸い込み続けた。

その動きに淀みはなく、熟練の工員がライン作業をこなしているかのようであった。


「……なんだろう、この……戦っている感じの全くしない、シュールな光景は……」


アリサは、抜いたままの剣を所在なげに弄びながら呟いた。

サキモリが効率的に採取できるよう、アリサは飛散する粘液からサキモリを守るため、常に盾を構えて密着していなければならない。


「……おい、サキモリ殿。私の盾は、邪悪な魔物の爪や、敵国の魔導士が放つ火球を防ぐためにあるんだな。聖騎士団の象徴である『アイギス』を、スライムの飛沫よけの泥除け代わりに使っているのは、世界で私くらいだろう」


「……助かります、アリサ殿。貴女の盾のおかげで、一滴のロスもなく回収できています。これは将来、不沈の進軍を実現するための尊い犠牲です」


「犠牲の使い方が間違っている気がするがな。……まあ、あんたが満足ならいいさ」


アリサは呆れたように笑い、背後から迫るスライムを盾の面で叩き落とした。

もはや戦闘ではない。聖騎士による「環境確保」と、元軍人による「資源採掘」の共同作業に過ぎない。


「……ふふ、いいわね。バルバロイの連中が見たら、泡を吹いて倒れるわよ。自分たちがゴミだと捨てた粘液が、おじさんの手で『不沈の血液』に変わっていくんだから」


ルミナの勝ち誇ったような笑い声が、洞窟の中に響く。

サキモリのインベントリには、見る見るうちに「純度:高」とランク付けされた琥珀色の粘液が蓄積されていく。


「……第百八個体、完了です。……まだまだ足りませんね。この洞窟の全資源を、我々の兵站へと組み込みます」


サキモリの瞳には、一切の迷いがない。

一人の管理者が持ち込んだ「資源の再定義」という革命が、不毛な洞窟を戦略拠点へと作り変えていた。


「……さあ、エレン殿。さらに深部へ。より濃度の高い『原油』を探しましょう」


「はい、サキモリ様! ……あちらの通路に、大きな反応があります!」


嬉々として先導するエレン、文句を言いながら盾を構え直すアリサ、面白そうに杖を振るルミナ。

前代未聞の「資源戦争」は、まだ始まったばかりであった。


第四十二話:完

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