第二百六十七話:【怠惰の治癒:理を曲げる粘液】
第二百六十七話:【怠惰の治癒:理を曲げる粘液】
人としての姿と色彩を取り戻したマヨは、サキモリから手渡された最高級ポーションを少しずつ口にし、ようやく一息ついた様子だった。
わずかに顔色が戻った彼女に対し、サキモリが真っ先に頼んだのは、壁に叩きつけられた仲間たちの救助だった。
「いいんじゃないかな。約束だものねぇ」
マヨが指を鳴らすと、虚空から薄黄色の粘液状の物体――治療用スライムが数体召喚された。
彼女はそれらをベッドのように平たく並べると、意識を失っているルミナ、エレン、アリサ、ミャオをその中へ沈めるようサキモリに促した。
「ボク自身は回復魔法系統とは相性が悪くてね。そのまま治癒魔法を使っても、ボクのレベルじゃこの深手の傷は治せないんだよね」
マヨはポーションの瓶をちびちびと傾けながら、その特異な治療法を解説し始めた。
「そこでこのスライムの出番さ。これにはボクの『弱体化』のベクトルを捻じ曲げた効果が付与してあるんだ。『怪我』や『病気』といった体調不良そのものを弱体化させる……つまり、無効化の領域まで追い込むわけだね。屁理屈みたいな回復装置だけど、時間はかかる代わりに手足がちぎれるような重傷でも元通りにできるから、割と便利なんだよ。欠点は、少人数にしか使えないことと、完治まで時間がかかることくらいかなぁ」
淡々と語る彼女の横で、サキモリはルミナたちの呼吸が安定していくのを「構造」の変化として確認し、安堵の息をついた。
「ポーションのお代わりはいかがですか?」
「いやいや、普通にそれはお腹がつらいからいいよ。ボクの体格でがぶ飲みなんて無理だからねぇ」
サキモリの差し出した二本目を、マヨは顔をしかめて断った。
どうやら魔王としての絶大な力を持っていても、身体的な許容量は見た目通りに幼い少女のそれであるらしい。
「それでは、マヨさんの体力が回復したところで、先ほどの約束通りスキルの秘密についてお話を伺いたいのですが……大丈夫でしょうか?」
サキモリの問いかけは、どこまでも丁寧で穏やかだった。
だがその瞳は、この世界の「構造」の核心を射抜こうとする、冷静な観測者の光を湛えていた。
「……あはは。本当に君は、休ませてくれないねぇ」
マヨは苦笑しながら、空になった小瓶を床に転がした。
その眼差しは、先ほど自分を叩き伏せた「神」を宿した男に対し、隠しきれない敬意と純粋な好奇心で満ちていた。




