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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第二幕・第二章 :資源戦の幕開け「スライムは原油である」

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第四十一話:逆転の発想、かつての不毛地帯へ

第四十一話:逆転の発想、かつての不毛地帯へ


街道沿いの、何の変哲もない水溜まり。その中央でぶるぶると震える一匹の「青スライム」を前に、サキモリは静かに膝をついていた。


「……サキモリ殿、何をしているのですか。そんな雑魚、放っておいても実害はないでしょうに」


アリサが、抜きかけた剣を鞘に収めながら不思議そうに声をかける。

彼女の背後では、エレンが周囲の索敵を終え、ルミナは退屈そうに道端の草を蹴っていた。


「……いえ、アリサ殿。少し確認したいことがありまして」


サキモリは穏やかに答えると、右手をスライムにかざした。

スキル『調合』が発動する。通常、スライムのような下等な魔物を倒せば、わずかな経験値と共にその肉体は霧散する。

だが、サキモリが行ったのは「討伐」ではなく、生きたままの「分解」だった。


しゅわ、と微かな音を立ててスライムの核が砕け、その体液がサキモリの手のひらへと吸い込まれていく。

彼は、インベントリ内部で進行する解析結果を、網膜に投影されたウィンドウで注視した。


「……やはり。この世界の『スライム粘液』、単なる廃棄物ではありませんね」


「はぁ? 何を当たり前のことを。そんなの、精々安物の糊の材料になるくらいでしょ。おじさん、肥料の次は粘液集めでも始めるつもり?」


ルミナが鼻で笑いながら歩み寄る。

しかし、サキモリは彼女の嘲笑を柳に風と受け流し、手の中に残った無色透明の雫を掲げた。


「……ルミナ先生。貴女の魔力を、この粘液に一パーセントだけ通してみてください。攻撃魔法ではなく、ただの『熱量』として」


「ええ……。面倒くさいわね。……はい、これくらい?」


ルミナが指先で雫に触れる。

その瞬間、雫は眩いほどの青い光を放ち、凄まじい熱を帯びて蒸発した。


「……っ!? な、なによ今の。私の魔力を、これっぽっちもロスせずに熱に変えた……?」


ルミナの目が驚愕に見開かれる。

サキモリは満足げに頷いた。


「……その通りです。この粘液は、魔力伝導率が極めて高く、かつ性質が極めて不安定。だからこそ、特定の触媒と調合すれば、魔力を減衰させずに増幅・伝達する『超伝導溶媒』に変質する。……兵站の観点から言えば、これは食料や水と同等、あるいはそれ以上に価値のある『戦略物資』。つまり、原油オイルです」


サキモリの目が、いつになく鋭い光を宿す。

彼の脳内では、かつての不毛な記憶が、猛烈な勢いで「黄金の地図」へと書き換えられていた。


「……ルミナ先生。思い出してください。私たちが最初に出会ったアルタ王国の次に訪れた、あの帝国バルバロイ。……その外縁にあった、あの洞窟を」


ルミナは一瞬、きょとんとした顔をしたが、すぐに嫌な記憶を掘り起こしたように顔をしかめた。


「ああ……あの『粘液の穴』のこと? 最悪だったわね。魔物は弱すぎて経験値にもならないし、レベル至上主義の勇者共からはゴミ捨て場扱いされてた場所。あんなところ、二度と行きたくないわよ」


「……ゴミ捨て場、ですか。ええ、確かに当時の我々にとっても時間の浪費でした。ですが、今の私にとっては違います」


何の話だと首をかしげるアリサとエレンをよそに、サキモリは立ち上がり、北の空を見据えた。


「……経験値が不味く、誰もが敬遠し、結果として生態系が飽和状態にあるダンジョン。そこには今、無尽蔵の『原油』が眠っていることになります。他者がゴミだと捨てた場所にこそ、我々の継戦能力を永続させるための鍵がある」


「……ちょっと、おじさん。それってまさか」


ルミナが、サキモリの意図を察して不敵な笑みを浮かべた。

かつての二人だけの旅路で「無価値」と切り捨てた場所が、今、最高の「戦略拠点」として再定義されたことに、彼女は痛快さを覚えていた。


「……あの帝国バルバロイの連中が『ゴミだ』と笑ったスライムで、世界を驚かせるポーションを作るってわけ? ……ふん、いいじゃない。最高に性格が悪いわ。気に入ったわよ、その作戦。アリサ、エレン! 準備しなさい、面白いことになりそうよ」


事情は呑み込めないまでも、サキモリとルミナの間に流れる「確信」を察し、アリサが頼もしく笑う。


「……よく分からんが、ルミナとサキモリ殿がそこまで言うなら、ただの洞窟じゃないんだろうな。スライム相手の『資源戦争』か。騎士がやる仕事じゃないが、あんたの描く『不沈』の盤面、最後まで付き合ってやる」


エレンもまた、サキモリの背中に一歩近づき、静かに、しかし情熱を込めて頷いた。


「サキモリ様。了解いたしました。……あそこなら、邪魔な冒険者も少ないはず。存分に、サキモリ様のお役に立てますね」


「……感謝します。では、進路変更。目標、帝国バルバロイ跡地・初心者用ダンジョン『粘液の穴』。全速力で向かいます。……世界で最も贅沢な、補給路を構築しに」


かつて彼らが蔑み、背を向けた廃墟。

今、一人の軍人の「合理性」によって、そこは世界を揺るがす「戦略拠点」へと姿を変えようとしていた。


第四十一話:完

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