第二百六十二話:【超越の一撃:構造の破壊者】
第二百六十二話:【超越の一撃:構造の破壊者】
サキモリはアイテムストレージから、鈍い銀光を放つチタン超合金製の安全帽を取り出し、全員に手渡した。
「気休めで申し訳ありませんが、洞窟が崩れそうなときはこれを被って身をかがめてください。問題がないのを確認できたら、後で返していただければ結構ですから」
淡々と、しかし有無を言わせぬ口調で告げると、サキモリはアリサとエレンを背後に下げ、巨大な粘膜の壁と対峙した。
「なにをするつもりなんだい?」
興味深げに目を細めるマヨを余所に、ルミナは「まさか……」と顔を青くした。
アリサはサキモリの意図を察し、「なるほど」とヘルメットを深く被り直すと、概念盾『アイギス』を巨大な屋根のように展開して全員の頭上を覆う。
エレンは祈るように手を組み、ミャオだけが「なんだにゃ?」と首を傾げていた。
「全力で一撃、いきます」
サキモリが静かに呟いた瞬間、彼の内部で「構造」の組み換えが始まった。
ドクン、という重い鼓動。
心拍数が爆発的に跳ね上がり、一般人の三倍の速さで心臓が脈打ち始める。血圧三倍、血液量三倍。
そこから生み出される出力は筋力三十倍、回復力六十倍、酸素供給六倍。身体能力のすべてが乗算的に膨れ上がり、サキモリの意識は極限の反射神経へと没入していく。
代償は、全身を襲う凄まじい破壊だった。
血管は断裂し、神経は悲鳴を上げ、常に呼吸困難に陥るほどの激痛が走る。破裂しては超再生を繰り返す毛細血管から噴き出した血飛沫が、サキモリの全身を禍々しい黒い霧のように包み込んでいく。
サキモリは低く姿勢を下げ、右拳を腰に溜めた。
「――っ」
全力の中段正拳突き。
放たれた一撃の風圧だけで洞窟の壁と天井には無数の亀裂が走り、ダンジョン全体が巨大な地震に見舞われたかのように激しく揺れる。
サキモリの正面は、理を捻じ伏せるほどの光の奔流に飲み込まれた。
「なんなんだにゃぁああああ!」
ミャオの悲鳴も、アリサの展開したアイギスの防壁を叩く猛烈な爆風にかき消される。
やがて土煙が晴れたとき、そこには先ほどまで道を塞いでいたスライムの痕跡など、細胞一つ分すら残っていなかった。
黒い霧が霧散していく中、サキモリの傷だらけの体がわずかに発光し、静かにレベルアップの報を告げていた。




