第三十四話:無傷の連射、極光の掃射
第三十四話:無傷の連射、極光の掃射
「――総員、衝撃に備えて。……来ます」
サキモリの網膜に、エレンから転送された三つの演算座標が、鮮烈な真紅の十字架となって固定される。
右腕を固定するアリサの強固な拘束。肩に添えられたルミナの手から流れ込む、冷却を兼ねた莫大な魔力。
不沈の軍人は、異世界において初めて「個」を捨て、四人で一つの「完成された火器」と化した。
「第一射。……放」
サキモリが右手の槍を、前方の空間へと鋭く「突き」出した。
瞬間、槍の先端から眩いプラズマの奔流が噴出し、大気をプラズマ化させながら正面の魔導艦隊へと伸びる。
ドォォォォォォン!!
投擲ではない。槍を保持したまま、エネルギーのみを指向性衝撃波として射出する。
本来ならばサキモリの右腕を内側から焼き切り、その身を後方へと弾き飛ばすはずの反動が、彼の背中を抱きしめるアリサの「不沈の盾」を伝わり、王都の地盤へとダイレクトに放出される。
「くっ……あああああッ!」
アリサが歯を食いしばり、呻き声を上げる。
大地が鳴動し、楔として打ち込まれた盾の周囲にクレーター状の亀裂が走る。
サキモリ一人の肉体では受け止めきれない「世界の拒絶」を、アリサがその魂ごと肩代わりしていた。
「観測。……アリサ殿、いけますか」
「……やれ、サキモリ! まだ……膝なんて、笑ってないぞ!」
アリサの不敵な言葉を確認したサキモリの瞳が、再び機械的な冷徹さを取り戻す。
かつては一発放てば半日の沈黙を要した「神の一撃」。それが、四位一体の構造を得た今、無慈悲な「連射」へと変貌する。
「ルミナ先生、バイパスの熱量を大地へ。エレン殿、第二目標、偏差修正。……次弾装填、コンマ二秒」
「任せなよおじさん。……熱は全部、アリサの盾に放り込んであげる!」
「……修正完了。サキモリ様、いつでも」
サキモリの指先が、流れるような動作で次なる「突き」を繰り出す。
「……発射」
二射。三射。
一射ごとに王都の空が白銀に染まり、衝撃波が雲を散らす。
正面の侯爵ルードヴィヒが率いる魔導艦隊は、自分たちの常識を遥かに超越した「二射目」を前に、回避の機を失った。
「馬鹿な……! あの兵器は一度切り、再装填には膨大な時間がかかるはずだ! なぜ、なぜ連射が可能なのだッ!?」
魔族たちの絶叫は、続く光の雨に呑み込まれた。
かつての投擲による「点」の破壊ではない。これは、圧倒的な連射による「面」の制圧。
一撃の威力こそ投擲に劣るものの、コンマ秒単位で叩き込まれる累積ダメージが、魔導艦の防壁を紙細工のように引き裂き、その内部構造を分子レベルで分解していく。
「東門へ転換。……発射。北壁へ転換。……発射」
サキモリの動作には、もはや一切の迷いも無駄もない。
彼はただ、三人の少女という精密な歯車と噛み合った「撃針」として機能していた。
アリサが衝撃に耐えて呻くたびに、ルミナが魔力のバイパスを制御し、エレンが敵の急所を暴き出す。
サキモリの姿勢は、嵐の中でも微動だにしない。
「……次弾装填、コンマ二秒。……発射」
それは、美しくも残酷な蹂躙の光景だった。
三方向から王都を包囲し、勝利を確信していた二万四千の軍勢は、今や巨大な光の鎌に刈り取られる雑草に過ぎなかった。
重力弾の照射地点は、着弾よりも早くサキモリの極光によって粉砕され、大地の臨界は回避される。
「目標全群の八〇パーセントを消失確認。……掃射、最終段階へ移行します」
サキモリの声には、勝利への陶酔も、敵への憎悪もない。
ただ、自分を支える三人の鼓動と、それに応える自らの右腕の熱、その「機能的な結びつき」に対する深い信頼だけが、彼の内側に静かな充足感を与えていた。
かつて孤独な戦場で、己を摩耗させながら戦い抜いた三十年の日々。
その果てに辿り着いた「正解」が、今、王都の地平を極光で塗り潰していく。
「これで、最後です」
サキモリの槍から放たれた最大出力の掃射が、魔族貴族連合の旗艦を悉く消滅させた。
光が止んだ時、王都の周囲にいた二万を超える軍勢は、霧散した魔力の残滓へと姿を変えていた。




