表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第七章:不沈の四角形(テトラ)、境界の再定義

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/133

第三十一話:『一点』の限界、三極の同時包囲

第三十一話:『一点』の限界、三極の同時包囲


1.詰みの盤面


平和の余韻は、冷徹な死の予感によって焼き切られた。


王都ガーランド。その外縁に広がる地平を、三つの巨影が塗り潰している。

北のバルバロイ国境、死霊騎士団を率いる伯爵・骸のアルド。

西のアルタ国境、魔獣の群れを統べる子爵夫人・双頭のイザベラ。

そして正面、魔導艦隊を並べるは――侯爵・重力のルードヴィヒ。


「……敵勢力、およそ二万四千。三方からの完全包囲ですね」


三十を越えた軍人の顔に、疲労の色は見えない。

サキモリは、眼下に広がる絶望的な戦列を、双眼鏡も使わずに見つめた。


魔族貴族連合。

彼らはサキモリという「不沈の個」を殺すことではなく、彼が守ろうとする「拠点の破壊」を目的として論理を組み立ててきた。


「私一人を相手にするなら、二十四時間でも戦い抜けます。ですが、相手は私と戦うつもりはないようです。……一方向でも迎撃すれば、残り二方向から王都は五分以内に消失します」


王都を包囲する魔力障壁が、重力魔法の直撃を受けてガラスのように砕け散った。

悲鳴が上がる。騎士たちが崩落する瓦礫に呑まれる。


サキモリの瞳に宿る光は、静かに、そして正確にこの戦場を「敗北」と断じていた。


2.穏やかな独走


「おじさん、何を呆っとしてるんだ! 早くあの槍で、ドカンと一発……!」


ルミナがサキモリの腕を掴む。

だが、サキモリはその手を優しく、包み込むようにして外した。


彼の瞳には、共に死線を潜り抜けてきたはずの情熱は一滴も残っていない。

そこにあるのは、整理のついた書類を眺めるような、静かな軍人の眼だ。


「……申し訳ありませんが、槍は使いません。一発撃って隙を晒せば、その瞬間に王都は灰になりますから。……これより、防衛任務を『殿しんがりによる時間稼ぎ』に移行します。アリサ殿」


サキモリは、血の気の引いた顔で剣を握るアリサへ、いつになく物腰柔らかに告げた。


「全騎士団および市民の避難を急がせてください。私が前線で敵の目を引き付けます。私の生存能力に賭けて全軍の敵意を固定させれば、市民の脱出経路は確保できるはずです」


「な……何を言っているのですか、サキモリ殿! 貴方一人で、二万の軍勢の前に出るというのですか!?」


「私を殺すには、彼らは軍勢のすべてを私に注ぎ込む必要があります。……市民が国境を越えるまでの時間は、私が稼ぎます。大丈夫ですよ。それが最も効率的ですから」


サキモリは、明日の天気を語るような穏やかさで、自らの肉体を「時間」という単位で差し出した。


3.静かなる切断


「ふざけないで! あんた、また一人で勝手に終わらせるつもりでしょ!?」


ルミナの叫びも、サキモリは穏やかな微笑みを浮かべて聞き流す。


「ルミナ先生、エレン殿。……君たちの魔力は、避難民の足を一歩でも先へ進めるために使ってください。私に回すのは、少し勿体ないですから。……これ以上の問答は時間の浪費です。私は、私の命を使い切って、王都を逃がします。これが今の、最適解です」


サキモリは槍を一本握り締め、瓦礫の山を軽やかに飛び越えた。

一度も振り返らないその背中に、エレンが震える手で矢を番える。だが、射ることはできなかった。


「……私一人が盾になれば、全員が助かります。……これ以上の正解は、ありませんよね」


荒廃した戦場へ、ただ一人歩みを進める軍服の青年。

その足取りはどこまでも丁寧で、そして絶望的に孤独だった。


三人の少女が必死に築いてきた絆を、サキモリは「周囲を巻き込まない」という究極の配慮によって、今、静かに切り離そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ