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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第七章:不沈の四角形(テトラ)、境界の再定義

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第三十五話:唯一無二の『支点』、管理人の自薦

第三十五話:唯一無二の『支点』、管理人の自薦


極光が消え、硝煙と魔力の残滓が王都ガーランドの空を、煮えたぎるような茜色に染め上げていた。

地平を埋め尽くしていた二万四千の軍勢は露と消え、後に残ったのは、耳が痛くなるほどの静寂だけだった。


サキモリは、自らの体を大地に繋ぎ止めていたアリサの腕が解かれるのを待ち、ゆっくりと肺の底から息を吐いた。

右腕の軍服は熱で焼け焦げ、皮膚からは焼けた鉄のような匂いが立ち上っているが、その表情に苦痛の色はない。


「……終わりましたね。王都は、無事です」


サキモリが振り返る。

そこには、肩で息をしながらも、泥に汚れた顔で笑うアリサがいた。

そして、魔力の枯渇に耐えながら凛と立つルミナと、静かに弓を下ろしたエレンの姿があった。


だが、静寂を破ったのは称賛ではなく、欲に駆られた喧騒だった。

避難していた各国の使節や公国の重鎮たちが、獲物を見つけた獣のようにサキモリへと群がってきたのだ。


「サキモリ殿! 実に見事な戦功だ! ぜひ我が国の終身最高顧問として――」

「いや、公国の総帥として残るべきだ! 望むだけの恩賞は出すぞ!」


サキモリは、その卑俗な騒めきを、感情の抜け落ちた瞳で見つめた。


「……滅相もございません。私は特定の国に縛られるような器ではありません。ただの、一介の歩兵に過ぎませんので」


丁寧な、しかし一切の交渉を拒む、冷徹な一線。

サキモリは彼らに背を向けると、自分を支え抜いた三人の前へ歩み寄った。


「ルミナ先生。あなたの緻密な魔導制御がなければ、私の腕は一射目で消し飛んでいたでしょう。エレン殿。あなたの眼がなければ、私は暗闇の中を闇雲に撃ち抜くことしかできなかった。……お二人のおかげで、私はまだ生きて、ここに立っています」


サキモリは、軍人が戦友に対して捧げる、最大級の敬意を持って二人に深く頭を下げた。

そして、最後の一人――自らの肉体を背後から抱き、衝撃のすべてを引き受けたアリサへと向き直った。


サキモリは懐から手拭いを取り出し、アリサの頬に付いた煤を、不器用な手つきで、しかし慈しむように拭った。


「……アリサ殿。今回の結果から、一つの確信に至りました。私は、自分一人で戦うことしか知らぬ、欠陥だらけの兵隊でした。ですが……私の背中には、あなたがいなければならない。私の命の支点は、あなたでなければ務まらないのです」


まっすぐに、逃げ場のない眼差し。

サキモリにとっては「戦術的な必要不可欠性」を述べた言葉だったが、そのあまりに真摯な声音は、黄昏の静寂の中で、別の意味を持って響いた。


「これからは……私の全存在を、あなたに預けたいと考えています。私という兵器の管理を、生涯、あなたにお願いしたい。……私の隣に、居てはくれませんか」


アリサは目を見開いたまま、言葉を失った。

サキモリの不器用な言葉は、アリサの胸の最も柔らかい場所に、深く、鋭く突き刺さった。


「……お前、それは。……本気で言っているのか?」


「私は、嘘はつきません」


アリサの顔が、煤の汚れすら隠しきれないほど赤く染まる。

彼女は唇を噛み、サキモリの胸を力一杯に突いた。


「……いいだろう! 私は今日で、この国の盾を辞める。これからは……世界を守ると言うお前の隣で、世界を守る盾となってやる! 私が一生、お前の隣でその無茶を叩き直してやるからな!」


アリサはそう叫ぶと、肩にかかっていた「公国騎士団長」の証である重厚なマントを、その場で無造作に解き、石畳へと投げ捨てた。


サキモリは地面に落ちた真紅のマントを静かに拾い上げ、アリサの肩に、再び――今度は一人の女としての旅装として、丁寧にかけ直した。


「……その言葉、心強い限りです」


「ふん、おじさんにしては最大級のプロポーズね。アタシがいなきゃ死んじゃうって、素直に言えばいいのに」


ルミナが頬を染め、そっぽを向きながら呆れたように笑った。


「アタシの魔導回路を冷却装置として使い続けたいなら、責任取りなさいよ? ……まあ、アンタをこれ以上放っておくなんて、アタシのプライドが許さないから」


「……わたくしも。サキモリ様の網膜に映る景色は、わたくしが共有し続けます。……わたくしの目も、心も、この命のすべては、既にサキモリ様だけのものですから」


エレンの瞳には、献身を超えた底知れぬ情念が宿っていた。

彼女は吸い込まれるような笑みを浮かべ、サキモリの影を慈しむように見つめる。


サキモリは、自分を囲む三人の「熱」を感じ、初めて胸の奥が静かに満たされるのを感じていた。

孤独な歩兵の旅路は、ここで一度、終わりを告げる。


「……さて。参りましょうか。次の境界へ」


夕陽を背に、四人の足音が重なり、王都の門を越えていく。

一点の盾として死地を彷徨った男は、今、かけがえのない三人の戦友を得て、果てなき荒野へと再び踏み出した。

ここまでで第一幕は一区切りになります。

テトラの4人が揃い、物語としての基礎が整いました。


本編では描いていない時間帯として、

彼ら彼女らの休日や日常の会話、4人での生活の様子などを別の場所にまとめています。


物語の本筋には直接関係しないため、読まなくても問題ありませんが、

キャラクター同士の距離感や関係の変化をもう少し具体的に見たい場合は参考になると思います。


URLはこちらです。

(note)https://note.com/huusui_9029

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